2週間ほど前、私は北原さんと共に札幌に向った。大きなスーツケースの中には北原さんのトークショーの時に紹介するラブピースクラブの商品と、パレードでの出店で販売するバイブやディルドが詰まっていた。ゴロゴロゴロ。振動でバイブのスイッチがONになるブルブルブル。私はバイブが唸るスーツケースを転がしながら快晴の札幌に降り立った。
『あーあ~なんて気持ちいいんだろう。今晩の温泉が楽しみだなぁ。』
2泊3日の札幌の旅の始まりである。
北海道。それは忘れられない思い出がある地である。忘れもしないあれは1年前のこと。私は雄大な北海道に似合う大きな露天風呂(男湯)で一人の男にまんこを見られてしまった。ツルンと足を滑らし男の前でまんこを全開にしてしまったのだ。その時「はっ!」と顔色を変えた男の姿が昨日のことのように脳裏に浮かぶ。(「アンティル・ミーツ・ちんこ4」にて記載 ) いつもは胸とまんこを隠すようにオドオドと慎重に温泉に入るのに・・・。客の少ない広々とした温泉を前に解放的な気分になった私があの失敗を生み出してしまった。今でも思い出すと赤面してしまう1年前の出来事。
私は今晩の温泉に浮かれる自分を制するように、あの日の失敗をはっきり思い出していた。肌寒い秋風が私を戒める。
その日の宿は北原さんお薦めのカプセルホテルだ。すすきののど真ん中にあるそのホテルには温泉がついている。滑らかな湯がすすきのネオンを忘れさせる露天風呂。キラキラと赤く光るローズマリーが入ったジャグジー。久々の温泉に私は胸をときめかせた。男湯への嫌悪から(アンティル・ミーツ・ちんこにて紹介)女湯に入るようになった私は、この1年で髭さえ剃れば入ることができるようになった女湯に入る。ここなら転んでもワハハで済まされる。安心安心。
しかし、更衣室は要注意だ。これまでにも女湯で騒動を起こしてきた私にとっては難関である。「男じゃないのあの人?!」と噂を立てられないように、私は心を引き締め、静かに足をすべらせ人と行き交う。
「ははははぁ」
笑い声が上がる更衣室に私は安堵する。
『よかった。だいじょぶそうだ。』
しかし、次の瞬間、周囲の視線が私に集まった。
『しまった・・・ばれた?』
慌ててマンコを強調する私だったが、更衣室は怒り包まれていた。
Aさん「臭い! 誰よ!!(怒)」
Bさん「あの人だよ!ちょっと信じられない。こんな所でなんてことするのよ!!!(怒)」
Cさん「えっ!どの人!!」
Bさん「ほらあの人だよ!!!!!(怒)」
怒声が響く更衣室の中で3人が私を睨んでいた。とても怖い顔で睨んでいた。
『そんな・・・・・・・・。』
またしても私は札幌の地で失敗を犯してしまった。オナラをしてしまったのだ。
『そんなこと言ったって3日便秘なんだもん。温まって腸が動いてるんだもん。・・・』
私は怒りの視線を受けながら更衣室を退場した。
ショックだ。みじめだ。まんこを見られた時よりも、女湯で「あの人男じゃない?!!」とヒソヒソ言われた時よりも落ち込んだ。私は心に傷を負った。“臭い” 私をひどくみじめにさせるこの言葉。この言葉の正体はなんだろう。
みじめでみじめで、自分が汚い虫けらにでもなったようだった。更衣室を後にしても、その言葉が私の耳から離れない。
「臭い。」
『・・・・・・』
私は自分がどんどん小さくなって、消えていってしまうんじゃないかとさえ思った。
あれから2週間。私はようやくあの言葉から立ち直った。
付き合っている人の前で平気でオナラをしてきた自分。
オナラが特別な鬼門の産物でもなかった私。
その私が他人から名指し(指差し?)で「臭い」と言われ落ち込んだ。
男じゃない? とひそひそされたときよりも、惨めな気分だった。
その謎はまだ解けない。パレードが終わった9月の終わり。東京の地で私は考え始めている。
お知らせ
このコラムを原作としたマンガが「本当にあった笑える話」(ぶんか社)が坂井恵理さんの手により再び掲載されることになりました。前回、期間限定で同雑誌で紹介されたものが読者の方から好評だったということで、10月よりレギュラー掲載となりました。タイトルは「うで毛放浪記」。北原さんがつけてくれました。よかったらのぞいてみてください。セブンイレブン他、各コンビニで発売しているそうです。
またイチゴ事件の続きは、また来週に。