セックスに明け暮れた高校時代がもうすぐ終わろうとしていた。
卒業式まであと2日。見慣れたセーラー服を着る学生が駅から学校へと群れをなす風景をぼんやり眺める私は、駅構内のキオスクの前にいた。この日をどれだけ待ち望んだことだろう。Kとの関係を知り、数日泣きはらした私にはもはやこの場所は日常の一部ではない。よく知る風景なのにどこか違う星の世界にいるような妙な気分。「ドラえもんに確か街も人もコピーされた別の星が登場する話があったなぁ」チカチカ点滅する信号をぼんやり眺めながら、私はただTだけを待っていた。
あの日から2日後。バイトに行くことができなかった私はさんざん迷ったあげく、久しぶりの登校日にいつもの場所で待っていることをTに電話で告げた。
「いつもの時間に待ってるから。」思い詰めたような私の声にTはYESかNOかわからない返事をする。
「明日は8時15分からだっけ?」
「そう。いつも通り。」
いつもと言いながら、その言葉が悲しく朽ちていくようで泣きそうになった。
その朝はとても天気がよかった。
たった数週間の歳月も、卒業を間際に迎えた学生にとっては懐かしさを募らせるのに充分な時間だ。久々の再会に抱き合う人、手をつなぐ人、みんなが笑顔でキラキラしていた。私を見つけては噂話を始める人たちも今日だけは私に気がつかないようですんなり目の前を通り過ぎてくれる。
7時52分。
Tが乗る電車が着く時間が迫っていた。
目の前でTが立ち止まるのか、通り過ぎるのか。
「とにかく顔のチェックだ!」私はサラ金の小さな看板が張り付いた据え置きの鏡を見ながら、顔のチェックを始めた。
「何もなかったように、いつも通りにTを迎えるんだ。アンティル!」
爽やかな朝に不気味な笑顔が浮かび上がった。
私にできることはいつも通りの私でいること以外ないように思えた。
「T~、なんか痩せたんじゃない?」
友人Aと話しながらTはやってきた。
私までの距離、3メートル。このまま私を無視して通りすぎたらどうしようとドキドキしながらその距離が縮まるのを待つ私。そしてあと1メートルという所でTの足は止まった。
「おはよう。」
「おはよう。」
久しぶりだった、私の前にいたTは私がよく知るTがいた。Kの前で聞いたことがない笑い声を上げるTでもなければ、男達に囲まれながら私を疎ましく思うTでもないT。
「アンティル。久しぶり~。」
ハイテンションでばか騒ぎしている友人Aにつられるように私とTはいつもと
同じ朝がある世界に戻っていった。