「夫が韓国人」と言うと、「優しそう」とか、「男らしいでしょう?」とか、お決まりの返しをされることが多い。「姑関係が大変そう」や、「男女差別がすごそう」なんていうのもよくある。最近は韓流ブームが落ち着きつつあるせいか? 無関心な人も多いっちゃ多いのだけど。
「マザコン」、「情にモロくてすぐ泣く」等、ステレオタイプの韓国人像には私自身飽き飽きしている。だから「韓国人の旦那さんってどうよ?」と聞かれると、「エロくてヤバい」と答えている。
8年前、仕事(韓流雑誌の編集)のためにソウルに渡り、飲み会で偶然出会った現在の夫。日本に帰った時のネタになれば、というぐらい軽い気持ちで付き合い始めたのだが、あれよあれよと言う間にずぶずぶにハマってしまった。向けられる言葉も、セックスも、今まで付き合って来た日本の男とは全然違う。それこそ女への「おもてなし」が上手。軍隊を経験しているし、チンコ主義のくせに。どっちなんだ!と思わせるその二面性が魅力なのかもしれない。
「自分史上最高の恋」が3年続き、そのまま結婚となった。
結婚生活が始まってみるとよくある話だが、冷静さを取り戻し、自分との葛藤が生まれた。これでよかったの?まがいなりにも自分はフェミだったんじゃないの?義理の両親からミョヌリ(嫁)とよばれたときに虫酸が走り、せめて籍を入れず、事実婚にすればよかったと心底後悔したほどだ。
しかし、出産とか育児とかセックスレスとか、エロくもなんともない日常を送っていても、私がここに留まっているの は、恋愛時代の甘美な記憶があるからかもしれない。濃厚なセックス、囁かれた甘い言葉。ヤバい、思い出すだけで濡れそう。
子どもが生まれた現在は、はっきり言って、旦那は二の次だけど、最近はそれじゃあつまらないなと思い始めた。自分の夫、もう少し見つめ直してもいいんじゃない?と。奴のエロをもっとみてやろうかと。
このコラムでは、家父長セッキ(野郎)どものこの国で、自分らしく生きて行きたい!エロく生きて行こう!と私自身を励ますつもりで書いていきたいと思う。どうぞおつきあいくださいませ。
さて、前置きが長くなってしまったが、韓国は旧暦で正月を祝うので今年は1月31日が正月だった。韓国の正月と言えば、女にとっての「地獄」。
名節(正月と盆)がくる前に頭痛や疲労に悩まされる「名節症候群」にかかる女性たちも珍しくなく、そのストレス度といったら「親しい友人が死ぬぐらい」という調査があるほどだから、 どれだけ苦しめられているか察しがつくだろう。最近では、正月と秋夕(盆)直後の離婚件数がぐっと増えることもわかった。
知っている人も多いと思うが、韓国では正月と秋夕に茶礼(チャレ)と呼ばれる、先祖の霊を迎え入れるための祭礼を各家庭で行うのだが、儀式に使う食べ物の準備などは女性が担い、これが時間と労力の要る大変な作業となる。夫の実家で、嫁という一番低いカーストにおかれ、家父長制の雰囲気のもと女だけが延々と料理を作らされるのだ。
結婚後、一度だけそれを体験した。
私の場合、外国人ということもあり、また、「本家」の嫁ではなかったので料理をすることはなく、ひたすら皿洗いだけだったが、なにもかもすべてがショックだった。
それは、「過度な家事労働」とか「夫の実家との葛藤」など、言葉にできるものというより、女は男より下なのだと、小さな子どもにも分かるような、暗黙の了解のもとにすべてが行われる空気そのものだった。誰かがなにを言ったわけでも、夫のフォローが足りなかったわけでもないが、自分の存在そのものを消される感覚だった。 思い返すだけでもゾッとする。
正月後、私は夫に散々わめきちらしながら自分がどれだけ傷ついたかを訴え、儒教セッキとか正月セッキとか悪い言葉を叫びまくり、これからは参加しないことになったのだった。
先祖崇拝や親孝行が韓国人のアイデンティティの一つと言えるので、正月に参加しないことは、本当は容易ではないのだが、理解してくれた夫には感謝している。(理解というよりも、面倒なのでこの件で私と揉めたくないし、自分も参加したくないということ かもしれないが)。
正月、今年も私は子どもと一緒に日本に来ている。帰ったら現地の男性と結婚している女友達たちに、大変だったとか、あなたは参加しなくていいわねと言われると思うとちょっと胸が痛む。