今私はダイエットをしている。きっかけは、スーパー銭湯の大きな鏡だった。
その日は時間が早いせいか、いつもより人が多かった。
こんな日は注意が必要だ。切除した胸とギネスブックまであと少しの腕毛をタオルで隠し、そのガードの固さと反比例するように、まんこをしっかり見せるようなタオルさばきが求められる。特に危ないのが脱衣所だ。
『あ?ぁ気持ちよかった』
などと、感嘆のため息を落としているうちに、明るい蛍光灯が私の腕毛を浮かび上がらせ、疑惑の目を育ててしまう。パジャマに着替えるまでは気が抜けない。私は髭がうっすらと残る顔を見られまいと、うつむき加減でカラダを拭きあげる。
その日、私は横にいる誰かの視線に細心の注意を払っていた。
“その人”は私のすぐ横にいるらしい。顔を合わせることだけは避けなくてはならない。いつもより下を向き、着替えを急ぐ。ほのかに私の目の端にうつる“その人”は年の頃40代。“おばさん体系”と世に言われる体系の持ち主だった。ほぼ私と同じスピードで着替えをする“その人”に見られまいと、パンツを履こうとしたその時、私はバランスを崩し“その人”の方へクルッと向いてしまった。
『しまった!』
“その人”と目を合わせた瞬間、私はあまりの衝撃にパンツを落としてしまった。“その人”、それは鏡にうつった自分の姿だった。
突き出たボヨボヨのお腹。何か入っているのかと思うほど膨れ上がったお尻。
衝撃の瞬間とはまさにこの時をいうのだと思った。私のカラダは“おばさん体系”も超えた醜い肉の塊だった。
1年ほど前から、私は女湯でジロジロと見られることがなくなった。
それは髪型のせいだと思っていた。(余談)最近私は美容院に行くと必ず言うことがある。『フェミニンな感じにしてください。』毎回フェミニン、フェミニンばかり言っているので、担当の人は気味悪がってあまり口を聞いてくれない。(余談終わり)
しかし、それは髪型のせいではなかったと、この日私は気がついた。この体系のおかげだったのだ。“おばさん体系”銭湯においてそれはオトコでもオンナでもないもう一つの存在なのだ。 “オンナ”か“オトコ”かという疑問の対象からパスされる存在、“おばさん体系”。“おばさん体系”は軽がると性別を超えたのだ。
その恩恵に感謝しながらも、私は自分だと認識できないほど膨れ上がったカラダを改造する決意をした。しかし、日頃身についた不摂生はなかなか断ち切ることができない。コンビニで思わずプリン。夜中2時にアイス。自己嫌悪の日々が続いていた。そんな時、ある事件が起こった。
その日は春を先取りしたような暖かな陽気だった。コートを脱いで薄手のセーターを着た私は東西線に乗っていた。夕方4時、私は満席の座席の前でつり革を握る。目の前には新聞を読むサラリーマン。そのサラリーマンが新聞を読み終え、私を見上げたその時、そのオトコは私に慌てて席を譲ったのだ。
「あっ!すみません気がつかないで」
私は妊婦さんに間違えられた。
しかも顔には2ミリほど伸びた顎鬚。その髭を視線から消し去るほど、私のお腹は膨れていたのか。この日以来、私はダイエットに突き進んだ。
とにかくカラダを動かす。先週末も御茶ノ水で用事を済ませた私は、次の目的地である駒込までの間、約5キロを歩いて移動することにした。晴天の暖かな日。早くも3キロの減量に成功した私は、目標の10キロ減に向けて夢中にウォーキングを始めた。腕を大きく振って早足早足!ワンツーワンツー。信号だって止まっちゃいけない。足踏みをして信号を待つ。ワンツーワンツー。
ちょうどウォーキングを始めて5分、そこには若いエネルギーが溢れていた。ラブピース・クラブがある本郷、東大前。上空にはヘリコプター、赤門には“合格発表”の文字。私はそのエネルギーを渇望するように、大勢の人が流れ込んで行く東大構内に吸い寄せられていった。しかし私はウォーキング中。ここでウォーキングを止めるわけにはいかなかった。有酸素運動は20分以上運動しないと効果がないという。私はちょっとした満員電車のような構内で、ウォーキングを死守する。腕を降ってももを高く上げ、ワンツーワンツー。抱き合いながら歓喜する人、サークルの勧誘をうれしそうに受ける人、「だめだった。」と電話をしている人。その横を溢れるエネルギーに幸せな笑みをたたえる私が通る。左にはテレビカメラ。右には胴上げをする人達。ウォーキングの姿勢を整えたまま、ワンツーワンツ。そんな私の前にはほんの小さなスペースが出来ていた。
暖かな春です。ダイエット。私の決心は固い。
先日、アンティルのハーネスワークショップを行いました。ハーネス&ディルドのイメージを語りながら、自分の欲望を言葉にするという時間は私にとってはとても楽しい時間でした。チンコとのセックスの真似事だと思われがちなハーネス&ディルド。その楽しさをたくさんの方と共有できたらいいなぁと改めて思った時間となりました。参加していただいた方、遅くまでありがとうございました。