LPC官能小説第28回「柔らかく揉まれると、快感と幸福感がほとばしるようにあふれた…」
2018.12.25
「……はぐれちゃった」
白い息を吐いて、私は呟く。
冬至を過ぎて、五時前には真っ暗になる季節。
だけど境内は、立ち並ぶ屋台の照明で賑やかに明るい。
友達に誘われて、お祭りみたいに盛り上がるというしめ飾り市を、初めて訪れていた。
地元っ子の友達は、慣れた調子で屋台をひやかし、ところどころで値切り交渉なんかしながら、どんどん先に行ってしまったの。
まあ、スマホもあるし、私もいいオトナなんだから、迷子になったってそれほど心細くはなかった。
だけど。
周囲を行き交う人々は皆、家族やカップル連れで。
温かなお家でお正月を迎える準備に湧き立っていて。
一方、私はわびしい独り暮らし。年末年始に帰省するとはいえ、もう実家には自分の部屋もなくて、居心地が悪い。
心細いっていうより、寂しいなあ。
今度は口の中だけで呟いて、もうひとつ、ため息。
「幸運を呼び込む縁起物を買いにきてるのに、そんな景気悪い顔してちゃダメだろ?」
右側の屋台から声をかけられたのは、そのときだった。
強烈な寒気の中に、オレンジ色の光で四角く切り取られた、朱塗りの屋台。
清冽な橙の香りや、青臭い稲穂の匂い。昆布飾りの潮臭さが漂う屋台の前に、彼はいた。
分厚く鍛えあげられた身体が、ムクムクしたダウンジャケットに包んだ立ち姿は、まるでぬりかべ。
だけど、特徴的なヘアスタイルをニット帽で隠した顔には、人を惹き込むようなあたたかな笑顔が浮かんでいる。
四条丸駆クン……。
「うわっ、どうしたの!? 俺、何かまずいこと言った!?」
不覚にも私、彼の姿を見たとたん、涙ぐんでしまったの。
彼はそんな私を人込みから連れ出して、境内の片隅でワンカップのお燗をおごってくれた。
このあたりの地酒なのか、金色の稲穂と目を細くして微笑む男神が描かれたラベルは、初めて見る。ほのかな甘みと、さわやかな後味は、冷やでも美味しいだろうと思った。
「……落ち着いた?」
「あ、はい、大丈夫です……すみません、ありがとうございました」
「何かあったの? 酔っ払いに絡まれたとか?」
「いえ、何でもなくて……しめ飾りを選んでる幸せそうな人達を見てたら、私ってショボいなあ、なんて考えちゃって……」
作り笑いで答えるうちに、また鼻の奥がツンとしてくる。
妄想だろうがなんだろうが、せっかく駆クンにこんなに優しくされてるんだから、テンションを上げないと!
何とか気分を変えようと、長身の彼を見上げた瞬間。
「……っ!」
顔を伏せてきた彼に、キスされていた。
私の両肩を掴む、温かく大きな手。
「ん……?」
そして、舌と一緒に送り込まれる、とろりと熱いモノ。
これ、さっきのワンカップだ。
最後の一口、分けてくれたのかな。なんて思う間に、私は自分でもびっくりするほど、深い酩酊感に包まれた。
コクン、と喉を鳴らして飲み込むと、お腹の奥がカッと熱くなる。そこから、ふわふわと心地よい、キラキラと輝く悦びが、全身に広がっていく。
「……全然、ショボくなんかないよ」
ツウッと糸を引いて唇を離し、真剣な目で私の目を覗きこむ彼。
その眼差しが、私の中をさらに温かく、心地よくしてくれる。
うっとりしすぎて、私は声もなく彼に抱きついた。
背中を撫でまわすと、シャリッとしたダウンの生地がてのひらに快くて、いっそううっとりしてしまう。
彼も私に腕を回すと、私は彼の胸の中にすっぽりと包まれてしまった。
「はぁ……」
ほんのりスパイシーな彼の体臭が、鼻をくすぐる。
彼のてのひらも、私の背中を撫でる。その手がごく自然に降りて、ヒップに当たる。
「ふぁあ……」
柔らかく揉まれると、快感と幸福感がほとばしるようにあふれた。
目を閉じると、光の残像が眩しく踊る。
うれしくて、楽しくて、気持ちよくて、たまらない。
さっきまでの寂しさが、ウソみたい。
ひとくちのお酒?
一度のキス?
長く続く愛撫?
こんなにも心地よく私を満たしてくれるのは、なんだろう。
「これは君自身のパワーだよ」
彼の声が、遠く高いところから響くように聞こえる。
「ほら、俺だって、こんなに」
促されて目を開けると、ダウンジャケットの前をつっぱらせて、彼のモノがそそり立っている。
「君の眩しいパワーが、俺も気持ちよくしてくれているんだよ」
そうなんだ。
私、妙に素直に納得した。
そして、彼に望まれるまま、取り出した彼のモノを両手で愛撫する。
彼も、後ろから私のヒップを引き分け、中心を指で刺激してくる。
彼の野太い指先が、ストレッチパンツの伸縮する生地越しに、股間の谷底を捏ね回す。
「ぁ……ぁあー……ッ!」
快楽と一緒に、私のパワーが高まっていく。
炎が噴き上がるように。
炎に煽られるように、片手で彼のモノを強くしごき、もう片手でシワばんだボールを転がしてあげる。
「ぉお、すごい、パワーが来る……クるよ……!」
「あ、あふれる……あふれてクるの……ねぇ一緒に、一緒に……」
今の私には、この世界に二人きりということがわかる。
神社も地面も、日本も地球も消え失せて、古い年が新しい年になり替わる、時の狭間にいるということが。
そして、私のパワーで、彼を新しい年に送り出してあげられる、ということが。
後ろからグイグイと激しく中心を突かれ、彼のモノの先端をお臍の窪みに押し付けながら、私は今年最後の、最高のエクスタシーへ……
一緒に、一緒にーーー!
「いっしょ、に……っ!」
ゾクゾクゾクッ、と背中に痺れが走った。
頭がくらくらして、息があがってる。私、今、本当にイッてたみたい。
「あーっ! いたいた! どこフラついてたのよ、もう。探したよ!」
背後から、友達の声。
私は、境内の隅にある石碑のようなものの土台に手をついて、うずくまっていたようだ。
フラつきながら立ち上がろうとする私の手に、何かワサワサしたものが触れる。
これって……。
「え、何そのしめ飾り。こんなの初めて見たわーちょっといい感じじゃん。私も買おうかな、どこに売ってたの?」
私が手をついていた土台には、一メートルくらいのしめ飾りが乗っていた。
瑞々しく香る小さな橙と、青く清らかに流れる藁束。そして、昆布の代りに、ふさふさと盛られた、金色の大きな稲穂。
こんな大きなイネの穂は、見たことがない。だけど、作り物みたいな感じもしない。
一番不可思議で、特徴的なのは、左右へ向いた稲穂の真ん中でくしゃっとした笑顔を浮かべる男神のお面だった。
赤銅色の顔に、糸のように細めた目。
「……なんだか、夢中だったから、覚えてない……」
呟く私。
なにそれー、とか騒ぐ友達の声が、遠い。
私、新しい年へ、彼と一緒に越えていくんだ。
温かな満足感に包まれながら、私はそのしめ飾りを手に取った。