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高校時代、私は初めてオンナとつきあい。そしてセックスにはまった。それまで私のカラダの中だけで流動していた欲望が放たれた瞬間、私はその快感を、手放すことができなくなった。そしてその欲望を守るために、私はどんどん男になっていった。

私が初めてつきあった人、Tは、私に男を求めた。オンナである私を好きになった自分への嫌悪は、あらゆる場面で爆発し、私の存在を否定する爆弾となって私に降ってきた。Tが私の行動を見てオンナだ!と感じる時に、その爆弾は突如として投げられる。

手を前でクロスしてTシャツを脱ぐ私を見て爆弾一発。
男ならは手を後ろにまわし、首根っ子をつかむようにしてTシャツを脱ぐという。
両足をそろえて横にして座る私を見て爆弾一発。
男は断然あぐらである。
セックスで濡れまくる私のまんこに足が触れ爆弾一発。
・ ・・・。
どうにも変えようのない私のまんこにTは絶望し、自爆する。
それでも私とTはセックスをやめることができなかった。

男養成ギブスをはめ、男化していく私にも、どうしても出来なかったこと、したくなかったことがあった。それは自分を“俺”“僕”と言うことだった。自分を僕、俺という言葉で表すことは、私にとってオンナが好き、オンナとのセックスに対する欲望を捨てることと同じ、私を諦める行為に思えたのだ。だから「ホントに男だったら自分のこと俺って言うだろう!」と、ケンカの果てに絡む男に対しても、私は自分を“僕”“俺”とは呼べなかった。Tシャツの脱ぎ方や、座り方を変えた時には感じなかった、自分を放棄する恐怖。私は私だ。格好や仕草がどんどん男化していく私は、私を捨てられないと強く思う自分に出会った。

しかし、“私は本当に私でいいのだろうか?” 僕、俺と言えない自分を知った時、私は、それまで無意識に使ってきた“私”という呼び方に疑問を覚えるようになった。『なんかそれも違う感じ。だったらなんと呼べばいいんだろう?』私は自分に合った呼び名を自分で考えた。そしてそれはすぐに決まった。“私は人”である。そして私は人になった。

「私はねぇ、こう思うんだ~」=「人はねぇ、こう思うんだ~。」

大抵の人は「人って誰?」と聞き返してくる。なかなか不自由だ。一人称がないに等しい私の会話はどんどん分かりにくいものになっていく。

「人ってアンティルのこと? 私のこと?」「人は人だよ!」「・・・・・」
私はあくまでも“人”という一人称以外使わなかった。
そして、私は理解されない一人称を使って自分を主張する、困難な道を歩き始めた。

一人暮らしを始めた大学生の頃、急病で入院することになった。携帯電話もまだ持っていなかった私は、会う約束をしている友達に今の状態を知らせる手段として、公衆電話から自宅に電話し、留守電の応答メッセージを吹き込んだ。

「はい、人です。ただいま入院しています。約束をしている方すみません。・・・」

退院して帰ってきたら、留守電はパンク状態だった。
この奇妙な応答メッセージが、友達の間で話題になり、みんながメッセージを聞くためにかけてきたのだ。留守電を再生すると、どれも用件には笑い声が入っていた。「ねぇこの留守電面白いでしょう?」友達が知らない誰かに話しかけている声が聞こえてくる。私はげっそりと痩せたカラダで留守電を聞き続けた。しかし、励ましのメッセージを入れるものは誰一人ない。退院してはじめて学校に行った日、大丈夫と心配されるより、「留守電聞いたよ!ワハハ」と爆笑され、私は軽く傷ついた。

社会人になって、私は“私”という言葉を社会人のマナーの一つとして使い始めた。そして少しだけ“私”を受け入れ始めた。
今の私は、長い間お世話になった“人”の変わりに、プライベートでも“私”を使っている。しかし、今でも私は“私”と言う時、少し身構えてしまう。僕ではない、俺ではけしてない、自分はチンコ臭い、あたいはキャラ違い、おいらはまぬけな盗賊みたい、人? 私????????
私は何だろう?
自分を表す言葉がまだ見あたらない。

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アンティル

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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