10月24日、外国特派員協会でおこなわれた伊藤詩織さんの会見に行きました。会場はほぼ満席。すぐ近くにいた記者が「ここがこんなに混むなんてめずらしい」と言っていたほどでした。
会見に先立って、10月18日に彼女は『Black Box』(文藝春秋)という手記を出版しました。元TBS記者の山口敬之氏からどんな目に遭わされたのか、その後病院とレイプ救援機関と警察が彼女にどんな仕打ちをしたのかが、よくわかる内容になっています。
頑張り屋で華やかな女性が、ジャーナリストを夢見たことで心身ともに傷つけられていく様子は、読み進める手が震えてしまうレベルの酷さ。さらに5月に不起訴処分を不服として検察審査会に審査を申し立て、記者会見を開いた彼女に対してネットですさまじい嫌がらせが起きたのは、皆さんも記憶に新しいと思います。政権応援団の某新聞は彼女がシャツのボタンを開け、被害者のAさんではなく正真正銘の自分で挑んだことを、わざわざ「胸の開いたシャツでやってきた」と書いていましたね。さっすが……。
今回詩織さんは白の丸襟トップスに黒いパンツ、赤いフラットシューズを履いて現れました。私も記事にせなならんので間近で撮影しましたが、意識的に口角をあげる表情を写すのは、正直なところ胸が痛みました……。でもいざ会見が始まると、詩織さんは伏し目がちながらも時折、意思が強く表れた瞳で記者たちを見据えていました。そして
「隠れなければいけないのは私たち被害者ではありません。問題は私たちを受け入れて、そして信用する準備ができていないこの社会にあります。話をすることでいい変化をもたらすことができます。そして性暴力を無視することはもうできません」
「これは遠い誰かの話ではないということを知っていただきたいです。どんな時代でも、どんなところでも起こり得ることですし、それについてはどう改善できるのかと考えていく必要があります。ただ特定の誰かやシステムを非難するだけでは何も変わりません。私たち1人1人がどう改善していけるかを真剣に考えなくてはいけないと思います」
と、性暴力被害者を取り巻く日本の状況のおかしさを、ハッキリと指摘しました。
コトの詳細はぜひ『Black Box』を読んでいただきたいと思いますが、彼女は山口氏への怒りや憎悪の感情から、声をあげたのではありません。日本の正しい司法制度で彼が裁かれること、そしてレイプ被害に遭った人々への救済システムの整備が必要だという切実な思いから本をまとめたと、会見で触れていました。
5月は司法記者クラブでしたが、今回は外国特派員協会での会見だったので私も入れました。が、実は前回は「too personal, too sensitive」(個人的な話であるし、とても微妙な話だ)を理由に、断られてたそうです。確かに受けた被害は個人的かもしれないし、センシティブかもしれない。でもレイプは全人類共通の犯罪だし、声をあげると決めた被害者に話させないって、どういうことよ……?
とモヤってたらその件について、特派員協会の会長氏が「委員会で議論の上、会見の要請を受けるかを決めるが、その時は開かないと決めた人のほうが多かったということで、民主主義的なかたちで開かないと決まりました。他の性犯罪の被害者も会見を開いたことがありますが、裁判で有罪となったケース。今回は訴えている最中であり、裁判の判断が出されていない状況。裁判で解決してから会見をすべきである、と個人的に考えました」と答えました。
えっちょっと待って。確かに不起訴になりましたよ。検察審議会も不起訴相当という議決を出して、準強姦には問えないと言いましたよ。でもさ、本によると2人に恋愛感情はなく、山口氏も泥酔した女性をホテルに連れてって、性交してることは認めてるんだけど……?
さらに警察は逮捕状の請求をして裁判所も発行を認めていたにも関わらず、中村格警視庁刑事部長(当時)の判断で、逮捕状が執行されなかったんだけど?
今回に限らず、司法の場でのおかしな判決や判断なんてあること(だって裁判官も検事も神じゃないし)だから、被害者に話す機会ぐらい提供してもよくない? これも流行遅れになりつつある「忖度」ってやつか? と、穿った見方をしちゃいましたよ(多分変なオーラ出てたと思います)。
終了間近、日本人の男性記者が「あなたの強さはどこから来るのか」という質問をしました。詩織さんは「私は自分のことを強いとは一切思っていない」と言い添えて、
「唯一クリアだったことは、これが真実であり、自分でその中の、その真実に蓋をしてしまったら、真実を伝える仕事であるジャーナリストとして、もう働けないと思っていた。もう1つは、やはりこういった被害を受ける方は、必ず自分を責めると思うんです。私もそうでした。その傷が治まることもなければ、それは癒えることもありません。(略)これが自分の妹だったり、友人に起きた場合、彼らはどう対応できるだろう? どういう道をたどるのだろう? と思ったときに、もうこれ以上彼らに負担をかけたくない。自分が今話さなかったことにおいて、繰り返されることがすごく、苦しいと思ったんですね。私のケースは特別なケースだと思っていない。それを自分のことだったり、自分の大切な人のことに置き換えて考えることって、実は簡単にできることだと思います」
と答え、目を伏せました。
詩織さん、お疲れ様でした。と言いたいところだけどこれから民事で争うことになっているのですよね……。
でもアメリカでも大物プロデューサーでミラマックス・フィルム共同創設者のハービー・ワインステインからセクハラを受けた女優たちが、怒りの声をあげました。単独では小魚でも、まとまればスイミー達は大きな魚を撃退できる。だから女性たちもまとまればきっと、立場や権力をかさにやりたい放題の男どもを撃退できるかもしれない。そんなムーブメントを起こすべく私も、自分なりに手足を動かしていきたいと思います。