お疲れ様です。いやあこの猛暑の8月を、私も皆さまもよく乗り越えました。もうそれだけで「でかした!」って言いたくなる玖保樹です。
東京医科大学の件ですが、牧野雅子さんをはじめ皆さんが取り上げているので、説明は省略します。で、8月3日に学校前でおこなわれた抗議に、玖保樹も参加してきました。手ぶらだったものの、前にいらした方がスッと「#私たちは女性差別に怒っていい」のプラカを下さったので、それをかざしつつ大いに抗議しました。そして終了後は以前から約束していた、知人の女性医師との待ち合わせに駆け付けたのです。
彼女は都内の病院で医師をしていますが、これまでたくさんの苦労や涙があったことを、私はよく知っています。とにかくお金がかかる医学部で学ぶこと、体力勝負の現場で働くこと、お困り患者様に振り回されること。茨だらけの道を必死に歩んできた彼女だからこそ、抗議の話をするのが楽しみだったのですが……。
彼女は確かにその日、とても怒っていました。それはなんと東京医大の仕打ちにではなく、抗議に対してでした。そして“とりあえずビール”が運ばれてくるやいなや、「何も知らないのに余計なことをして!」と言い放ち、ぐいっとあおりました。続いて彼女は
「東京医大は私立大学なのだから、学生の選考基準は学校が決めること。その女性が優秀なら他の大学でも受かるし、優秀じゃないのに医師を目指すこと自体がおかしい」
「今までたくさんの女性の後輩が「激務は無理」と辞めていった。しかし男性医師はしがみつく。優秀だけど働かない女性より、先輩の言うことを聞いてよく働く男性医師の方がありがたい」
「女性医師にも人生がある。出産や子育てで休む間、24時間働いてくれる男性医師がいないと患者の命に関わる」
というようなことを、一気にまくしたてました。そして「患者は医者につく。看護師さんはきっちり時間で交代するから朝と夜で担当が変わることは普通だけど、医師はそうはいかない。プライベートよりも患者の命を優先できるのか」とも言いました。
確かに以前の恋人の父親が医師で、亡くなる直前まで「先生じゃなきゃ」という患者のために、老体をおしてまで診療を続けていたのは事実です。「でも総理大臣だって替えが利くし」と思いましたが、それを口にしたらフッと鼻で笑われました……。
だったら最初から男女の合格割合をオープンにするとか、「うちは女子学生は差別します」とか書いておけば不幸な出会いが避けられるのではないかとも思いましたが、彼女的には「他でもやってるのに、なんで東京医大だけがやり玉に?」ということばかりが気になっていたようで……。私は最後まで、抗議に参加したことを言えませんでした。
盆や正月も当直で休めず、時に患者から「女の医者では嫌だ」と言われ、独身時代は出会う男出会う男、医療相談ばかりしてきて「私は無料相談係じゃない!」と怒っていた。そんな彼女なのに、学校擁護側にまわっていたことが何よりもショックでした。
でも自分だって女性なのに、自分と周りはOKだけど他の女性はダメと思っている医師は、彼女に限らなかった。西川史子氏もテレビ番組で東京医大の女子学生一律原点について、「当たり前。(女性は)外科医は少ないです。外科になってくれる男手が必要なんです。おなかが大きくては手術はできないんです。だからやっぱり、女性と男性の比率はちゃんと考えてないといけないんです。男性ができることと、女性ができることって違う」と持論を展開していましたね。
女性は腕力も体力もないから、女性医師ばかりになると目・耳鼻・皮膚のいわゆる「マイナー科」ばかりになってしまうとよく言われます。でもこれらの科にも男性医師って多くないですか? きっちり時間になれば閉めるクリニックを経営してる医師も、別に女性ばかりじゃないし。だから男性なら24時間働けるけど、女性は働けないってこともないと思うのだけど……。
そんなモヤりを抱えていたところ、産婦人科医の宋美玄さんのつぶやきが視界に入ってきました。
今いる女医は皆入学試験を勝ち抜いて来た人だから、「女子に厳しいのは知っていた。でも私は頑張った。強い女子しか医師に向かない」みたいな生存者バイアスを言ってしまいがち。でも、女性に厳しい女医がいることで、いつものように、女の敵は女だと問題をすり替えられてしまうので気をつけて欲しい。
「これだ!」と思わず玖保樹は、膝をバカスカ打ち鳴らしてしまいましたよ。
知人の彼女はもちろんのこと、多分西川女医も頑張ってきたのだと思います。「女の医師は嫌だ」なんて言われても、一生懸命やってきたのでしょう。ただそれで「私は頑張ってきたのに他の女はダメね」になってしまうのは、まさに生存者バイアスだと思います。後輩が「無理」と去っていくのはその人の適性や能力もあるかもしれないけど、環境があまりにもブラックなのを、中の人が気づいてないってことってありますよね?(だからブラックなんでしょうけど) でも慣れてしまったブラック環境を見直すことは、自分の働き方を改善するチャンスにもなると思うのですが……。だって男性医師だって本当は、24時間働くのは嫌かもしれないし。女性医師を増やすことで医療が崩壊するという意見もありますが、女性医師に「24時間戦える私じゃなきゃ!」とか「これだから女は」とか思わせてしまう環境のほうが、この先の崩壊につながるのではないかと思います。
玖保樹は医療従事者ではないので、今書いたことは現場を知らない者特有の、的外れな理想論かもしれません。ただ「今まで当たり前だったのだから」と、女性医師が後輩女性の未来を奪うことに加担するのは、下手をすると自分の首を絞めることにも繋がりかねない。だって激務を容認していたら、これからもずっと激務に対応しないとならなくなるかもしれないし。
思わぬ方向から色々な声があがり、個人的には女性と仕事について考えさせられている東京医大問題ですが、「チャンスは平等に与えられるべき」という考えは揺るぎません。そして医師だけでなくどんな仕事も「なる」ことがゴールでなく、「安心して続けていくこと」がゴールです。そんな中で知人女性を含め、現役女性医師がどんな声をあげていくのか。それを自分なりに聞いて、大いに考えていきたいと思います。