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フードシェアの新しい考え方

中沢あき2017.02.10

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 日本に帰省中、デパ地下の食品売り場を歩いたときは、目が回るかと思った。もうそれは、いい匂いを漂わせる美味しそうな惣菜や菓子類が華やかな彩りで並び、生鮮品売り場の魚や野菜もピカピカと活きがいい。さすが、美食の日本。でもその間を通り抜ける際にふと思った。これ、閉店までに全部売り切れないよな。でも売り切れなかったらどうするんだろう?翌日も売る?いや、特に日本じゃそんなことは出来ない筈。幾らかは店員さんが持ち帰ったりするのかしら。でもそれも色々と難しそうだし、それでも全部なんて持ち帰れないだろう。となると、廃棄ってことになるんだろうなあ…。
 日本のメディアでも最近、フードロス、という言葉を見かけるようになった。まだ食べられる物が捨てられてしまう、ってことだ。フードロス•チャレンジ•プロジェクトという団体によれば、日本では毎年642万トンも、まだ食べられる物が捨てられているそうだ。ちなみにここドイツでは660万トンと負けてない。つい先日のニュースによれば、国民一人当たりで年間280キロも捨てている計算になるとか。ドイツは日本のような美食の国、というイメージはないが、常にスーパーマーケットに食品が並び、ファーストフードもレストランも普及している先進国はどこもこんな状況らしい。
 そんなドイツではこの数年、フードシェアという言葉をよく見かけるようになった。捨てられてしまう期限切れ、または残った食品を引き取り、欲しい人たちへ分けていく活動で、この名前とテーマの下、大小様々な団体やグループが各地にあり、そのほとんどが任意の集まりだ。ここケルンにもフードシェアの活動はいくつかあって、毎週決まった曜日に余り物のパンを配る教会団体や、個人の集まりでスーパーやパン屋の余り物を引き取っては集会所の片隅の棚に置いていき、その都度状況をインターネットの掲示板で知らせ合う人たちもいる。または個人同士でのフードシェアのやり取りをする掲示板もある。そのどれもが、基本的に無料もしくは任意の寄付で、誰が引き取ってもいいシステムだ。我が家も何回か、食べ物を引き取らせてもらったことがあるが、それらの食べ物を集めてくるボランティアの人たちの熱意に感心する一方で、貰い方のマナーがなってないトラブルで消えた活動など、なかなか理想のように行かない現実があるのも知っている。
 そんなある日のこと。週末だけ開店する馴染みの肉屋に行ったら、入り口の土間に、色々な食品が並べられた棚と旗が立っていた。その旗には、THE GOOD FOODと書いてある。新しい店?と眺めていたら、側に立っていた女性がにこやかに促してくれた。ここにある食品はどれも持っていっていいんですよ。それに見合うと思う値段を自分で決めて、置いてってくださいね。
 そこに並べられている食品、例えば、チョコレートやクッキーの菓子類、パン、瓶詰のソースのような保存食品や小粒のジャガイモ、ニンジンやカブなどの野菜はどれも、賞味期限が切れたもの、または一般の店頭では消費者が手を出さないサイズや品質のもので、期限の切れた地ビールまである。その側に置いてある「思う価格で払ってね」と書かれた缶に、自分でつけた値段のお金を入れる、という仕組みだ。
 訊けば、週末のみこの肉屋の軒先で場所を無償で借り、平日は別の建築事務所に間借りして、この「お店」を開いているんだとか。この活動を始めたその女性、ニコールは大学では法学を学び、その後人権団体で研修をした後に、ネパールのNGOで働いていたという。そのネパールで自ら見聞きしてきたことが、この活動に繋がったのだとか。まだ食べられるものがこんなに捨てられてしまっていいんだろうか、とドイツに帰ってきて感じた彼女は、自らこの活動を2年前に始めたのだそうだ。と似たような話だったら他にもありそうなのだけど、面白いなと感じたのはその運営についての考え方だ。今のところの中心メンバーは10人足らず。皆、空いている時間を使って、食べ物の引き取りから店番までをボランティアとして分担しているとのこと。けれども場所代は、この食べ物を「売った」売上げで賄っているんだそうだ。
 人手は大事だよね。例えばボランティアの人材派遣エージェントに問い合わせてみたりしたこともあるよ。いずれは人件費まで賄えたらいいとは思うけど。でも他の団体みたいに助成金には頼りたくないんだ。だって助成金が打ち切られたりしたら、そこで活動が止まってしまうだろ?だから自分たちで運営することを目指してるんだ。とは、メンバーの一人。うん、それは正論だ。助成金はもちろん大きな助けになるし、貰うことは悪いことじゃ決してないけど、そこに頼ると活動が続かなくなるのは私も知っている。文化活動なんかでもよくあるパターンだもの。だから、彼らの話にはハッとさせられた。うーむ、やるなあ。
 それから我が家もたまにここを訪ねては、パンやビールや野菜を「買ってきた」。とても有り難いお値段で。確かにパンの種類は限られているし、野菜はミニサイズゆえに正直下ごしらえが面倒くさい。でもオーガニックなら皮は剥かなくても安心して食べられるし、ビールは普通に美味しかった。
 そしてついに先日、とうとう彼等は自分たちのお店をオープンした。地元紙やローカルテレビで紹介されたせいもあるのか、冷たい雨が降るにもかかわらず、オープニング当日は大盛況。芋洗い状態の店に入ると、店の奥ではソロギターのミニコンサートが開かれ、温かいスープも提供されている。このスープもいつもと同じく「自分で決めた値段」でお支払い。友達と連れ立って入ってきた女の子たちはオーガニックのチアシードのパッケージを手に取って、うーん、でもちょっと高いよね、と言うので、それは元々の値段で、期限切れの商品だから自分で決めた値段で払っていいのよ、と伝えると、あ、そういうことなのねー、と納得した様子。買ってもらったナッツバーをその場で齧る子供や、「救済された」ビールを飲みながら立ち話をする人たち。店の外には屋台が立って、やはり「救済された」食材を使ったベジバーガーを売っている。これもお値段は皆それぞれ。せいぜい20㎡あるかないかの小さな店に常に50人くらいが入れ替わり立ち替わりで集まって、ちょっとしたお祭り状態だ。テレビカメラの取材チームまで入ってくるし、もうてんやわんや。
 その中に、忙しそうに対応しているニコールを見つけて、おめでとう!と声をかけると、前にも来てましたよね?と私たちのことを覚えていてくれていたようで、その機会を捕まえてちょっとインタビュー。
 「このたび新しくお店を開いたわけだけれども、運営が安定してきたってことなのかな?」  「そうなの、今までも場所代は自分たちのこの活動の稼ぎで賄ってきて、あ、これでやっていけそう、って思ったの。もちろん人件費までは回らないからまだ皆、別の仕事の片手間のボランティアだけど、でもどうなるか、やってみなくちゃわからないものね!」
 と、明るく笑いながら話す彼女は、希望に満ちた、とっても晴れやかな顔をしていた。その後に見たローカルテレビの紹介では、シルバーカーを押しながら買い物に来たおばあちゃんが、とても素敵な取り組みだと思うし、ぜひ通いたい、と話していた。この店が町のコミュニティに根付いて、皆が集まる場所になれば、きっと彼等の活動ももっと広がるだろう。慈善活動とは違う、新しい取り組みに期待したい!
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© Aki Nakazawa
ここがTHE GOOD FOODの新店舗。
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© Aki Nakazawa
あれこれ品定めをする人たち。見ているところ、すごい売れ行きで、この日は結構売り上げがあったんじゃないかと嬉しくなりました。
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© Aki Nakazawa
自分で決めた値段で払ってね♡
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© Aki Nakazawa
期限切れ、そして美味い!
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© Aki Nakazawa
雨天にも関わらずこの盛況振り!
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© Aki Nakazawa
メンバー一同。彼等の新しい船出にエールを送ります!
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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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