本当に驚いた。クリトリスは20センチもあるなんて、知らなかったのだ!
私は女だから、クリトリスがどこにあるかも知っているし、ワギナよりずっと感度のよい性感帯だということも知っている。撫でていると形が変わることも知っている。
だけど、その全体がどんな形でどんな大きさなのか、まったく知らずに数十年も女稼業をやって来てしまった。
これを教えてくれたのは、8月に、ちょっとメディアで話題になった、原寸大のクリトリス模型(私が見たのは写真だが)。ジェンダー研究者で中学で性教育をしている、オディール・フィヨさんが作ったものだ。3Dプリンターでどこでも再生でき、学校で性教育の時間に使えるようにと考案したという(*1) 。
生物が不得意だった私は、心臓や胃や盲腸だって、「描いてみろ」と言われたらおぼつかない。けれど、それでも大体どんな形でどんな大きさか漠然とした意識は持っている。ワギナ(膣)のことだって、『赤ちゃんが生まれる』 のような出産本を3冊も訳した経験から、わりと知っていると思う。なのになのに、クリトリスがこんな花弁のような、宇宙人のような、プリミティブ・アートのような形をしているなんて! 知らなかったのは不覚としか言いようがないが、理科室の人体模型にもなかったし、性教育だってペニスとワギナで話は終りだったじゃないか!
そう考えてみると、クリトリスは、もしかしたら不当に学校教育(だけでなく知識一般)から無視され排除されてきた器官なのかもしれない。
フランスでも事情は同じらしく、オディール・フィヨさんは、そこに注目し、隠されてきたクリトリスに光を当てようと考えた。
「クリトリスは、ペニスと同じようにできていて、包皮もあるし、亀頭もある。女性におけるペニスの同等物はワギナではなくてクリトリスなのです。このことを知るだけで、膣性交に快感を感じない女性を罪悪感から解放できます」と彼女は、週刊誌『ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール』のインタビューに答えて言っている。
つまりクリトリスを復権させることは、女性の欲望を認め、正当な場所を与えることなのだ。なるほど女性の欲望には場所が与えられて来なかったのだよなあ、としみじみ感慨深い。
女の性は生殖とセットでしか考えられてこなかった。『ル・フィガロ』の記事によれば、かつて、生殖のためには女性も興奮する必要があると考えられていた時代には、クリトリスにもそれなりの地位を与えられていたのだが、生殖が女性の快感なしでも可能であると科学的に分った1960年代以降、クリトリスの地位は凋落したのだという。
もっと非科学的なのは中世で、「貞節な女性にはクリトリスはない」と考えられて、クリトリスは「魔女のしるし」とされていたとか。
今でもアフリカでは、女の子の成人儀式にクリトリスを切除するという風習がある。
ことほどさように、女性が欲望を持つことが恐れられるのは、いったいなぜなのだろうと考えてしまう。
性教育からも、クリトリスは排除されて来た。フランスでは、「赤ちゃんができちゃう前に避妊を! 性感染症を防ぐために、絶対、コンドームを!」と、青少年に対する避妊教育は盛んだが、性教育が生殖と性感染症予防に偏っていることにフィヨさんは疑問を感じたという。また、性教育のなかで、「男はセックスに、女は恋愛感情により興味がある」というようなステレオタイプを教えていることにも問題を感じた。
「男女平等を目指す生物学教師の会」のために教材開発をするうち、クリトリスの3Dモデルを思いついたそうだ。
「生殖教育」に偏る性教育では、快感にしか寄与しない器官であるクリトリスは話題にされない。セックスは楽しいものであること、男性を自分さえよければのセックスから女性の快感を気遣うセックスに目覚めさせることも性教育の中に盛り込むために、このモデルが役に立つと考えている。
私自身、衝撃を受けたように、クリトリスの形を目で見ることは、たしかに人々の意識の底に革命を起こすと思う。私自身は人生を変えるほどの影響を受けるにはあまりにも遅かったが、この形を、17歳になるムスメには見せようと思っている。
クリトリス模型の写真はこちらからも見れます。
https://www.lesimprimantes3d.fr/clitoris-3d-education-sexuelle-20160824/
(*1)svt-egalite.frで公開されています。