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私はアンティル vol.20 男たちの世界

アンティル2005.08.11

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昨日、私は仕事で月に1回行っているミーティングに参加した。男3人女4人が参加するこのミーティングは、毎回3時間の話し合いが行われる。私はこのミーティングに出るといつもドッと疲労する。今までで特に疲れたのは、“今日本に何が一番必要か”という議題が男達から上がった時だった。『なんで、そんなチンコな議題に、つきあわなきゃいけないのか』と、私はため息をつきながらも、どうちゃかしてやろうかと、機会をうかがっていた。しかし、いつになってもそのタイミングはやってこない。

「今の日本に必要なのは家族愛だ。俺達は俺達の責任として家族という形、家族愛のすばらしさ広めなければいけないのではないか、そうすれば少子化問題なんて起こらない。」

私と最年長のN(オンナ)を残し、他の参加者は時間を追うごとにボルテージを上げて、家族愛を訴えていた。そんな空気の中で私はたまらず、

「それは、家族を作ることはすばらしいという価値基準の押しつけだ! 何の論議もしないで価値を勝手に作って、従えなんて、あんた達はアメリカと同じだ!」と真っ向から攻め込んでしまった。『しまった~』間髪入れず反論は、私に向けられた。「家族愛を否定するなんておかしいんじゃないの?!」「愛の必要性を問う必要なんかないだろう」私は冷血なレジスタンスのようになってしまった。そんな時、隣で黙っていたNが泣きながら話し始めたのだ。

「私の家族は家族愛なんてものからほど遠い家族だった。だから家族はすばらしい、それがふつうの家族だと言われると、自分の家族って何なのかと思って辛くてしょうがない。」

いつもみんなのまとめ役で、冷静沈着なNの意外な姿にみんなは驚いた。

「そうだね。Nさんやアンティのような境遇の人もいるんだよね。でもだからこそ愛を説かなきゃいけないんじゃないだろうか。」

『私の境遇って・・・』いつの間に私は、性同一性障害のために、家族を作れない可哀想な人にさせられ、家族愛論議の餌食となってしまった。

この時、家族愛の必要性を説いたのが、男根主義で、強い日本と団欒する家族の復活こそが、日本を救うと信じている男Gと、オンナに優しいと、最近人気急上昇の20代のインテリ男Fだった。このFが登場した2年前から、このミーティングは異様なものになっていったように思う。Fは、「俺は空手の有段者なので、人を殴ると怪我をさせてしまうから絶対殴らないんです。押忍」といいながら拳骨を見せたり、ティッシュがないと探しているオンナのために、さりげなくコンビニに行きティッシュとハンカチを持ってくるような男なのだ。

私の周りでは今、このFの評判がうなぎのぼりに上がっている。物腰が柔らかく、聞き上手なF。しかしこの男、実は男の連帯感こそが世の中の秩序を守ると本気で思っているチンコなのだ。Fのちんこマジックは相当な威力を持つらしく、ばかげた男の友情物語も、Fにかかれば男にも女にも優しいできた男のもの語りに転換されてしまうのだ。

昨日のミーティング中、隣の部屋からホワイトボードを貸してほしいと一人の女性が現れた。ドアから一番遠いい所にいるFは、すかさずドアにストッパーをかけ、女性がホワイトボードを楽に運べる道を確保した。それを見ていたオンナ全員が、うっとりとした表情を浮かべ、Fの優しさと男らしさについて語り始めたのだ。私は「騙されないで!」と、言葉が喉から出かかったが結局何も言うことができなかった。

戦後60年をむかえ、組まれている番組を見ながら、私は男達の手によってゆがめられた世界を男達が救う物語が始まっていることを、あらためて実感した。そして私が参加しているミーティングでも、今まさにその物語は進行しているのだ。Fへのオンナ達の評価を見て、私がいらだってしまうのは、オンナ達がその物語の存在に気が付いていないと感じるからだ。しかし同時に私は思う。気が付かないほど、この男達の世界にオンナ達はどっぷりつき合わされているのだということを。
環境が人を作る。環境が人の行動や、言動に影響をあたえ、人を従わせ、感じる能力さえ奪ってしまう。傷つける相手と慰める相手の顔が一緒だと気が付かなくなるほどに、いつのまにか私達は麻痺させられ変えられているのかもしれない。そんな危険性を私は感じずにはいられない。

私は長い間、男を演じてきた。オンナが好きならば男にならなきゃいけないと思って男の真似をしてきた。どこまでが演じて作ってきたもので、どこまでが、もともとあったものなのか、私にはわからない。そう思うとひどく不安な気持ちになるけれど、“オンナを好きになるのはオトコである”という世界に合わせようとしていた自分がいたことを、私は忘れないでいようと思う。今私が置かれている社会を疑う。自分を疑う。その必要性を感じた1週間だった。

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アンティル

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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