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「朝日」叩きという名前を借りた慰安婦叩きと安部首相のメディアへの政治圧力……「李香蘭」山口淑子さんだったらこの事態をどう見たのか。 

栗林デバ子2014.09.23

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少し前ですが、女優の山口淑子さんが亡くなりました。
山口さんは1920年、旧満州生まれ。18歳の時に、日本人であるにもかかわらず、中国人として「李香蘭」の名前でデビューしました。その後、日本が戦争に負けると、中国語を母国語に育ったにもかかわらず、中国から、日本映画に出演していたことから「祖国を売った女」として死刑を求刑され(その後、日本国籍だったことが証明されて無罪)るなど、まさに激動の時代を生き抜いた女性です。


デバ子も「蘇州夜曲」は聞いたことあるし、その日本人離れしたゴージャスな雰囲気、参議院議員やジャーナリストとしても活動されていて、すごいパワフルな女性だなぁと思っていました。


山口さんは、元従軍慰安婦へ償い金「アジア女性基金」の活動にも熱心でした。
「週刊朝日」2002年5月17日号のインタビューで、山口さんは元慰安婦だった韓国人女性に会った時のことをこう語っています。


「彼女(Sさん)は私と同い年でした。Sさんは連行の状況を次のように話しました。
『韓国の大邱(テグ)という町に住んでいた14歳のとき、道端で突然日本人の警官につかまり、強引に汽車に乗せられ、大連経由で上海まで連れていかれた。宿舎には何十人もの若い朝鮮の女の子たちがいた。上海の病院で血のついた包帯を洗う仕事をさせられ、翌年、蘇州の慰安所に移された。最初の相手は将校で、泣き叫び逃げ回ると、銃剣を突きつけられ、殴られ、血だらけにされました。死のうとしてクレゾールを3度飲んだけれど、濃度不足で死ねなかった』
ある日、兵隊の一人が李香蘭の映画のロケを見ようとSさんを連れ出しました。私は、橋の上で桃の花を耳にかざし「蘇州夜曲」を歌うことになっていましたが、肝心の桃の花が咲いていない。スタッフが、チリ紙で急ごしらえの造花を作ってくれた。遠くから見ていたSさんは、50年前のその撮影状況を鮮明に覚えていて、きのうのことのように話してくれました。慰安所は部隊の移動と一緒に動き、Sさんも南京、徐州と移り、船でベトナム、台湾にも渡り、シンガポールで終戦を迎えました。24歳、拉致されてから10年が過ぎていました。Sさんが、『でもやさしい日本兵もいましたよ』と言ったとき、私は胸がつまり、何も言えませんでした」


山口さんも、映画の中で日本に都合のいいけなげな中国人女性ばかり演じさせられました。
こうした活動に熱心だったのは、結果的に自分が日本の軍国主義のプロパガンダに利用された、という自責の念もあったと言われています。
山口さんのインタビューを読むと、生まれた国や苦しみの種類は違うけれども、国や戦争に翻弄されたという意味では同じ、「私があなただったかもしれないし、あなたが私だったかもしれない」というSさんに対する深い共感があるように思えます。
山口さんはこんなふうにも言っています。


「慰安婦にされた当時14、15歳だった少女たちも、あれから60年たち、亡くなる方が増えています。韓国政府は日本政府の補償を求め、日本国内でも『強制連行』『軍の関与』はあった、なかったという論争が続きました。当事者たちに残された時間は少ないのに、なんと悠長なことをしているのでしょう。神様は不公平なことをなさると思う。同じ年、同じ女性なのに、突如、慰安婦にされ、青春を切り刻まれた少女がいて、同時代にその存在を知らない私がいました」


このインタビューから12年、吉田証言や吉田調書をめぐる朝日新聞バッシングがとまりません。吉田調書は福島第1原発事故をめぐる問題であるにもかかわらず、週刊誌の中吊りには「売国朝日」「反日朝日」などの見出しが掲げられています。
某週刊誌編集部にいる友人によれば、朝日を叩くと売れるそうで、どんな小さなネタでも採用されるんだとか。築地にある朝日新聞の本社前には、連日、「抗議」という名のヘイトスピーチが大音量で流され、警備員だけでなく、警察官も出動する事態になっているようです。一連の過剰な朝日バッシングは間違いなく、中韓バッシングの流れにあるものです。そして、朝日叩きという名前を借りた慰安婦叩きでもあると感じます。


安倍首相は、NHKの番組で、「新聞自体がもっと努力をしていく必要がある」「(朝日は)世界に向かってしっかり取り消すことが求められる」と発言しました。
前にも書きましたが、朝日新聞は、従軍慰安婦に関する吉田清治氏の「済州島で女性を無理やり連れ出した」という証言、いわゆる「吉田証言」は間違いだったと認め、取り消しましたが、従軍慰安婦の存在を否定するものではないし、そもそも吉田証言は「河野談話」の作成には影響を与えていません。Sさんのように名もない女性が多くの証言を残しています。


安倍首相が、朝日は何をもっと世界に向かって努力していくべきと言っているのか意味が分からない。そして、なぜ誰も、これをメディアへの政治圧力だと批判しないのでしょうか。慰安婦だけではありません。戦争について、日本がアジアの国々に行った「加害」の歴史を展示する施設には、抗議の声が増えていて、写真などの生々しい展示を縮小したり、自粛する施設や博物館が増えているそうです。


戦争の被害者でもあり、政治家でもあった山口さんがこの事態をどう見ていたのか。最後にお話が聞きたかったです。

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