フランスの少子化対策に異変が起こっている。というのは、出生率が高いフランスの家族政策を少子化対策のお手本に、と熱いまなざしを送る日本からの見方だ。
フランスでは「少子化対策」を変更しているという意識はない。具体的に言うと「家族手当の見直し」が行われているのだ。
家族手当というのは、子どもが二人以上いる家庭に子どもが20歳になるまで毎月支給される手当だ。日本で民主党政権が導入した「子ども手当」は不人気で、あっという間に消滅してしまったが、フランスの「家族手当」は古い歴史があり、フランス人たちには空気のように存在する堅固な制度である。
家族手当は1932年に、すべての労働者に行き渡り、1939年には事業主や地主も対象となり、1941年には労務の提供がない場合にも支給されるようになった。
そういうわけだから、近年になって導入された付け焼き刃の「少子化対策」というわけではない。しかし、二つの世界大戦に挟まれた時代、国としても子どもの数を増やしたかったのは確かだし、フランスでも女性の社会進出にともない出生率が下がった時代に、出生率(1,68)を下支えした政策のひとつではあるに違いない。
現在は、子ども二人の家庭には月に129,34ユーロ、三人の家庭には295,05ユーロ、それ以上になると一人につき165,72ユーロ増しで支給される。
家族手当は、裕福な家庭であっても貧しい家庭であっても「一律に」というところが、最大の特徴だったのだが、社会保障費の歳出を削りたい政府は、これをやめて、収入の多寡によって手当の額を変えるということを思い立った。
収入が月6000ユーロ以上8000ユーロ未満の家庭では1/2に、8000ユーロ以上の家庭では1/4に減額することにより、1年で80億ユーロの社会保障費節約ができるという計算だ。
伝統的フランス家族政策の大転換と考えるか、富裕層と貧困層に同額の援助は要らないと考えるか、立場の分かれるところだろう。もともと家族政策に力を入れて来たのは保守派で、現政権の社会党は、社会政策の方に傾きがちなのだ。
しかし、低所得層にしても手当の額が増えるわけではないし、既得権を削られる中流層の不評を買うだけになっているのは否めない。
フランスの家族政策の大目玉のもう一つは、課税に家族指数というのを適用し、同じ収入額でも子どもの数が多いと課税額が少なくなるのだが、この指数の変更により、収入6000ユーロ以上の家庭は既に昨年から税金も負担額が増えているのだ。
家族手当の変更は、社会保障予算案の枠内で議論されているが、政府は同じ予算案の中で、育児休業手当にも変更を加えようとしている。第一子の場合、育児休業にともなう収入補償(329から573ユーロ)の支給期間を現在半年のところ、育児休業を夫婦で半年ずつ取るのであれば1年に延長。第二子以降の場合は、二人で取る場合は現在の3年と同じだが、一人だけの場合は2年半に縮小する。これは、女性に偏っている育児休業を男性にもさせようという奨励策だそうだが、単に女性が育児休業できる期間が半年縮まるだけに終わらないか、心配なところだ。
育児休業が女性に偏るのは、男性の方が一般に収入が多いからなので、その点が是正されないと、単なる「社会保障費の倹約」にしか結びつかないかもしれない。
「家族手当は減額し、育児休業は短くなり、女性に家庭か仕事か選べと言うのか!」という怒りの声も大きい。実際、専業主婦家庭も共稼ぎ家庭も収入が6000ユーロを超えれば同じように家族手当を減額されるのであれば、通勤費や保育費のかかる共稼ぎ家庭の方が負担が大きいといえる。
しかし、自宅で専属ベビーシッターを頼む場合の社会保障税雇用主負担分は軽減されるということだから、富裕層の被るダメージに対してある程度のバランスは取っている。自宅でベビーシッターを雇うのは、基本的に経済的に余裕のある層だから。
出産一時金の減額のような、さすがに問題の多い政策は、あまりの不評に政府も原案に盛り込むのは控えた。
社会保障予算案は、10月24日に下院を通過した。