話が長くなってしまってすみません。前回の続きです。
そんなわけで、翌日、新宿伊勢丹地下に午前10時、寝起きでぼんやりしたまま向かいました。
下着売り場に着くと、後ろからポンと肩を叩かれました。振り向くとスーツ姿のパンツさん。
あらこの人、仕事は何をしているのかしら?
ふと思ったけれど、それを口に出すまもなく、挨拶もそこそこに、ほとんど言葉も交わさないまま、TOOT(ブランド名)のコーナーへうながされ、「これいいんじゃない? これも好きでしょう。サイズはS? M? Sだよね」といった具合にお買い物は進み、気がつくと、包装されたパンツが2枚入った伊勢丹の紙袋を手渡されていました。
早い。正味、5分も経っていないのでは。
「まだ時間あるよね? ちょっとお茶しようか。平気?」
はぁ。
階段を急ぎ足で昇るパンツさん。後を追って表に出る私。パンツさんが私とお茶をしようと計画していた団子屋は、まだ開店していませんでした。「ドトールでいい?」
へぇ。
ドトールでコーヒーと、なんとかサンドをご馳走してもらいました。なぜかお絞りを3つも渡され、よく手を拭くようにと言われました。言われたとおりに手を拭く私。それからやっと、パンツさんの仕事の話を聞くことが出来ました。北陸から東京に出てきて、某大企業の広報を、もう20年近くやっているそうです。だから時間の合間を縫って、平日でもこうして自由がきくのね。私の仕事についても言われました。
「しかしアレだよね、大変でしょう、あの仕事も。なんだか人生の底辺を見るようで(笑)」
ホモエロビデオ屋の店員が、ですか。
「だってさ、ヘンなヤツがたくさん来るでしょう。大変だよね」
オマエだよ。って、言えないか、コレは。私はパンツの入った紙袋を見ました。
帰り際に今後の話をされました。
「またいつでも(パンツ)買ってあげるよ。僕はそういうのじゃないから・・だからセックスとかそういうのを求めているわけじゃないから」
まだ午前10時台です。私はこれから出勤します。
「来週、仕事終わったら食事しようよ」
はぁい。って、まだ流れに乗るのかよ、私。この人とはセックスできないと思うよ、私。
そんな自己確認も忘れた頃、パンツさんはある夜、私の仕事が終わった頃に車で迎えに来てくれました。ファミレスに連れて行ってくれて、ご飯とビールをご馳走してくれて、入り口の自販機でタバコを3箱買ってくれました。パンツさんは酒もタバコもやらないそうです。
帰り道、「ちょっとドライブしてもいい?」と新宿をぐるりと回り始めました。
車中、パンツさんは突然、助手席にいる私の手を握って来ました。ふにゃ、とした感触。私はパンツさんの手を退けました。「ダメ?」と聞かれて、「駄目です」と答えました。そのあとドライブはすぐに終了し、二丁目まで送ってくれるとパンツさんは謝りました。「ごめんね」「いえ、こちらこそ色々買って頂いてもらっているのに・・」「いや、それは僕がしたいことだから、あなたに謝ってもらうことはない・・」「それじゃあ・・」バタン。
その後、もう一年になりますが、パンツさんになにかをプレゼントされる関係は続いています。
パンツはあれから数枚買ってもらいましたが、今はもっぱら銀座やデパ地下のお菓子やケーキをもらいます。いつも私の職場に持ってきてくれるのです。さすが広報、すべて美味しいものばかりです。デートは久しくしていません。私は、やっぱり、パンツさんと寝ることは出来ませんでした。
パンツさんはまだ諦めていないようです。パンツさんが20年近く二丁目に来ていて、酒場にもハッテン場にも行かず、こんな方法で男の子(キャ)と仲良くなろうとしてきたのかと思うと気が遠くなりそうです。パンツさんに幸あれ、とは思うんだけど・・。
ところが先日、下着姿を見せてくれない? と電話で言われて、すべての謎が解けた気がしました。
オレじゃなくて下着姿が好きなだけだったのかー!! 幸せかも、この人。