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 フランスの新大統領エマニュエル・マクロンと年上の妻ブリジットの物語は世界を席巻した。24歳年上の既婚の教師に15歳の少年が懸想し、離婚させて結婚し、出会いから24年たった今も深く愛し合っている。しかもその元少年が大統領になってしまったのだから、世界中が注目しない方が無理だ。「さすがフランス」という声があちこちで洩れるのが聞こえたが、いや実は手放しの賞賛の声はむしろ外国のメディアが主流で、フランス国内では揶揄や中傷の声もいっぱい聞かれたのだった。

 目立つ例を挙げれば、テロ事件で有名になった週刊風刺新聞『シャルリー・エブド』は、大きなお腹を抱えたブリジットと新大統領を並べて「彼は奇跡を起こすか」というコピーを入れた風刺画を表紙に掲載した。TVやSNSでも、彼女の年齢や外見への揶揄は大統領選中、引きも切らず、ファーストレディーとして外遊中の現在でもまだ、ブリジットを「お母さん」になぞらえたり、そのミニスカート姿を「年甲斐もなく」とか「TPOに合っていない」とか嘆いたりする言説がちらほらする。余談になるが私が個人的にちょっと面白かったのは、「彼の朝ご飯を用意してやってるのか?」というのが、この種の当てこすりに含まれていたことで、フランスでは朝ご飯を用意するのは「お母さん」のすることで妻はしないのが常識なのかと、実は私は初めて知った。たしかに我が家でも朝ご飯は誰が準備すると決まっておらず、たいてい夫は自分で用意しているが…日本では妻が朝食準備をしたからといって、「お母さん」とは言われないような気がする。これで思い出したのは出張の際に持ち物を揃えたりする準備で、これも日本では妻がやる家庭が多いのではと思うのだが、フランスでは妻がそんなことをやると、それこそ「お母さんでもあるまいし」ということになるだろうと思う。

 話が脱線した。若い男性が24歳も年上の女性を愛することが理解できない人々はまた、本当はホモセクシャルであることを隠す結婚なのではないかと、なんだか八方に失礼な想像をしたりもした。
 決選投票でライバルとなったマリーヌ・ルペンの父親、ジャン=マリ・ルペンはブリジットを指して「クーガー」と評した。クーガーというのは、豹の一種で、「若い男性を好む30歳以上の女性」のことだそうだ。
 そんなわけで、ありとあらゆる偏見を投げつけられたマクロン夫妻だが、こうしたネガティブな反応がある一方で、「ブリジットは美しい」「脚がきれいだからミニスカートは良く似合っていてエレガント」と外見でも若い女性に負けていないと持ち上げる人もいる。「女を年齢と見かけだけで判断するのはやめてもらいたい」と逆の擁護をするケースも見られた。「歳をとっていてもステキ」なのか「歳をとっているからステキ」なのか「年齢と魅力は関係ない」なのかは、よく分からないが、ブリジットに対するネガティブな批評を「女性差別的」であるとすることで一致しているようだ。

 「男女が逆だったら誰もなにも言わないだろう」という多くの人が言う言葉もその一つで、単純に男女のアンバランスを是正したという点が評価されている。しかし、これは単純にひっくり返して平等というものなのか、私は疑問に思う。おそらく生殖年齢ということが絡んで、男性が年上で女性が若いカップルの方を「普通」に見えるようにしているのだろうから。
 フェミニストがブリジットに好感を持つのは、彼女がその若いパートナーに選ばれ、愛され続けている理由が若さと表面的な美しさ、つまり「生殖能力」でないことを全ての女性が感じるからではないだろうか。実際、二人の馴れ初めは、高校演劇の脚本を作っていて非常に話が合ったということだし、今も頼りにしているらしいから、性的な結びつきというよりも知的、精神的な結びつきのほうが強いのだろうと思う。出会った時点でブリジットが39歳では、エマニュエル青年は一度も、彼女と子どもを持ちたいとは思わなかったということだ。そういう意味でも、普通のカップルとは違うところに絆のあるカップルなのだろう。

 それにしても、このようなカップルが大統領夫妻というのは、フランス社会をどこか映し出してもいる。1971年に出たMourir d’aimer(愛したために死す)という映画は、5月革命の頃に、32歳の離婚した高校教師が17歳の少年と愛し合ったために、未成年誘拐罪で告訴され獄中で自殺した実話を元にしたものだ。マクロン夫妻も始めはエマニュエルの親が仲を裂こうとしたり試練があった模様だが、それを乗り越えて愛を実らせている。フランス社会も40年の間に大きく変わったことを感じさせる。ブリジットの三人の連れ子とともに築くステップ・ファミリーは、今のフランスで非常によく見かけるものでもある。型破りでありながら、現代フランスを代表するに相応しいカップルなのかもしれない。

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中島さおり

中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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