2016年1月末に、「第3回 女性の健康と安全でない中絶」という国際会議に出席して来ました。ふうう。濃ゆかった。
朝 から晩まで中絶の話で、さすがに気分が悪くなるほど、世界の中絶事情を学んで来ました。何を今更、と思いますか?安全でない中絶って、ど この国の話?日本にいるとそんな感じでしょうか。しかし。日本は、その中にあって、土俵にも乗れない、いわば蚊帳の外、なんですっ!
その壱:データがない。日本の中絶は、刑法堕胎罪があり(その時点で×)、母体保護法で免責されていますが、医師の届け出制のため、実数把握に問題あり。また、研究者レベルでの小規模データはあるとしても、中絶前後の女性の身体的問題に関すること、中絶方法の検討などがほとんどない。これは私たち女性医師にも責任があるかも知れませんが、デー タがなければ議論できない。
その弐:日本の中絶方法は古くて、WHOの 基準では安全でない方法とされている!このことは知らない方が多いのではないでしょうか。そもそも中絶は切羽詰ってどこかに駆け込むわけで、前もって中絶するならココ!なんて決めている人はたぶんいないので、美容院選びとはわけが違う。処置も最新式か旧式かなんてもちろ ん、痛みや辛さを誰かと共有したり比較することもできない。闇の世界になってしまっているのです。それでも引き受けてもらえれば有難いと いうレベルです。
じゃあ、海外はどうなの、というと、オランダなどは、中絶を考えた女性はまず、ゆっくりと本当はどうしたいのかを相談します。産んで育てる、 里子に出す、中絶する、をそれぞれの選択肢とその後を話し合い、当事者の決定を支持します。女性の意思があくまでも尊重されます。親や彼 がおろせと言ったから、なんていうのは聞かなくて良いのです。
そして、方法も選びます。現在60か 国で認可されている中絶ピルで流産を起こすもあり、日取りを決めて手術もあり、その手術も日本ほど物々しくなくてMVAという手動真空吸引法という簡便で安全な方法を使用します。
今回の国際会議で、何が切なかったかと言えば、こうした方法がないだけでなく、女性の身体権が徹底的に議論されていて、中絶ピルによる処置 の医学管理はどこまで必要か、という議論がされていたことです。日本の女性は、社会的にも医学的にも管理されることに疑問を持っていない、あるいは持つことを期待されていない、日本からみたら途上国と思っている国にあるものが、日本にはないということなのです。
どこから、何をしたらいいのか途方に暮れるほどのギャップでした。幸い、先進国はそうでない国のお世話をしたがり、何かするなら応援するよ、と言ってもらえましたし、日本でもMVAが認可になり、中絶ピルも認可申請中の段階まで来てはいるので、あとは女性の意識や団結の問題なのかも知れま せん。この古くて新しい課題に、再び取り組もうと決意して帰国したのでした。開催地はバンコクで、約20年ぶりのバンコクは思ったよりずっと都会でした。言葉や文化の壁はあっても、人類の課題は同じ。インドのダウリの問題で女子を中絶する文化や、ヨーロッパでも中絶が合法化されていない国の話など、もちろん日本は平和だなと思わないでもありません。しかし、それが女性一人一人の我慢によって成り立っている平和なら、少しずつでも声を上げていくべきだと強く思います。避妊も不妊も 妊娠・出産も中絶も、女性のからだに起こる健康課題として公平に扱われるべきだと思います。
理解度はともかく、3日間のプログラムをさぼらず、眠りもせずにこなした自分を褒めて、次につなげて行きたいと思います。