『Tが男とSEX・・・!!!!』
電話を切った私は、Tの住む街にほど近い風俗街に向かうために電車に飛び乗った。所要時間は約30分。いてもたってもいられなくなって、先頭車両を目指し車内を走る。私は運転席と乗客スペースを隔てるガラスにへばりつき、運転手の手元を凝視していた。
『早く。早く!もっと早く!!』
心の中で叫ぶ私の声は、誰にも届かない。左腕にした時計の針は私に変わらぬ現実を突きつける。W駅とO駅の所要時間はいつもと同じ5分だ。
私に突きつけられている現実は、とても受け入れがたいものだった。ほんの数時間前にいつものように学校で仲良くセックスしていたTが、他の人とSEXしているかもしれないという現実。その瞬間を時間という流れの中で共有しているかもしれないという妙な感覚。頭の中では、Tがあの街に立ち、声をかけられラブホテルのヒラヒラとしたのれんをくぐる後姿がドラマのワンシーンのように流れ続けていた。あまりに劇的で衝撃的な展開に、私の頭はフリーズ気味だった。
焦って熱くなるカラダを置き去りにして、頭だけがカラダから切り離されていく。
『これって現実?』
学校帰りの学生達の賑やかな声が、とても嘘ぽく聞こえて私だけが違う次元を生きているようにさえ感じる。
“ガタンガタタン”
Tが住む県へ向って、電車は県境の河を越える鉄橋に指し掛かる。空を遮るものがない河の上で、大きな大きな夕日が車内をいっぱいにする。私は、この時の夕日を忘れることができない。運転手の帽子までもがオレンジ色に変わっていくような、深い夕日。夜に向って落ちようとするその先には、何が待っているのか。電車はTの街を目指し、河を渡った。
Tがこの街に行く時は、必ず自転車だった。混み合うバスは時間にルーズであてにはならず、15分ほどの道のりをこぐのが習慣だったのだ。
『Tがいるところには必ず自転車がある!』
キャバクラやソープの客引きの声を聞きながら、私はネオンでまっピンクに染まる街に飛び込んでいった。
この風俗街の端から端までは歩いてだいたい20分くらいだ。
両端にはラブホテルがひしめき合い、ホテルに挟まれるように様々な風俗店が立ち並んでいた。私はTの姿を探しながら、左端のラブホテル街を目指し走り出した。ないことを願いながら探す、Tの自転車。青く錆付いた自転車は20メートル先からでもわかるほど見慣れている。必死の形相で私は自転車を探していた。車道、ホテルの駐車場。私はその都度、安堵のため息をついていた。
『もしかして家にいるかも?』
私は、ほのかな期待からTの自宅に公衆電話から電話をした。
『出掛けたっきり帰ってないみたいなの。たぶん1時間くらい前に出たんじゃない?』
『やっぱり・・・』
Tの不在を告げる母親の声は、私を打ちのめした。私を待ち受けている現実がどんどん大きなものとなって、迫ってくる。
『急がなきゃ!』
右端のラブホテル街を目指し、私は再び走り出した。
そのラブホテル街には、私とTの常宿が複数ある。
『まさか・・・』
気がつくと空は真っ暗になっていた。