ゲイが路上で襲われる事件が頻発している。10月、アソシエーション「ウルジャンス(緊急)・ホモフォビア」のギヨーム・メラニー会長自身が、レストランから出たところで暴漢に殴られたとツイッターで発表。同じ10月、ハイヤーに乗ってキスしていたゲイ・カップルが運転手に「お前らみたいなのは乗せない」と挑発された。その他にも各地で同様の事件が、主にソーシャル・メディアで報告されている。LGBTに対する不寛容な事件の訴えは、2018年初めから現在まで、前年同期に比べて15%も増加しているそうだ。
法律的には2004年にホモフォビアが差別と規定され、翌年に同性愛者へのヘイトが犯罪として刑法に定められているから、こうした事件の加害者は当然、訴追されることになる。
ところで暴力事件が増えている理由は、現政府が生殖医療の適用範囲を広げてレズビアンのカップルが人工授精で子どもを持つことを認めようとしているためであるといわれている。
ゲイ、レズビアンは珍しくはなく、子どもたちの話を聞くと中学生、高校生でもゲイ、レズビアンだと公言している子がかなりいることからしても、フランス人たちは性的指向に関しては寛容だと私は感じていた。しかしLGBTの居住地域はパリおよび大都市に集中しているし、学歴が高かったり、特定の職業社会では率が高くなるらしい。全国平均はひょっとすると私の生活感覚とは異なるかもしれない。統計によれば、フランスのLGBTの割合は3%から7%で、隠している人も多いというのだが、この統計は2000年以前という、かなり古いものなのであまり当てにならない。1999年にパクス(連帯市民協約)が同性愛のカップルに一定の社会的ステイタスを認め、2010年にトランスジェンダーが病気でないと認められ、2013年には同性愛者に結婚が許可された。こうしたことが、フランス人の意識を2000年以前とはかなり違うものにしているだろうと単純に思うからだ。
とはいえ、こと子どもを持つ権利となるとフランス人たちの反発が大きくなるのは、同性愛者にも結婚を許可し、それに伴い、養子を迎える権利を認めたときに全国で巻き起こった反対デモの激しさでも見た通りだ。しかも生殖医療という人工的な介入の是非も問題になると、政府のこの方針をどう評価するかは複雑になる。ホモフォビアがそこにつけ込んで勢いをつけているというわけだ。
生殖医療のレズビアン・カップルへの許可が国会で議論されるのは来年になる。これも古い統計による数字だが、レズビアンの42%、ゲイの36%が親になりたがっている。現在では、結婚した同性愛カップルに養子を取るという道だけが法律的に許可されている。が、ベルギーなど、フランスよりも生殖医療の規制が少ない外国に行って人工授精などで子どもを持っている同性愛者は現在でもいる。また、人工授精に頼らず、ゲイの男性とレズビアンの女性が契約して子どもをもうけ、共同親権を行使するというケースもあり、そのための「出会い系」も存在している。うまくいくこともあり、問題が起こることもあるらしい。
一方で、LGBTへの暴力事件の増加は、生殖医療の適用範囲拡大とは関係なく、LGBTが解放されて来たことを逆説的に語っているとする説もある。かつては隠れていたLGBTが公衆の前で堂々と振舞っているので目につき易く、暴力の対象にもなり易い。また、性的マイノリティに対する暴力事件は元々あったが、被害者は訴えなかった。女性の地位が高い国ほどセクシャルハラスメントが訴えられる件数が多いのと似たように、LGBTが認知されるに伴って訴える数も多くな流という構図である。
おそらく両方とも正しいのだろう。
11月下旬、LGBTのアソシエーション代表者たちがパリ市長、そして大統領に次々に面会し、暴力事件への対策を求めた。
パリ市は早速、警察官や憲兵に対し、ホモフォビア、トランスフォビアの被害者への応対教育を施すなどの対策を発表し、続いて政府も、30万ユーロの予算を割いてホモフォビア、トランスフォビア撲滅キャンペーンをする、学校教育の中で女性差別と共にホモフォビア、トランスフォビアを抑止するなどを提案した。