1週間ぶりの再会はあっけなく終わった。
「T~~!」工場の2階から歓喜の声を上げる私にTは冷たく視線をそらした。Tの目はいつにもまして周囲を気にしている。
トントントン・・・。木で出来た階段をはしゃいぐ男子高校生の声と共にTが上がってくる。
「大丈夫だった?」目の前に立つ私に向けられた言葉には心がなかった。
『どうしたんだよT~! 1週間の間に何があったんだよ~!・・・』
私はバクバクと鳴る心臓の音を聞きながら、真っ黒い不安の渦にカラダのすべてが吸い込まれていくのを感じていた。
キンコンカンコン♪
夕方5時。遅出のバイトのために作業開始のベルが鳴る。私とTの作業位置は机を隔てて2メートル先。こんなに近くにいるのに、Tは遠い。チラチラとTの様子を窺う私の存在などないもののように、Tは隣の男と話し続ける。
「休憩にしようかぁ!」
働き始めて2時間あまり経って工場長が休憩の合図を出した。その声と共にパートの主婦の一人が給湯室にある小さな台所に向った。みんなのために用意した旬の苺を洗うためだ。私とTそして男子高校生もお茶を用意するために給湯室を目指した。
『今だ! Tと話が出来る!!』
しかしTの横に行こうとしても、男達がピッタリと着き、入り込むことが出来ない。相変わらず私を気にすることなく、男と談笑する姿に私は呆然と立ちすくむしかなかった。
『・・・・・・・』
その時だった。Tの横で作業していたさわやか青年風の男子高校生Kが、苺を洗う主婦に怒鳴り出したのだ。
「クソばばああああー! 苺洗うのに何、ライポン(食器用洗剤)使ってんだよーーー」
Kは敵意を剥き出しにして、苺をライポンで洗っていた主婦を怒鳴り散らした。
「苺はライポンで洗うもんなのよーー」
主婦も負けじと対抗している。
「そんなわけねぇだろうーー」
「じゃあアンタがやりなさいよ!」
小さな台所は苺をめぐる修羅場となった。苺はボールの中でぽつんと
揺れている。私は何やらヒソヒソとTに向って話をしているKに近づいていった。
『K、それはあまりに近くないかぁ???!』
ただならぬ雰囲気に私は釘付けになったままさらにKに向っていく。次第に二人の会話が私の耳に飛び込んでくる。
K「・・・むかつくよなぁ。あの婆。」
T「ホント、嫌な奴!」
私に気がつかないT。TとKの間に流れる親密な空気の中に私は無意識に入って行った。
『なぜそんなにあの主婦を攻撃する??! なぜそんなにくっついているの???』
怒りにも似たドス黒い嫉妬の波が私を覆いつくそうとしているのを感じながらも私はそれを払うことが出来なかった。
満月の月がオレンジ色に光る春の夜、気がつくと私はTの手をひっぱり工場を飛び出していた。