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捨ててゆく私 VOL.018 フィッシング

茶屋ひろし2007.03.30

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携帯電話を紛失しました。ある日二丁目で酔っ払って、どこで落としたかわかりません。翌日、昨夜飲んでいたお店をあたり、歩いた路上を辿り、交番も訪ねてみましたが、行方知れず。諦めて新しい携帯電話を買いました。番号とアドレスは変えませんでした。すると、ヘンな電話がかかってきました。

03から始まる見覚えのない番号。末尾が1234なんて、そんな人、聞いたこともない。出ないまま放っておくと、留守電にテープの声が残されていました。語りが途中から始まります。女性の声で、「~お支払方法はコンビニATMをご利用ください。あなたの現在の使用料金は、1、100円、です」

意味がわからない。その後毎日のように、その留守電は吹き込まれ、四日目からテープは男の声に変わりました。「ただちにこちらまで電話してください。電話なき場合は高額請求となります。電話番号は03~」

怖い声、ヤクザみたい。番号を繰り返すたびに、段々声が大きくなります。脅迫しているような声。思わず電話をしなければいけない気になりました。するとそばにいたバイトちゃんが、「そういうのはすぐ着信拒否にするの!」と教えてくれました。

そのことを周囲の人に話したら、それは典型的な「フィッシング」だと言われました。そこで電話をしたら、恐ろしいことが起きるそうです。そこで、よのなか悪い人がいるものねー、と他人事のように呆れていた私は、ハタと気がつきました。前の携帯電話はまだ見つかっていません。きっと見つからないだろうと思います。が、もし悪い人に拾われていたらどうしよう。ご存知のように、携帯電話の中にはたくさん個人情報が詰まっているのです。私のことよりも、他の人の情報がバレてしまう。その携帯電話はもう使えなくなっていますが、充電さえすれば、他の人たちのアドレスや番号を見ることが出来るのではないか・・まあ、たいへん!

とりあえずその場にいた人たちに謝りました。とりあえず末尾が1234の電話番号にはお気をつけください。
「そんなことよりエロ画像はだいじょうぶ?」
ニヤニヤしながらバイトちゃんが聞いてきました。
「ないよ、そんなの。あったとしても、私はいくらでも見られてかまわないよ」

それは本当。でも、いったい何を言い出すのかしら、と思っていたら、話した人たちが次々に、そこを突いてくることが判明いたしました。ということは、みんな、人に見られては困る画像を携帯電話に保存しているのね。好きな俳優の写真とか、エロビデオの男優とか、はたまた自分の裸とかセックスしているところとか。

それは単に見られて恥ずかしいから困るのか、ゲイだということがバレるから困るのか。質問したら、「両方!」という答えが返ってきました。それはそうか。

そういえば先日、二丁目にテレビカメラが来ていました。野次馬で表に見に行くと、高田純次がいました。カメラの前で、なにやらリポートをしています。背後でスタンバイしているのは、二丁目のバーのママさんたち。
そんな番組があるのね、深夜放送かしら。

お店に戻ってバイトちゃんに高田純次がいたことを報告していたら、カメラと照明を持ったそのテレビ局の集団がお店の前を通り過ぎました。そのとき、カメラマンがお店の中にカメラを向けたのです。
やだ、どうしよう、テレビに出ちゃう。
私は思わず、笑顔で手を振りかけました。すると次の瞬間、隣にいたバイトちゃんが大声で怒りました。
「困ります! 勝手に映さないでください!」
やだ、その通りだわ。私は慌てて笑顔を取り消しました。店内にいたお客さんもカメラの存在に舌打ちしています。カメラマンはニヤニヤしながら通り過ぎていきました。

バイトちゃんはその様子にいっそう腹を立てて、私に「ほんと常識ないよねー、ああいう人たちって!」と吐き捨てるように同意を求めてきます。「そ、そうね。ほんとだわ!」必死で合わせました。

そのあとテレビ局の人たちはまた近所で、取材を始めた模様。先ほど舌打ちした若いリーマンのお客さんは、何度も表を窺って、帰りたいけど、まだここを出ることが出来ない、というジレンマを動きで表現されていました。
勝手にプライヴァシーを暴かれてしまうことへの抵抗は、ゲイでなくても持っているもの。私はテレビカメラに映ることに抵抗を覚えない時点で、なんだか人としてダメで、そういう人は他人のプライヴァシーも守れないんだわ、と思いました。しかも、ゲイのお店で働いている立場としてもダメ。

エロ画像くらい誰に見られてもかまわない(画像ないけど)、なんて欲望のままに生きている私は、すぐになにかに釣られて、自分だけではなく他人に被害を与えてしまう可能性があるということ。本当は、1234の電話の声より、そっちのほうが怖いんだわ、と思いました。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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