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コーヒーを一杯いかが?

中沢あき2016.08.12

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 イングリッシュティーと言われるだけあって、英国といえば紅茶。お茶の時間にしましょう、という台詞は英国の小説や映画でもよく聞く。じゃあドイツはというと、コーヒーである。日常会話の表現でも、今度一緒にお茶でも、とは言わず、コーヒーを一緒にいかが、となる。ティータイム、に相当する言葉もあるけど、耳にしたことがない。むしろコーヒーブレイク、に相当する、カフェパウゼ、だ。他所の家に招かれたときも、世代を問わずにまず訊かれるのは、コーヒーを一杯いかが?である。その他、お茶も用意できるけど…と、お茶はあくまでオプション扱いだ。
 でも納得できる。ドイツのコーヒーは本当においしい。私自身、ドイツに来るまではお茶党で、自宅で飲むものは紅茶、緑茶、ほうじ茶、たまにインスタントコーヒーを、コーヒーは外で人に会う際に飲むくらいの程度だった。でもドイツに来てからの午後のおやつの時間は必ずコーヒーで、同じく在宅で仕事をする夫とどちらともなく、コーヒーかな?と言い出しては一杯を淹れる。電気式のエスプレッソマシンを持っている友人たちもいるが、我が家はそのときどき、フレンチプレスだったり、ペーパードリップだったり、またはマキネッタでエスプレッソを淹れたりする。  我が家の定番のコーヒー粉は大手のメーカー品だけど、パートナーがこだわって買ったエスプレッソマシーンにお値段も張る地元の有名コーヒー店のコーヒー豆で普段飲んでいる友人が我が家に遊びに来たとき、一口飲んで、これ、美味しい、どこの!?と声を上げていた。豆がフレッシュだったのかな?まあ、結局値段じゃないのよねえ、とパートナーのこだわりに呆れ顔だった彼女と笑ってしまったけど、こだわりたくなる人の気持ちもわかるほど、コーヒーの豆や粉も各種、様々なメーカーのものが、スーパーから専門店まであらゆるところで手に入る。オーガニックのものは勿論、フェアトレードのものもあって、値段もピンキリだ。
 街角のカフェやスタンドで飲むコーヒーも、ときどき、はっとするようなおいしいものがある。高級店というわけでもなく、普通のカフェやケーキ屋さんだったり、駅のキオスクだったりすることもあって、何が違うのかよくわからないが、そこらのカフェのコーヒー1杯が約2〜3ユーロ程。この1杯でも香り高くて美味しい。日本でいうとドトールみたいなコーヒーチェーンは以前はなかったが、街角や駅のキオスクでもコーヒーは買えるし、街のカフェやケーキ屋のコーヒーの値段もどこもこれくらい。というわけで、お馴染みスターバックスが増えてきたのは、やっとこの数年程。最初にドイツに参入したときは、かなり苦戦したそうだ。  今でもスターバックスの顧客は観光客を始めとした外国人が多いんだとか。ドイツ人の生活感覚からすると値段は高いし、日本のような「スタバはお洒落」というイメージもない。むしろ、こだわりの地元のカフェで飲む方がお洒落、という感覚がある。周りのドイツ人にはアンチスタバ派が結構いるのだが、中でも日本に行ったことがある人たちに言わせると、ドトールでいいじゃないか、と。安さでいうならシャノアールがあるだろ、という日本通にはさすがに(コーヒーにこだわるドイツ人なのにそれでいいのか!?)と笑ったが。
 ちなみにドイツでのコーヒーの消費量、2014年のドイツ•コーヒー連盟の調査によると、平均して年間で1人当たり162リットル(2014年)。ちなみにビールは107リットルだそうで、ビールよりも多いとは…。アルコールが入ってないとはいえカフェインが含まれているわけだけど、一般的には朝食にコーヒー、そして昼食後や休憩時にと飲むことを考えると、1日に約3杯を飲む計算は妥当なのかも。
 そんなにコーヒーの消費量が多いのにも関わらず、コーヒーが飲めない、または飲みたくない、という人も結構いる(ということは、1日に3杯以上、ガンガン飲む人もかなりいるってことだ)。飲みたくない、の理由は大方、健康志向の理由だ。カフェインは体に悪い、とかカフェインを午後遅くに摂ると夜眠れなくなる、とか。コーヒーは(というより飲み過ぎは)体に悪い、という説や、ホメオパシー療法ではカフェインの摂取が禁じられているので、自然志向の人にコーヒーを避ける人が多いのだが、そういう人に向けたハーブティーだとか、ノンカフェインコーヒーの種類もかなり多く、麦芽だとかタンポポだとかチコリだとかのコーヒーと、よりどりみどり。大抵のカフェにもノンカフェインコーヒーがちゃんとメニューにある。こういう多様性を受入れる大らかさはドイツらしい。
 さて、夏休みに娘と共に泊まりがけでヨガのワークショップに参加してきた友人のエピソード。ワークショップでは体を浄化する目的の元に、ベジタリアンの食事、コーヒーも禁止、というルールだったらしい。でも数日経つうちにどうしてもコーヒーが飲みたくなった彼女。こっそり抜け出して宿舎の裏手にあるカフェに行ったら、なんと他の参加者たちもそこでコーヒーを飲んでいたのに出くわしたとか。もう、笑っちゃったわ、という彼女の話を聞きながら、やっぱりドイツ人って本当にコーヒー好きなんだなと、確信した次第だ。
 ちなみにドイツのカフェでのお茶の注文はお勧めしない。よく出てくるのは、熱湯が注がれたカップにティーバッグが添えられてくるスタイルで、これだったら自宅でお茶飲むわ、とケチな私は思う。ドイツに来たら、ぜひコーヒーをどうぞ。

 これは、昨年訪れた台湾のギャラリーカフェのオーナーが自ら作ってくれたラテアート。牛乳嫌いの私ですが、カプチーノのミルクの泡はOKです。皆さんはどんなコーヒーがお好みですか? nakazawa20160812-2.jpg
© Aki Nakazawa

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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