玖保樹です。以前お会いしたことがある女優の石川優実さんが、こんなつぶやきをしていました。石川さんはグラビアの撮影現場で過激な露出を強要されたこと、枕営業詐欺に遭ったことなどを告白し、以来積極的に発信をされています。
私はいつか女性が仕事でヒールやパンプスを履かなきゃいけないという風習をなくしたいと思ってるの。
専門の時ホテルに泊まり込みで1ヶ月バイトしたのだけどパンプスで足がもうダメで、専門もやめた。なんで足怪我しながら仕事しなきゃいけないんだろう、男の人はぺたんこぐつなのに。— 石川優実 (@ishikawa_yumi) 2019年1月24日
石川さんは現在、女優やイベント出演などと並行してドレスコードにパンプスがあるお仕事をされています。そのことを聞いていた私は「そうだよね! ずっと履いてると足痛くなるよねパンプスって。なんで女性だけが仕事の場で強要されないとならないの?」と、彼女の言葉に思っきり同意したのですが……。
「パンプスを履かない仕事をすればいい」
「男もスーツとネクタイをやめたい」
「職場で履き替えればいい」
「〇〇というブランドのパンプスは足が痛くなりません」
「問題解決には納得できる何かがないと、何も動かない」
……。
まー出ましたよいつものが。もちろん同意する意見の方が圧倒的に多く、#ku tooなるハッシュタグも生まれたほどですが、私も外野ながら「そーゆー話じゃねえ!」と叫びたくなるメンションも色々ありました。
別にヒールやパンプスをこの世からなくしたいわけ訳ではない。でも「会社の決まりなので」と身体に負担をかけるアイテムを押し付けられるのは嫌だし、その状況に不満がある。そもそもなんで女性だけ、足が痛くなる靴を履かされてしまうの? という不満をつぶやくことは真っ当な行為だと思います。
70代になる玖保樹の母は、若い頃にデザイン優先のパンプスしか売っておらずそれを履いてきたせいで、今は足底筋膜炎という症状に悩まされています。そう、履きたい人は履けばいいと思うけれど、ヒール靴は体を蝕む原因にもなる。だから履く履かないは自由に選択させてほしい。石川さんはそう言っているに過ぎないのです。
しかし彼女はこの的外れとも思えるメンション群を、豪快に華麗に斬っていきました。見ているこちらが清々しさを感じるほどでしたが、私だったら果たして同じことができるだろうか? 面倒な奴に粘着されたくないセンサーが作動してしまい、「あなたの言い分もわかります」とか枕詞を付けて、なんとか丸くおさめようとする気がしてなりません。そういう時はきまって「なんでこっちが消耗させられなきゃなんないの?」と思うけど、うまい切り返し方もわからないし……。
と思っていた玖保樹のもとにタイミング良く、『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』(タバブックス)が届きました。
イ・ミンギョンさんによるこの本は、2016年に韓国はソウルのカンナム駅近くの男女兼用トイレで起きた、ミソジニストによる女性殺人事件がきっかけで生まれたそうです。
女性だったら誰でもよかったという加害者を見て「被害者は私だったかもしれない」と苦しむ女性たちに、男性たちが無邪気だったり失礼だったりする質問を投げかけることが耐えられなかった。また女友達から事件を知らされた男性が「自分は無知だった」と言ったと聞いた際に「珍しく立派な男性だ」と思いかけたけれど、「なぜ苦しみながら説明する女性ではなく、無知な男性を立派と思ってしまったのかと自分にあきれた」と、ミンギョンさんは冒頭で語っています。
そして彼女は言います。「答える必要はない」と。
主張するこちらに絡んでくる相手と、対話をするかしないか。それを決めるのは自分次第。良くない質問には意地悪な意図が込められていることが多いし、意義のある質問でも無理して答えることはない。やってみてダメなら速攻で打ち切る。少しわかってくれた程度で感動しなくてもいい。護身術ではなく護心術が必要で、「怒って解決できることはない」などの一見まともそうなことを言う相手は、怒る必要のない権力側にいる空気が読めない人に過ぎない……。私はこれらの言葉に、深くうなずきました。
同書は家父長制度がしぶとく根付いている韓国における、セクシストと対話する際のマニュアルとして書かれたものです。兵役など日本にはないものも登場しますが、男が経済的負担を担うべきと考える女性を『キムチ女』と揶揄してネット上でバッシングするなど、やってることはほぼ同じ。だから日本でも十分使えます。また女性が男性と対峙するシチュエーションを想定しつつも、家父長制度という女性差別があるのに社会を変えようとしない差別主義者は、性別と関係なく存在することにも触れています。
石川さんに的外れな絡み方をしたアカウントも、おそらく男性だけではないでしょう。自分から積極的に男性が決めた社会構造に従ってしまう女性はいて、彼女たちはなぜかいびつな社会構造ではなく、声をあげる女性を潰しにかかるという点を踏まえても、存分に活用できると思いました。
SNSでは一方的に質問してきて、それに返信しないと「お答えください」と執拗に粘着したり「あいつは都合の悪い質問に答えない卑怯者だ」と騒ぐ人がいますが、そもそも一方的な質問に答える必要など、これっぽっちもない。したくない会話はしなくていいし、ミンギョンさんが「あなたの身体に刻まれた知識を、簡単に手渡してはいけない」と言うように、対話をするなら相手ではなく自分を尊重すること。つい「答えなきゃ」と焦ったり、それが面倒で言葉を発すること自体を止めてしまったりする玖保樹にとっては、福音書のような一冊でした。
ということで言いたいことがある人、あってもそれを言えない人の皆に、この本をぜひ読んで欲しいと思いました。ではまた!