東京とパリの時差は本当に8時間なのだろうか? 2月は東京、3月はパリにいた私は、二都市で相次いで行われた首長選を目の当たりにすることになったが、こと首長選に関する限り、12時間の飛行の果てに別世界に降り立ったようだった。
ご存知のように、パリの新市長は社会党のアンヌ・イダルゴに決まった。2年前の大統領選で勝利して以来、公約を次々に違反、国民の制裁を受けて全国的に大敗北を喫した社会党だが、パリだけは前市長ベルトラン・ドラノエの元で第一助役を勤めたイダルゴ氏が守り、パリ史上初の女性市長となったのである。実はライバルで落選した保守UMP(民衆連合運動)候補も女性、サルコジ政権時に閣僚を勤めたナタリー・コシュスコ=モリゼ(以下NKM)だった。つまりパリの首長の席には、始まる前から女性が座ることが決まっていた。注意しておきたいのは、「女性」を売り物に勝利したのではなくて、いつも通りの保守か左派かの闘いの候補が、たまたま女同士だったということだ。
翻って、その前月、日本の首都、東京の首長選では、候補者16人中女性候補ゼロ。当選した知事はといえば、舛添要一。「(女性国会議員を指して)あのオバタリアンは全員、上がっちゃってるんでしょう?」と、女性と政治に関して非科学的な自説をはばからず開陳する、女性蔑視発言の雄だった。
女性の役割に次いで、パリと東京で歴然と違ったのは、候補者の年齢だろう。イダルゴ54歳対NKM 40歳。我が故郷、東京の舛添は65歳、主要候補と言われた4人の平均年齢は、なんと68,2歳!!!
60代はまだまだ働き盛りだし、都知事選で私が支持した候補は、女性や若い人と並べてもやはり支持したい候補であったから、60代以上が立候補して悪いと言っているわけではない。ただ、やはり候補者の中には50代や40代、また30代が、もう少し交じっているべきではないか。60代以上ばかりが政治の主役というのは、やはりどう考えても不健全だ。
ちなみに、イダルゴ新市長を支えるパリ市の助役(国政であれば閣僚に当たり、パリの全20区選出の区議から選ばれる)21名(うち女性が11名)の平均年齢は44歳である。パリの区議会議員の年齢構成がうかがわれよう。
次に投票率を較べる。パリ58,4 %VS東京46,14%。パリの市長選は、東京都知事選のような直接選挙ではなく、区議会議員選挙を通して首長を選ぶ方式なので、単純な比較はできないけれども、ちなみに2013年6月の都議会選も43,50%という低投票率だった。
パリの投票率も決して高くはない。フランス全体の投票率は63%前後。これにしても棄権率が史上最高の36%を超えて、フランスでは問題視されているのだ。しかしそれでもまだ投票する人は有権者の過半数いる。東京都民は逆に過半数が投票を放棄している。半数以上が棄権する選挙に正当性があるのか、私は民主主義の基礎が崩壊しているという恐ろしさを感じるのだが・・・・・・。
選挙戦もパリと東京は違った。パリでは、恒例のことだが、主要候補がテレビで激しい政策論争をする。例えば保育所問題。イダルゴ市長は、任期終了の2020年までに保育園の収容数を5000人分増やすことと、保育園の不足を補うために保育学校(3歳から全入)の受け入れを2歳児に拡張すると打ち出す。これに対しNKMは、家で子どもを預かるベビーシッターの派遣・養成機関への財政的援助や、保育園の預かり時間の延長、臨時保育の可能性などを打ち出し、保育学校受け入れの低年齢化に反対して舌戦を繰り広げた。
東京都知事選では、候補者同士が真剣勝負をする討論がひとつも見られなかったことも、二つの首都の違いを感じさせた。
さて舛添知事に話を戻そう。今後、自治体レベルでパリ市長と会うことなどもしもあったとしたら、舛添氏がどういう対応をするのか、またイダルゴ市長にどのよう遇されるものか、ちょっと興味がある。知事選時に結成された「舛添要一に投票する男とセックスしない女たちの会」は、なかなかフランス人の琴線に触れる話題だったのか、「日本女性のセックス・ストライキ」と報道されて、「女性蔑視の舛添氏」は、わりとよく知られるところとなっているのである。