ガタンゴトンガタンゴトン・・・・
Tの住む駅発私の家行きの電車は、キラキラとした太陽を浴びながら、川を渡り大きな町へと向っていた。春休みで遊びに出掛ける同世代の人達があげる笑い声が車内に響く。
「聞いてよ、この前○○ちゃんがさぁ~・・・・・」
日常生活の一コマを話題にしながら止めどもなく続く会話を、私は頭の上で聞きながら寝ているふりをしていた。ただでさえ涙が止まらないのに、そんな会話を聞くと、いっそう涙が溢れてくる。
『なんでこんな辛い目に遭わなきゃいけないんだよ!』
日常を誰にも語ることもできずただ泣くことしかできない私と、目の前にいる女子二人。その間にある深く長い溝を感じずにはいられなかったのだ。社会と私はあまりに遠い。徹夜明けでボロボロになった私には、いつにもましてそのことがこたえる。
『どうして私はこんな風に生まれたんだろう?!』
『もし私がオトコだったら・・・!』
頭も垂らし寝ているフリをする私の背中に太陽の温かな光があたっていた。光を見ることができない私の目に映るのは、ガムがへばりついた床と顔の見えない目の前の女子の白いハイヒールだった。
「どこに行ってたの!こんな時間まで!!」
行方知らずになった娘に母は激怒の声をあげて迎えた。無視をして2階の自室に上がろうとする私に母の手がかかる。
「ちゃんと説明しなさい!!アンティル!!!」
抵抗する力もなく、ただただサングラスをかけたまま下を向き続ける私に母の手が飛んできた。
「・・・・・・・」
サングラスが玄関に落ちた瞬間、私の止まらない涙は声を上げ始めた。止めたくても止まらない。涙も声も感情も震えもすべてがいつまでもいつまでも私のカラダを揺らす。歩くことも出来なくなった私に母はどうすることもできなかった。
『とにかく早く休みたい。この服もこのバリバリもすべてはずして眠りたい・・・』
倒れこむようにたどり着いたベッドの中で、靴下を脱ぎ、服を脱ぎ、バリバリに手をかける。丸1日ぶりの解放。しかし私を締め付けるそれをはずそうとした時、私の手は動かなかった。マジックテープをはずし、乳房がポロンと現われるいつものその光景を見ることがどうしても出来なかったのだ。
どうして私はこんな風に生きてるの?どうして私はオンナが好きなの?
どうして私はこんなカラダをしているの?どうして私は生きているの?
どうしてどうしてどうして・・・・・
たくさんのどうしての中で“T”と書かれた金のペンダントがいつまでも私の頭の中で揺れていた。