3月4日、アメリカの国務省が2016年度の「人権報告書」を公表したというニュースが報道されました。その中には現政権による圧力で報道機関の独立性が危機に瀕していることや電通の過労死問題などが盛り込まれていましたが、AV出演強要問題にも触れているそうです。「あのさあ、君らが人権を語れる立場なの……?」と言いたいところですが、これは2016年のオバマ政権時の調査報告なので、まあよしとしましょう。
アメリカ国務省も注目するAV出演強要問題ですが、玖保樹はこの2日前に参議院議員会館でおこなわれた、『AV出演強要被害の根絶を目指して』というシンポジウムに参加してきました。
この問題に取り組み続ける国際人権NPOの「ヒューマンライツ・ナウ(HRN)」の伊藤和子弁護士や被害者支援窓口のひとつ、人身取引被害者センター「ライトハウス」の藤原志帆子さんらの報告に加え、以前インタビューを掲載したくるみんアロマさんによる被害実例発表など、そりゃもう濃い2時間でありました。
で、思ったのは「マスコミの数が異様に多い……」ということ。平日夕方のシンポジウムだったから、仕事の都合がつかない方も多かったことでしょう。だから一般席よりも報道関係者席のギューギューぶりがハンパなかったです。また前回(2016年5月開催)の院内シンポジウムに比べて、国会議員の数も多かった。前回も参加していた共産党の池内さおり議員はもちろんのこと、民進党の徳永エリ議員や中川正春議員、自由党の森ゆうこ議員などに加えて、公明党の佐々木さやか議員や本人ではなく秘書ですがあの! あの平澤勝栄議員など与党関係者もいたことに驚きました。議員たちから「超党派で取り組んでいこう」という姿勢が見えたのは、ちょっとした前進といえるでしょう。
くるみんさんの発言はハフィントンポストに詳しく掲載されているので今回は触れませんが、私にとって印象深かったのは、徳永エリ議員が歌手を目指していた18歳の頃、スポンサーの誘いを受けていたと告白したことです。
なんでも北海道から歌手を目指して上京した際、「正式にレッスンを受けた方がいい」と言われ、懸命にアルバイトをしながらレッスンを続けていたら、レコード会社に連れて行かれたそうです。そこで「支度金として500万用意するか、できなければそれだけのお金を用意してくれるスポンサーを探してあげる」と言われ、その段階で絶望して夢を諦めたと明かしました。その後テレビリポーターを経て国会議員になった徳永議員は「あの頃契約書を書いていたらどうなったんだろう。それを考えると被害に遭った皆さんの気持ちがよくわかる。絶対にこんなことは繰り返してはいけない」と、力を込めて語っていました。
夢を抱いて地方から上京する若者、とりわけ女性が性的に狙われるケースはAVに限った話ではないようです。まさにやりがいと性の搾取……。「女性が自衛するしかない。毅然と断らないのが悪い」という意見もありますが、田舎から出てきたハタチそこそこの若者を、大人がいいくるめて騙すのがどれだけたやすいか。くるみんさんは「洗脳」という言葉を使っていましたが、断れない状況に追い込まれてしまったら「私が我慢すればまるくおさまる」と思うのは仕方がないことです。被害者落ち度論の愚については何度も触れているので、これも今回は書きませんけど!
また伊藤和子弁護士は
・スカウトに騙されないようにする
・いったん契約しても、脅されても、いつでも取り消せるようにする
・困ってる人が相談できる窓口を作る
・撮影現場でSOSが出せる仕組みを作る
・発売されて追い込まれる前に、販売停止をする仕組みを作る
ということに国が取り組んで被害者の保護・救済ができるよう、必要な法整備を検討・準備して欲しいと要請しました。そのためには「現在はない監督官庁の設置や違約金を定めることの禁止」「契約の解除をいつでも認めること」「悪質な事業者の企業名公表、指示、命令、業務停止」などの措置を、法律制定の際には盛り込んでと訴えていました。
今回残念だったのはAV制作関係者の参加が、ごくわずかだったこと。全然いなかったわけではありませんが、「それは違う」ということがあればぜひ玖保樹も聞きたかったよ……。そしてAV業界団体の知的財産振興協会(IPPA)関係者の参加もなかったことです。
「IPPAって何? ビデ倫じゃないの?」と私も当初思っていましたが、2008年にアダルトレンタルビデオの審査団体だった日本ビデオ倫理協会(ビデ倫)はなくなってました。でもってIPPAは約140社の加盟メーカーなど正会員団体の審査済みアダルト作品に対する著作権侵害や、無修正といった違法な作品の監視などに取り組むNPO法人なのだそうです。
欠席の理由はHRNのホームページ内で読むことができますが、個人的にはこの問題に関心を持ってニュースを見ている皆が皆AVに詳しいわけではないと思うので、「AV識者の意見」をネットなどで拾い読みするのではよくわからない状況を理解し、問題の本質が何なのかも理解するためにぜひ、直接的な意見を聞きたかった。
色々事情がおありかもしれませんが、次回このような集会があったら、ぜひAVメーカーやプロダクションなど、業界関係者の発言を期待します。「一方的な視点による法律を作られたら困る」という思いをお持ちであるなら、尚更そのほうが良いと思うし。あ、もし「集会ではよう言わんが、お前になら話してやる」という奇特な方がいらしたら、ぜひ玖保樹までご連絡を!