ドイツにはメルケル首相がいて、英国にはかつてサッチャー首相がいた。けれどもフランスにはメルケル、サッチャーに並ぶような印象的な女性首相も、ましてや女性大統領もいたことはない。80年代にミッテラン大統領の下にエディット・クレッソンという首相がいたことがあったけれども短い期間で特に記憶に残る業績があったとはいえない。フランスは、ヨーロッパでは男性優位が強い方の国なのである。
しかし明日の女性首相、女性大統領を想像してみることはできる。去る3月8日の国際女性デーに合わせて「今後もっと活躍を期待する女性政治家」というアンケートの結果がJDD(日曜新聞)という週刊紙に発表された。調査会社のifopが18歳以上の1400人を対象に行ったものだ。
トップに名前が上がったのは、クリスチーヌ・ラガルドIMF(国際通貨基金)専務理事。性的暴行事件で失脚したドミニク・ストロス=カーンの後を襲って現職についた。その前は、サルコジ大統領の下、フィヨン内閣で、財務大臣にあたる経済・財政・産業相を務めていた。1954年生まれの59歳は、長身に白髪のショート・カット。美しいがあまり女っぽくなく、颯爽として非常に安定感のある女性で、私はこの人を見ると昔の、地方の女城主というのはこんな風だったのではないかと思う。首相にという声もあったが、本人が財務大臣の職に留まりたがったということだ。今も次期大統領候補になる気はないと言っている。
僅差で追うのがマリーヌ・ル・ペン、極右政党国民戦線(FN)の党首だ。父、ジャン=マリ・ル・ペンは、人種差別的、歴史修正主義的発言でしょっちゅう有権者の顰蹙を買っていたが、2011年に彼女が引き継いで以来、党は泥臭さを拭い落とし、主義主張は変わらぬながら「普通の党」としてのイメージ・アップに成功しつつある。FNは昨年5月の欧州議会選挙でフランスのトップ得票、翌6月の国政選挙では初めて2人の議員を国会に送り込んだ(フランスは2回投票制のため、単純に第1回投票の得票率が1位でも決戦投票で勝てるとは限らないため、FNには不利)。この勢いで2017年の大統領選では、マリーヌ・ル・ペンが決選投票に残るだろうと予想されている。女性大統領が快挙といっても、差別的で極右ナショナリストのイデオロギーを持つこの女性に大統領になってもらっては困る。が、演説が上手でカリスマ性があることは否めない。1968年生まれでまだ40代。大柄で姿勢よくのっしのっしと歩く姿は迫力に満ちている。しかも若者に人気がある。18歳から24歳の層に限れば、クリスチーヌ・ラガルドなど遥かに引き離し、トップの支持率を誇る。若者の雇用が不安定化する中、伝統保守にも左翼にも期待を抱けない労働者階級の若者の不満を、現システムへのアンチ・テーゼでありエリートを告発するFNが吸収している。蛇足になるが、3月27日現在、フランスは県議会選挙の真っ最中(第一回投票が22日、第2回投票が29日)。FNは躍進はしたが、予想されたほどではなかった。マリーヌの人気は、現場の候補者の実力不足を補うところまでは行かなかったようだ。ところでマリーヌ・ル・ペンには、少々意外だが、男性の支持が高い。
女性に限れば逆転してマリーヌ・ル・ペンをしのぐのが、2007年の大統領選でサルコジを相手に健闘した社会党のセゴレーン・ロワイヤル。現在は、元は私生活のパートナーだったオランド大統領の下、ヴァルス内閣のエコロジー・持続可能開発・エネルギー相(環境相にあたる)。ロワイヤルは複数の内閣で閣僚を努めた。学校教育担当大臣だった当時、高校の保健室でモーニング・アフター・ピルを配れるようにしたことは有名。州議会議長や閣僚を歴任しながらオランドとの間に子どもが4人があることでも超人的な女性だ。実際は子育てをベビーシッターに任せていたにしても、4人の子を産んだ閣僚というのはそういない。末娘が産まれたときは環境相だったが、産院にメディアを受け入れ、「子どもと責任ある職の両立」を宣伝した。
有名な女性政治家はまだまだいるけれども、今回はこの人気トップ三人の紹介に留めておこう。
フランスは2000年に女性議員を増やすために、議会における男女比を1対1にする「パリテ法」を導入した。その結果、市町村議会では、1995年には27,5%だった女性議員が2014年には40%になり、地域圏議会では27%から48%に伸びた。しかし国会議員は現在でも下院26,9%、上院25%に留まっている。1998年にはそれぞれ8,6%と5,9%だったことを考えれば、大きく伸びたとは言えるけれども。ちなみに日本は衆参合わせて8,10%だそうだ。パリテ法導入以前のフランスに近い。