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私はアンティル vol.61 イチゴ事件その3 ~悲しみ電車~

アンティル2006.12.15

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プルルルル
アンティル「T、本当のことを教えて。Kと付き合ってるの?」
T「付き合っているわけないじゃない。何でもないって。」
アンティル「わかったよ。じゃあ明日バイトで。」
T「じゃあね。」
アンティル「・・・・」

深夜の電話。ずっしりと重い受話器の先で電話を切る音が聞こえた時、私は今起きている事の重大さを思い知った。
『何でもないはずはない・・・。』
それはTと私の喧嘩の法則が初めて破られた夜でもあった。
喧嘩の最後はセックス。これがTと私の喧嘩の法則だった。
"なぜオトコじゃないのか" というTの問いが喧嘩の原因だったから、解決策のない問題に私達は言葉のいらない快楽を選ん
だ。そしてセックスはそんな問題をも簡単に飛び越える瞬間を作り出し、解決にも勝る世界を見せることで問題を先へと追いやってくれた。ある時はホテルで、ある時は団地の踊り場で、電話越しの喧嘩の時はテレフォンセックスで。
しかし、この夜Tはテレフォンセックスをしようと言わなかった。

余談になるが、初めてTから「テレフォンセックスをしたい」と、言われた時の戸惑いを私は忘れることができない。テレフォンセックスといえばオヤジ。私は「今どんな色のパンツを履いてるの?」「胸を触ってごらん。ウヒヒ」と笑うオヤジの顔を思い浮かべ、オヤジの顔を丸く切り取り抜いてみた。
『出来ない! そんなオヤジになれというのか!!』
私は心の中で悲鳴を上げる。そしてもう一方で『どうやったらなれるだろう?』と必死に考える。
私が行く道は、一つしかない。
「△???<?#%(すみません。恥ずかしくて書けません。)」
修羅場を乗り越えるため残された道はただ一つだった。
私受話器を握りしめたまま、神経を集中させ力を込める。
『私の中に宿るエロよ。力をかしたまえ!!』
1つき経つと、私は見事なエロオヤジに変貌していた。
バイトへ向う電車の中で、私はTとKの顔ばかり浮かべていた。
『どうしたらいいんだろう・・・』

目の前では同じ年頃のカップルが楽しそうに話している。
私には手に入らないであろう人目を気にせずじゃれ合う無邪気な恋人との時間。
サングラスに真っ黒なロングコートを着た謎の人物の熱い視線にギョッとする2人の姿がレンズ越しに見える。
『私は何て青春とは無縁の場所にいるのだろうか・・・』
電車の窓には大きな夕日が落ちていた。
つづく・・・

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アンティル

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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