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『ジョジョ』のシュトロハイムさんが、今ホントに誇るべきモノは?

2015.11.20

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 先月の話になりますが、マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』好きの友人に連れられて、ジョジョカフェにアニメイベントにと、彼女のオタ活に同行してきました。フィギュアをほぼ全体集めている彼女に対し、私はフツーに好き程度のファンではありますが、それでも結構楽しめました。

ジョジョといえばご存じの方も多いとは思いますが、第2部にドイツ人のルドル・フォン・シュトロハイムというキャラが登場します。なんだかんだあるけど主人公のジョセフ・ジョースターを助け、死んだかと思いきやサイボーグとなって復活。再び男達の闘いに加わる熱き勇者なのですが、この話の舞台は1938年頃。
そう、彼はナチス・ドイツの少佐(のちに大佐に昇格)、で、ことあるごとに「ナチスの科学力は世界一チィィィィ!!」と、ナチス・ドイツとゲルマン民族のすばらしさを喧伝します。さすがにアニメでは「ドイツの科学は」と言い換えていましたが、連載時(1980年代後半)には、物言いがつかなかったのでしょうか……?

 今でこそナチス・ドイツがどれだけ非道な行為をしてきたかについては、世界中の人が知っています。しかし1950年代後半までは当のドイツ人は、アウシュビッツさえロクに知らなかったそうです。私はそのことを、これまた10月に見た『顔のないヒトラーたち』という映画で初めて知りました(知る知るうるさくてすいません)。

 1958年、東西に分断されたドイツの西側は、敗戦から脅威の経済復興を果たしていました。そんなドイツのフランクフルトで生活するヨハンは「もっとバリバリ仕事してえなあ」と思っている若き検事ですが、ある日彼の前に、ジャーナリストのトーマスが現れます。検察庁に居合わせた人達に彼は「SS(ナチ)の残党が教師をしているが、これは違法だ」と申し立てるものの、ヨハン以外は関心を示しません。なぜならもうナチは過去の出来事で、ドイツ人にとっては終わった話だったから。それどころか学校でちゃんと教えていなかったから、多くの若者がアウシュビッツさえ知らない状態でした。
 ヨハンも最初はおそらく野心から、しかし収容所でヨーゼフ・メンゲレに子どもを惨殺された、ユダヤ人のシモンと出会ったことで「ヒトラーだけではなく、一般市民が罪を犯した」ことに怒り、すでに放免となっていたナチ残党の、収容所での残虐行為を暴く決意をします。
検事総長で同じくユダヤ人サバイバーのフリッツ・バウアーの後押しのもと、ヨハンはトーマスとともに血のにじむような執念でナチ残党を探し出すのですが、どんどん孤立していきます。なぜならドイツは加害国だけに、親や親戚にナチ関係者がいる者ばかりだから。そう、ヒトラーやルドルフ・ヘス、ヒムラーやアイヒマンばかりがナチではありません。むしろ「家庭では良いパパ」「良い息子」の、一般市民のドイツ人男性たちこそがナチ党員としてヒトラーに忠誠を誓い、ユダヤ人惨殺行為に加担していたのです。「だって、戦争だったのだから」という言葉とともに。そして戦後は「戦争犯罪者は、ニュルンベルク裁判でもう裁かれている」から、誰かの良き隣人となったのです。

ヨハンは検事仲間から
「若い世代が父親に、犯罪者かと問い詰めるんだぞ」
と詰め寄られますが、彼は毅然と答えます。
「それが目的だ。嘘と沈黙はもう終わりにする」と。

 もうね、このシーンでじーんときちゃいましたよ。
と、ここまで読んで
「へー、よくできた話だったんだね~」
と思うかもしれません。しかしこの作品は実話を元にしていて、ヨハンこそ架空の人物ですが、トーマスやフリッツ・バウアー検事総長は実在していました。ヨハン達がナチ残党を裁いた『アウシュビッツ裁判』も、現実世界では1963年に始まっています。しかし当時、ドイツ国民の半数以上が「異常な政権下での出来事を罪に問うなんて」と、裁判に反対していたそうです。でもやっぱり、間違っているものは隠蔽しきれなかった。
ドイツ人自身がホロコーストに関わった22人の“同じドイツ人”を裁いたことで、ドイツの歴史認識は大きく変わることになったそうです。だから当然、今を生きる彼らはナチスのことをよく知っている、という訳です。

……なんだかこの裁判までの流れを見てると、どっかの国を思い出しません? そうです。今あなた様と私が住んでいる、この国です。もちろん私だって、亡くなった命を貶めるつもりなど微塵もありません。しかし今を生きる人達が「あれは戦争だったから」「いい人だっていた」「おじいちゃんは任務を果たしただけだ」と、戦争での行為を直視しないままでいるのは、あまりにも身内びいきが過ぎるというものです。
「東京裁判で終わったから」で終わりにせず、ドイツ同様、自分達の国が過去にしてきたことを、自分達の手で整理することができていたら。今の世界はもっと、違うものになっていたかもしれません。
残念ながら映画の公開は終了してしまったので、DVDが発売されたらぜひ見てください。明るく楽しい話ではありませんが、見る価値のある作品です。

そしてシュトロハイムさんよ、あなたが本当に誇るべきものは、「ドイツの歴史乗り越え力は 世界一チィィィィ!!!」ってことなんじゃないのかな。スターリングラードで戦死(という設定です)しないで、変わりゆくドイツを、機械の身体でずっと見つめて欲しかったよ。

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