ドイツは見本市大国だ。各大都市には必ず大きな見本市会場があり、年間を通してあらゆる業界の見本市が各地で開かれて、それ自体が一大産業となっている。国際見本市では日本からの業界関係者の参加も多いわけで、私も通訳などでその場に関わることがある。今回、アダルトグッズの見本市に同行する話をしたら、友人たちは大笑いだった。すごい機会じゃない!依頼主が女性と聞いて安心したらしく、夫も好奇心で目を輝かせながら快く送り出してくれた。サンプルと土産話を待ってるね、ですと。
というわけで先日、ドイツ•ハノーファーで開催された見本市、Erofame(エロフェイム)にこのラブピの担当者の方たちと行ってきたお話を。
ラブピチームの2人のうち1人は既に昨年参戦済み。対して私自身は見本市はおろか、この業界に詳しいわけでもない全くの初心者だ。1ホールのみで3日間開催という規模は小さめのこの見本市に足を踏み入れると、そこは見たことのない世界…。他の見本市で展示されている工業部品などの代わりに並べられているのは、いわゆるセックストイなどのグッズ。どこを向いてもでっかいペニスが視界の中に入ってくる…。そんな展示ブースの間をプロフェッショナルに値踏みしながら歩いていく2人の後を追いながらキョロキョロと見回す私。ディルドやバイブレーター、ボンテージグッズと、お馴染みのアダルトグッズが並ぶのは想定内だが、そんな中にちょっと感じの違うブースがあることに段々と気がつき始めた。
すっきりとしたデザインのそれらのブースの棚に並べられたボトルの類いは、マッサージオイルや潤滑剤。説明パネルにpharmaceutial(医薬品)と書いてあったりするだけあって製薬会社が製造していたり、または化粧品として製造しているところもあり、ボトルのデザインも、医薬品のようなこざっぱりしたものから化粧品のように華やかなデザインのものまで様々だ。医薬品のようなボトルデザインのシリーズを作っている会社の話によれば、こうした製品を買いたくてもアダルトショップには足を踏み入れにくい、手を伸ばしにくいと躊躇している客層に向けているとのこと。こちらは日本に比べて性にオープンであるとはいえ、基本的にはとてもプライベートなことだから、躊躇する人がいるのも当たり前。そうした人のニーズにいかに応えるか、という取り組みや心遣いが感じられてはっと目を開かされる。そっか、アダルト産業は医薬の分野とも重なるのか。
化粧品としてマッサージオイルや潤滑剤のシリーズを作っている会社は、元は高級化粧品業界に居た人が設立したものだそうで、商品も実際にドラッグストアや香水ショップ、デパートの化粧品コーナーなどに置いているそうだ。化粧品と同じように高級感を味わいながら日常的に使ってほしい、ということらしい。肌を煌めかせる甘い香りのパールパウダーは、舐めても大丈夫、とのこと。まあそういう状況を想定した製品であるところは普通のボディパウダーとちょっと違う。でも確かにこういうのがクリスマスギフト、としてあったらなかなかロマンティックで、お店に置いてあったら手を出しやすそう。
ラブピは女性による女性の為のアダルトグッズショップで、バイブ以外にも女性の悩みに寄り添う商品も多く販売している。例えば膣トレ商品は15年以上前から、膣ダイレーターは約4年前から販売。常に女性の体を第一に考えた商品を揃えている。それと全く同じスローガンを打ち出している米国の会社は、乳がん患者の女性がその治療後、性感が少なくなってしまうという問題に取り組む為の製品開発をしていて、女性の体の仕組みや問題を女性の視点で考案したマッサージ器やダイレーターなどを並べる。別の米国の大手の会社も、自社のバイブレーターや潤滑剤を使い、婦人科の専門医や大学の教授と組んで、臨床研究のセミナーやワークショップなどを行っているという。
その他にも女性から男性を、男性から女性を惹き付けるフェロモンが入った香水や新しいタイプのバイブレーターなど、面白い発想や開発技術を持つ会社をラブピチームと一緒に回っていったのだが、どこの会社にも共通している、あることに気がついた。女性が自分自身の体と心をよく理解できるように、性と繋がった心の安定を得られるように、そしてそこに向き合うパートナーも含めて幸せになれること、ということをどの会社もテーマにしているのだ。これは担当者が女性であっても男性であっても違う国であっても、皆全く同じことを口にした。
ハート型の可愛らしいマッサージ器を作っている会社 Rianne S の女性社長であるライアンさんがこうした製品を作ろうと思い立ったきっかけは、青筋の浮きだった男がアピールする雑誌を見て、女性が求めているのはこういうのじゃない、との思いがあったことと、そして母がフェミニストだったことだそうだ。幾つも展示ブースを回って話を聞くうちに、このフェミニズム、という言葉がふっと頭の中に浮かんだ。私はフェミニズムには詳しくないけれど、あ、これって、フェミニズムじゃないかな、と。女性の体と心を尊重し、そして結果、そのパートナーも含めての幸せを考えること、これって、フェミニズムだよな、と。
上記の米国の大手会社の男性担当者は、かつて日本に半年以上住んで日本語も勉強した、というくらい日本やアジアの国に関心が深い人で、それゆえ日本の文化状況もよく理解している人だった。彼が秋葉原のアダルトショップを巡ったときに衝撃だったのは、普通はアダルトショップというのは色々な種類があって、色々な人を対象にしているものなのだけど、秋葉原はどこにいっても同じタイプの店ばかりだったことだそうだ。それらの店の印象は、男性中心で、女性がおもちゃとして扱われているような、そういうタイプの店だったと。そうだね、そうなんだよねえ、と日本人女性3人は揃って苦笑いとため息をつく。すると彼は続けた。だからこそ、ラブピが日本でやっていることは、とっても勇気のあることだと思う、と。
セックスとは、快楽の為だけのものでもなければ、子作りの為だけのものでもない。それは心の奥に繋がることであり、相手との関係を繋ぐものであり、人間の幸せを支える大きなものなのだから、というフェミニズム、そしてヒューマニティを今回出会った人たちの話から教えてもらった。なんだか心がじんわり温かくなるような嬉しい出会いがたくさんあって、その余韻は家に帰った後も続いていた。セックスにもアダルト産業にも偏見はないと思っていたけど、いや、自分にも偏見はあったなあと気づき、とっても大切なことを教えてもらった素敵な体験だった。
中央にいる髪の長い女性がRianne S の女性社長であるライアンさん。女性が求めている物をつねに考えてデザインしているそうです。
出展ブースのひとつ。女性の体の仕組みや問題を女性の視点で考案した膣ダイレーターからバイブまで幅広い商品を扱っています。