降るような星空の真ん中に、白銀の大きな満月が浮かんでいる。
素足の裏には、夜露に濡れてひんやりした、柔らかな草の感触。
永遠に続くように思えた凄まじい猛暑も、ここではすっかり鳴りを潜め、さわやかな風が髪の毛の先とサマードレスの裾を揺らす。
最高の気分。
だけど、ここって、どこだっけ。
「きれいな月だね」
「へ?」
突然声をかけられて、マヌケな声が出てしまう。
一歩前を歩きながら、振り返ったその人はーーー
ツンツンに立てた短い髪も。
赤銅色に灼けた滑らかな肌も。
リネンのシャツとショートパンツに包まれた、鍛え上げられたマッチョボディも。
月明かりを浴びて、ラメを振りかけたように輝いている。
「せっかく二人きりなんだから……手を繋ごうか」
なんて言いながら、目を細くして微笑む彼。
やっぱり、どう見ても。
四条丸駆クン!?
「……ダメ?」
「い、いや、ダメじゃない! 全然!」
頭の中を疑問符でいっぱいにしながら、私は慌てて一歩踏み出す。
近づくと、彼の頬が赤らんでいるのがわかった。照れてるんだ。
私と手を繋ぎたくて、勇気を振り絞った、という感じ。
クラクラしながらも、私は彼の手を取る。
熱い掌に、私の手は手首まですっぽり包まれてしまう。
最初はおずおずと、次にギュッと力強く握られた。
私も、自然と笑顔になる。
すると彼、いっそう真っ赤になって、俯いてしまった。
「でも、君の方が……きれいだな」
ちょっと、どうなの。夏休みのひととき、憧れのお姉さんと距離を縮めたがっている中学生男子みたいな初々しさは!
足元からは、リーリーと虫の声。
その声に囃し立てられたように、私は片手を彼の頬に添えて、こちらに向かせる。
「だったら、どうして目を反らすの?」
「だって……」
「ちゃんと、見てほしいな?」
言いながら、私はかろうじて動く指先で、彼の掌を優しくくすぐった。
「!」
彼、ビクンと全身を震わせて、弾かれたように正面から私を見たの。
彼の瞳に映る自分が、本当に、きれいに見えた。清楚なのに艶やかで、謎めいていて。
私、誘うように、すうっと目を閉じた。
次の瞬間。
「……す、好きだ!」
ストレートな告白と同時に、唇を塞がれた。
「ん……っ!」
むぐむぐと唇を押しつけてくるだけの、ウブなキス。
私は彼の頬を撫でながら、その唇に軽く前歯を当てて、隙間を作る。
その隙間に自分の舌先を忍び込ませて、唇の裏や、歯列をなぞる。
「っ、ッう!」
くぐもった呻きをあげる彼。私の手を握る力がグッと強くなり、もう片方の腕は私の腰に回った。
ちゅくちゅく、エッチな音をさせて、私は彼の口内を丁寧に愛撫する。
耳を掠める、ふーふーと荒い鼻息。
彼は少しずつ、私を真似て舌技を返してくるようになった。
ぎこちなさが可愛くて、興奮してしまう。だけど彼はもっと興奮していて、私のおへそ辺りに感じる股間の膨らみは、ギンギンに硬くなっていた。
つうっと唾液の糸を引きながら、私は唇を離して、
「……キスだけで、イキそうになってるの?」
と、彼を煽る。
月光を浴びると、普段とは違う自分が顔を出す、とか聞いたことがあるけど、まさにそんな気分。
ゴクリと喉を鳴らし、濡れた唇を震わせながら、何度も頷く彼の可愛さといったら!
「ダメ。私も、もっと気持ちよくてくれなきゃ」
意地悪く囁きながら、私の手を握る彼の指を開かせると、左手で自分の股間へと導いた。
汗ばむ彼の指先を、下着を潜らせて、アソコに触れさせる。
それだけで、背筋にゾクッと快感が走る。あっという間に、愛液が溢れてくる。
「あ、熱くて、柔らかい……」
ちょっと呆然としたような、彼の呟きが快い。
彼の指に自分の指を添えて、指戯のテクを教えてあげるの。
「でしょう? ほら、ココを転がして……奥に、んんっ、そぉ…前後に……ッ」
一生懸命な愛撫に、思わず腰が揺れてしまう。
彼の指と自分の指が同時にナカを抉るから、今まで感じたことのない刺激が暴れ回っているの。
「あぁん、上手よ……私も、シてあげるっ!」
私、右手で彼のモノをパンツから掴み出す。
血管が浮いて、先走りが滲んでいるのがわかる。熱くて大きくて、やっぱり可愛い。
「ねぇ、キスして! キスしながら、一緒に……」
「う、うんっ!」
彼、素直に頷いて、唇を重ねる。
今度は、最初からディープキス。さすが、世界的アスリートは学習能力が高い。
私達、中学生カップルみたいにアソコを弄りあい、唾液まみれになって舌をからめあう。
彼の愛撫はどんどん上達していって、ともすれば、リードするはずの私が、
「……アッ、そこぉ、ダメ、いぃッ!」
なんて、よがりまくってしまう。
沸騰しているような月光の下で。
涼しい夜風の中、汗だくになって。
「俺もう、で、出ちゃうぅっ!」
「私もっ、一緒ね、一緒にイこうね!」
「うん、イかせて……っ!」
グチョグチョになった下半身を押しつけて、扱き合いながら私達、一つに溶け合って爆発した……
確かに、一緒にイッたのよ。
私、潮まで吹いた感覚、覚えているもの。
まあ、ただし夢の中で、なんだけど。
設定が曖昧なはずだった。
見開いた目に映ったのは、代わり映えのしない自分の部屋。遅い夏休みをとったはいいけど、台風で旅行がキャンセルになった腹いせに、昼酒を飲んで潰れていたんだった。
冷房の効いた室内は、避暑地さながらと言えなくもないし。どうせ避暑地に行ったって、同じような妄想をするんだろうし。
むしろ、最初から夢というのは、なかなか潔いんじゃない?
私、ちょっと得したような気分で、さっきの続きを見るために、もう一度毛布に潜り込んだ。