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裁かれるのは「母性」だけ? 厚木の白骨化した男の子の事件と、大阪二児置き去り死事件。

栗林デバ子2014.06.06

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厚木市のアパートで白骨化した男の子の遺体が発見された事件をみて、4年前に大阪で起きた2児置き去り事件を思い出した人も多いんじゃないでしょうか。
下村早苗受刑者。2010年に大阪市内のマンションで3歳と1歳の子どもが餓死した事件で、シングルマザーだった彼女は、懲役30年の刑を受けることになりました。
逮捕された直後の報道の過熱っぷりはすごかったですよね。
自撮りした茶髪の彼女の写真が何枚も何枚も週刊誌やテレビでさらされ、マンションがゴミ屋敷だったこと、子ども置いてホストクラブの男と外泊していたことや風俗店で働いていたことも報じられました。
子どもたちの最期の様子と、彼女がSNSに投稿した楽しそうな写真は必ずセットになって取り上げられ、「子供たちがこんなに辛い思いをしている間、母親はこんなに能天気に遊び呆けていたのです」「なんて自分本位な女でしょう!」とばかりに叩かれました。
デバ子は、事件そのものより、世の中がいかに「ふしだらな母親」「育児をしない女」を憎悪するかが伝わってきて怖かった。ふだん「子育て」や「イクメン特集」なんて、絶対に組まない男性誌の方がはしゃいでいたのも気持ちが悪かったです。
翻って厚木の事件、シングルファザーだった父親は新しい恋人ができて、息子のもとに帰らなくなったんですよね。その間に、2トントラック2台分もあったというゴミ屋敷のなかで、男の子は誰にも気にかけられることなく亡くなっていた。
本当にむごい事件です。
にもかかわらず、早苗と比べ報道が静かなように感じるのは気のせいでしょうか。
なぜ彼はネグレクトをしてしまったのか。彼自身も虐待されて育ったからなのか。今の報道を見ている限り、そのプロフィールや生い立ちが報じられることはない。
あっというまに「行政は、児童相談所は何をしていたのか!」みたいな話になっていません?
朝の情報番組では、「いったい母親は何をしていたんでしょうねぇ」とか言い出すコメンテーターまで出てくる始末。
この国ではまだ、男は子育てできなくてもしょうがない、妻がいなかったら、そりゃゴミ屋敷になっちゃうよねぇ、みたいな共通認識があるんでしょうか。
19歳で最初の子どもを生み、風俗店に勤めながら子供を1人で育てていた早苗は、裁判で「子供たちを養育できたのはあなたしかいなかった」、「子供たちが苦しんでいる時、現実から目を背けて男性と遊んでいた」と、起訴された罪だけでなく、その「母性」まで裁かれました。
早苗の事件については、ルポライター杉山春さんの著書『ルポ 虐待 大阪二児置き去り死事件』(ちくま新書)が詳しいのですが、離婚した元夫は経済的な支援や育児を分担することもなく、離婚する時に「1人で子どもを育てること」「家族には甘えない」等々書いた誓約書にサインさせていたそうです。 しかも、裁判では早苗に「一生刑務所に入っていてほしい」とまで言っている。
なぜ、父親であるあなたが、早苗を叩き、裁く「あちら側」にいるんですか?
厚木の事件について、裁判所は彼の「父性」をどんな風に裁くのでしょう。
すごーく関心があります。ま、この国に「父性」とよばれるものがあるとすれば、ですが。

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