ある日、私のバイトしているビデオ屋に、しょぼくれた身なりのおっさんが、酔っ払って入ってきました。午後ですよ、午後。いままでずっと飲んでいたのかしら。しかも平日。
そしたらとつぜん大きな声で、
「ボクはノンケなんですけどぉ、この辺でボクみたいなものが楽しめる、おかまバーはありますかー?」
と聞いてきました。
ボクみたいなもの、って何?
わたしたち、今、初めて出会ったのよ。
あと、オカマじゃない人が、「おかま」って言うと、やっぱりムカつく。
「ノンケですけど・・」って前置きもヘン。
やだ、この人の台詞、ぜんぶおかしいじゃない。
「ありません」
そっけなく答えました。
(ほんとは「知りません」が妥当)
こういうときは、私もつい語気と態度が荒くなるので、こういう見た目のおっさんは、それだけで振り払えます。
おっさんはうなだれて出て行きました。
でも先日来たノンケの男子たちは。
推測するに、あれは現役大学生とその0B。たったの3人だったけれど、みんな体が縦にも横にも大きい。ラグビー部か柔道部だと思いました。夜のゴールデンタイムにヤツラはやってきました。
私の働いている店は入り口も店内も狭いウナギの寝床です。私はいつも入り口のそばにあるレジカウンターの中にいます。ちょうど店内もお客さんでごった返していて、ヤツラは体もでかいし入り口狭いしで、私のいるカウンターの前から奥に進めなかったのでした。
すると、先陣切って入ってきたOBが、後ろの後輩2人に向かって、店内を親指で差して、私の目の前で、にやにやしながら、まわりに聞こえるような声で。
さて、なんと言ったでしょう。
わたくし、息が止まるかとおもいました。
「コイツらみんなホモ」
アンビリーバボー!
(でも確かに、それは、そう)
続けて私に向かって、
「おまえ、ホモ?」
ムカつくわねー、その笑顔。
おまえ、ってなによ!
(でも確かに、それも、そう)
気がつくと私は可愛く(主観)、「うん、ホモ」って答えていました。
すると気を良くした若いおっさんは、
「オレらの中で言ったら誰がモテる?」
と調子をこきました。
回答1、はあ? とシカト。
回答2、あら、それぞれみなさん、おモテになるわよ
回答3、よくわかりません。
回答4、・・
回答例が一気に出てきて困りました。でも怒らせたらやっかいだから、2か。
どんぴしゃり。その答えを聞くと、彼は満足気に出て行ってくれました。
私に残されたものは、怒りと恐怖と、あとは欲情。
ということは、最初のしょぼくれたおっさんには、発情しなかったから怒りだけだったのかしら・・。
「うん、ホモ」なんて、可愛く答えたのは防御だけでもなかったのね。ほんとは、ノンケ男子に好かれたくて、しょうがないんだわ。私は、ゲイをわざわざ見物しに来た彼らより、保守的なのかもしれません。
―― 今年は大好きなLOVE PIECE CLUB で書かせていただけることが決まって、とても幸せでした。北原みのりさんとスタッフの方々、そして読んでくださっている読者の方に、心より感謝しています。来年もどうぞよろしくお願いします。みなさま、良いお年を!