先日、私は韓国のレズビアン&ゲイパレードに参加した。
立っているだけで日射病になるのではないかと思ううほど、日差しの強かった日曜日の午後、私と友人Nは、パレードの出発点であるソウルのチョンミョ公園に向かった。チョンミョ公園は、朝鮮王朝時代の王と王妃を祀った廟で、世界遺産でもあるチョンミョへの入り口にあたる、日比谷公園に似た公園だ。
北原さんのコラムにもあるように、この場所はオヤジ達のたまり場で、大きなカラオケセットを囲んで演歌を歌う20人程のオヤジ集団や、何やら真剣に話している10人ほどの集団など、無数のオヤジの円がいたる所にできている異様な公園だった。見渡す限り、オヤジオヤジオヤジの山。私とNは、北原さんがスピーチするというメイン会場を目指し、オヤジを掻き分けながら公園の奥へと続く道を進んだ。会場が近づくにつれ、パレードの参加者らしき人が多くなり、もういい加減オヤジはいなくなるだろうと思いきや、オヤジは減るどころか、新たな群を作り、私たちと同じ方向へ向かって歩き出していた。楽しそうに歩いているレズビアンやゲイの人々の群の中で、ゾンビのようにゾロゾロと歩くオヤジの群。まったく違う2つの群は、1つの流れとなってレズビアン&ゲイパレードの会場へと向かっている。群の中にいるオヤジが、群から外れた所にいるオヤジに声をかけ、どんどんオヤジ達の群は膨らんでいった。「おい、あっちで水くばってるぞ!」「裸のねーちゃんがいるぞ」オヤジの目的は、パレードの参加者に無料で配っていた水と、ドラッグクイン達の露出した体だった。「は~ぁ」。私はうんざりしながら、照りつける日差しの中を歩き続けた。
その時だった。私の腕を誰かが背後から掴んで引っ張ったのだ。私はおもいっきり力を入れて、その手を振り払おうとしたが、その手はますます力をいれて私の腕を放さない。私はその手の主を睨みつけながら、もう一度思いっきり振り払った。背後にいたのはオヤジだった。オヤジは私に怒りをぶつけるように叫んでいた。この時初めて、私はこの国でレズビアンやゲイで生きることの大変さを知った。怖かった。“もしこれが人が少ない道だったら”“夜の公園だったら”と思うとぞっとした。
20代の頃、私は時々ひどく恐怖をおぼえる時ががあった。いつかレイプされるかもしれないという恐怖だった。
男のような格好をしながらも、女であることがバレバレで、一目でレズとわかった10代の後半から20代前半にかけての私は、お酒を飲んでいる時よく男達に声をかけられた。「君ってレズでしょ?」「ねぇ女同士ってどんなセックスするの?」「俺も交ぜてくんない?」「男がいた方がいいでしょう。女同士じゃ物足りないでしょー」と。
ある日、知り合いがやっているカウンターだけの小さな店で私が飲んでいると、「どんなセックスをするのか」と、隣のオトコがしつこく声をかけてきた。私は知り合いの店だということもあり、安心して怒りを露わにして「あんた失礼だよ。あんただって初対面の人に、どんなセックスするのか聞かれたらむかつくでしょ。」と言い返した。オトコはヘラヘラと笑いながら「だってね~」と周りの人に同意を求めた。クスクス笑い声があがる店内。知人だった店主までも笑っていた。すごくショックだった。“レズ=セックス”“レズなら聞かれて当然。そのくらいいいじゃない。”という笑いだった。安全だと思っていた場所で起きた日常の出来事。私は集団暴力を受けたような気がした。私のセックスが私のものではなくなるような、私の快楽までもが易々と男に奪われていくような悔しさ。そして、そんなオトコ達を黙らすことが出来ない自分自身に私は苛立った。
20歳の頃、高校時代からの友人であるBに「今付き合っているH君を紹介したい、会ってほしい」と言われた。「Hは苦労人で理解のある大人だから安心して。アティルがレズだってことも言ってあるから。」と、Bは言った。半信半疑ではあったが、「Bが言うなら」と、私はBとHとご飯を食べに行くことにした。私を尊重するかように、言葉を選びながら私のセクシャリティについて質問し、「わかる。わかる。」とやさしく理解を示すHに、私はこんな男もいるんだなぁと、ちょっと嬉しくなっていろんな話しをした。少し未来が明るくなるような、そんな気分になって私は家に帰った。その次の日、Bから電話がかかってきた。
「昨日は楽しかったね。そうそうHが言ってたよ。『他の奴じゃわからないかもしれないけど、あぁ見えてもアンティルは弱い傷つきやすい女の子なんだよ。男のような格好をしていても、根は違うんだ。俺にはそれがわかるんだ。アンティルのことをちゃんと理解するオトコに早く出会って幸せになってほしいよ』って。Hって凄いよね。初めて会ったのに、アンティルのこと理解して。私、この人だったら結婚してもいいって思った。」Bは受話器の向こうで一方的に話していた。
この時、私はオトコはすごいと思った。レズのことも理解出来ちゃう俺。ホントの私とやらを見つけらる俺。そんな俺って凄いでしょう。と、Bにアピールできちゃうずうずうしさ。私という存在を無視し、易々と自分の中に私の存在を吸収していくオトコに、私は愕然とし、信じた私がバカだったと後悔した。そして私はそんなオトコに出会うたび、いつか私はレイプをされるかもしれないという恐怖を感じるようになった。「女同士よりオトコのセックスがいいに決まってる。俺は何でもわかっている。俺が分からせてやる。」とオトコを振りかざし、奉仕のレイプをしようとするオトコ達が私の頭の中に住み着いていた。最近は忘れてしまっていたが、そんなオトコ達の姿を、私の腕をつかんだオヤジは思い出させてくれた。そして、そんなオヤジがウヨウヨいる韓国で生きるレズビアンの人達の現状に、私は思いをはせずにはいられなかった。
パレードの話しはつづく