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捨ててゆく私 VOL.010. 一触即発

茶屋ひろし2007.02.02

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来年、二丁目の近くに地下鉄の駅が出来るらしいです。それに合わせてか、三丁目にいま、巨大なビルがつくられています。マルイと映画館が入るそうです。この動きは、去年、石原都知事が、歌舞伎町と二丁目の環境を整備しなければならぬ、と発言したことと関係しているのかしら。私には、意味のわからない発言でした。

いまだにわからない。わかりたくもないわ。
二丁目なんて、平和な町なのにねぇ(歌舞伎町と並ぶ意味もわからない)。
先日、仕事を終えて帰ろうと、店の前に止めてある自転車に近づいていったら、目の前で、私の自転車のカゴに飲み干したペットボトルを捨てた人がいました。驚きました。捨てたのは、体格のいい熊みたいなゲイ。同じような体格のゲイと喋りながら、私の前を歩いて行ったの。どうしようと悩む前に、私はペットボトルを拾い上げると熊に向かって突進していました。私は熊の肩を飛び上がって叩くと、振り向いた熊に、何て言おうかと考える前に、こう言っていました。

「ちょっとあなた、いま、コレを私の自転車のカゴに捨てたでしょう。こういうことはしないでくれる? ゴミ箱なら、ここにあるでしょう!」
と、店の前に設置してあるゴミ箱を指差して、そのペットボトルを捨てました。
熊は即座に謝りました。「ごめんなさい!」
「よし!」

そう言って、平然と自転車に戻った私は、乗って走り出してから、びびりました。
あら、いまのって、一歩違えばヤバイ展開になっていたわね・・。
ていうか、ノンケ熊だったら喧嘩になって私がやられていたかも。ああ、よかった、ここがゲイの町で。
それは偏見かもしれませんが、そう思いました。

また先日。いつものようにお店で働いていたら、隣のバーから、なにかがぶつかったような物凄い音と怒鳴り声が聞こえました。まあ、喧嘩かしら。耳をすましても、中がどうなっているのかわかりません。
すると外から、どこかのお店のママさん(短髪・ひげ)が「ビリー! ビリー!」と叫びながらやって来て、隣のバーに飛び込みました。そのママさんの声だけはっきりと聞こえます。「ダメでしょう、ビリー! ここは〇〇さんのお店よ。よそのお店でこんなことしたらいけないってあれほど言ったでしょう!」。
すぐにまたなにかにぶつかった音がして、隣のバーから黒人の男の子が転がるように出てきました。彼は興奮しながら、「だってあいつ、俺のこと、泥棒、言った」と胸を叩きながら日本語で言います。
ママさんはバーのドアの前で仁王立ちになり、「いいじゃない! 泥棒でもなんでも! そう言われたくなかったらこの店に来なければいいでしょう! それより警察を呼ばれて暴行罪でつかまる方がいいっていうわけ! 違うでしょう! あたしが言っているのはもっと自分を大事にしなさいっていうことよ!」とまくしたてました。するとどうでしょう。男の子は胸を叩くのを止めて、ブーイングの手つきをして黙って去っていきました。
まあ、お見事!
私は心の中でママさんに拍手を送りました。
暴力が、起きなかった・・!(店内で物は壊れていたかもしれないけど、怪我人はいなかった模様)
彼が泥棒の容疑をかけられている問題については、後日、シラフのときに話し合えばいい。
もしこの場でそれに同調してしまったり、あいまいな対応をすれば、かならず暴力沙汰になる。
そんな場面だった、と思ったのです。

そして昨日。
ひとりの女の子が歌いながら、二丁目の通りを歩いていたそうです。
「イっちゃいなーイっちゃいなー、ヒガシヤマノリユキ、イっちゃいなー」
私は目撃していません。あとからその話を聞きました。歌いながらウチのチェーン店をひとつずつ覗いていったのだそうです。
スタッフのおねえさんは、店内で歌い続ける彼女に困ってしまって、「申し訳ないけど、外で歌ってくださらない?」とお願いして表に出てもらったそうです。
ところが、ウチの一番若いバイトちゃんが、そのあと、別のチェーン店の入り口で中を覗きながら歌っていた彼女を、いきなり片手でつかんで通りへ放り投げた(!)、のだそうです。幸い女の子に怪我はなかったそうですが、女の子はそれきり歌うのを止めてどこかへ去って行ったのだそうです。
ていうか、放り投げた?
それは都知事の言う「整備」といっしょ? しかもウチの子が・・。
キレても暴力を使わない方法を考えなさい、ってビリー(じゃないけど)、あれほど私が言っていたじゃない。
でも私はその後、ウチのビリーと、その事件について、どうしても話せないままでいます。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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