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2017年は「我慢は美徳」の呪いを解く年に

2017.01.23

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 神奈川県小田原市の市職員の一部が、2007年から「不正受給はクズだ」と英語で書かれたジャンパーを作って、自費で購入していたことがニュースになりました。なんでも生活保護受給者の自立支援を担当する部署の職員が、「私たちは正義だ」とか書いてあるそれを着て、受給者宅を訪れることもあったのだとか。
 小田原市は「07年に生活保護の支給を打ち切られた男性が市職員をケガさせる事件が起き、それをきっかけに作った」「職員の連帯感を高揚させるものだった」などと説明していますが、受給者は怖くて仕方がなかったことでしょう。こんなものを自費で購入する職員も職員です。だいたい生活保護の不正受給の割合は、保護費全体のわずか0.5%であるのは紛れもない事実で、職員様もご存じだったはず。連帯感の高揚どころか「金をくれてやってる」という、下劣な意識を高揚させるためのものだったのではないかと。

 ググっていただければデザインはわかると思いますが、ジャンパーについていた「SHAT 悪(にバッテンマーク)」「HOGO NAMENNA」の文字が書かれたエンブレムは、サッカーチーム・リバプールFCのマークにそっくり。しかもオリジナルには「保護なめんな」と同じ場所に「YOU’LL NEVER WALK ALONE」と書いてあります。盗作の上にメッセージを改悪したことで、サッカークラスタの皆さんからも非難ごうごうの模様。当たり前です。こんなものを作ったところで、生活保護を受けることに引け目を感じている人達が委縮するだけではないのかと、腹立たしく思えてなりません。

 で、それで思い出したことがあります。玖保樹の友人・A嬢は祖父を戦争で亡くしています。戦争未亡人となった祖母は、その後苦しい生活を強いられたそうです。そんな祖母に対して、A嬢がある日こう言いました。

 「うちのおばあちゃんは若い頃貧しかったのに、「お国の情けを受けるなんて」と生活保護を受け取らず、苦しい生活を耐え抜いてきた。本当に偉かった」と。

 ……。まず生活保護は「お国の情け」ではないし、あなたのおじいさんはそれこそ、「お国のために戦って亡くなった」んでしょ? だったらお国とやらが手厚くケアするのは当たり前なのに、なぜお国は戦争未亡人を苦しいままにしといたの? おかしくない? そもそも「耐えること」って、偉いの……? 大正時代に生まれた女性を現代の価値観だけで判断するのは、もちろん無理があります。でも今を生きているのに何重にも間違っているA嬢の考え方は、「生活保護は恥」「お上にたてつくな」というメッセージを与え続けてきた、日本の素晴らしい(イヤミです)教育とマスコミによる賜物でしょう。一度家に遊びに行ったときにそのおばあちゃんと会ったきりの私なので、彼女の祖母愛を傷つけないようにしつつ、「それは違う」と説明ときました(ちなみにA嬢のおばあちゃんは、晩年は成人した子供や孫たちに囲まれて暮らし、数年前に大往生しています)。

 『ビッグイシュー・オンライン』によると生活保護は働いていても、若くても、持ち家があっても、車があっても、年金や手当があっても申請できます。
 http://bigissue-online.jp/archives/1017549370.html
 給料が最低生活費以下なら足りない分が支給されるし、犯罪レベルの悪質な不正受給をメディアが好んで取り上げますが、いい人だから受け取れるものではない。そして先ほども言いましたが、社会保障は決して「お国の情け」ではないんです。

 また件のA嬢は耐え抜いてきた祖母を褒めたたえていますが、苦しいときは苦しいって言っていいし、それをダメだと思わないようにしようよ、とも言いたい。
 玖保樹も長らく「我慢は美徳」と思っていました。しかし以前、仕事中に猛烈な腹痛に襲われて動けなくなり、救急車を呼んだことがあります。救急隊員氏は「すいません……」と申し訳なさそうにする私に対して、「当たり前ですよ。これからも辛いときは呼んでください」と言いました。「そうか。辛かったら辛いって言っていいんだ」と、この救急隊員氏の言葉に救われた玖保樹でした(診断は急性胃腸炎で、数日入院しました)。

 以来「我慢は美徳」と思わなくなりました。でもやっぱりそれでも、時々は「私が我慢すればいいか……」とか思ってしまうんですよね。全身に染みついた「我慢は美徳」は、そう簡単にとれるものではなさそうです。
 この「我慢は美徳」の呪いを完全に解く方法は私もわからないけど、「辛い」と嘆く人を非難したり、我慢自慢をしたり他人の我慢を褒めたたえないようにしていけば、少しずつ変わっていくのかなと思います。もちろん「私は我慢しないから!」と、一方的に思いをぶつけてスッキリするのはただの嫌な奴がやることで、それは違う。でも少なくとも私とA嬢のように、まずは日頃から繋がっている人同士が、「我慢禁止」「我慢自慢禁止」「辛かったら辛いと言う」のもとで交流するのが第一歩かな……という気がします。

 胸くそ悪いニュースでしたが、目にした人達が己の「生活保護」と「我慢」の意識について考えてみる、よい機会になればと思います。ということで2017年もどうぞ、よろしくお願いします。

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