その日、首都圏は冷たく輝く真珠を編んだヴェールに覆われたーーー
なんちゃって。
とにかく、覚悟はしてたけど、ハンパない降りっぷり。
昼下がりにはまだ、大粒のベタ雪だったのが、夜になって温度が下がるにつれて、高校時代に行ったガーラ湯沢みたいなパウダースノーに近づいていった。
輪ゴムを巻くといい、なんて豆知識がSNSに流れていたけど、足首まで埋まる雪道に踏み出すまで、忘れてた。
なんという、歩きにくさ!
コートのフードを目深にかぶっているから、視界が悪い。
軽い雪がタイルに積もって、つるつる滑る。
私、歩き慣れたはずの駅からアパートまでの道を、足腰の弱ったおばあさんみたいにヨボヨボと進んだ。
数年前にも、雪かきが必要レベルの雪が降ったっていうのに、私ったら学習能力が低いなあ。
ため息をつきながら、一歩踏み出した瞬間、
「きゃっ!?」
気をつけていたはずなのに、建物の軒下に積もった雪に、滑った足先がめり込んだ。
バランスを崩した私は、とっさに腕を前に伸ばす。
その先には、木枠のついたガラス窓。その向こうからは、暖かそうな灯りが漏れていた。
桟にも敷居にも、ふんわりと積もる雪。
それどころじゃない、ヤバい。
自分の腕が窓ガラスを突き破り、血まみれになる幻覚が一瞬、見えた。
ギュッと目を閉じて、私はそのまま、見知らぬ誰かの家の窓ガラスをーーー
突き破る音も、衝撃もなかった。
代わりに、
「おおっと! ……大丈夫!?」
男らしい重さのある、だけど優しそうな声。
同時に、雪に濡れて強張る腕を、暖かく頼もしい力で、グッと支えられる。
こ、このひとって、まさか……!?
これはまさに、万に一つの偶然。
彼が室内から、雪の様子を確かめようと窓を開けた瞬間に、私が軒下から突っ込んでいった、ということみたい。
私はそれを、居心地のいいウッディなリビングで聞いていた。
大きくはないけど洒落た一軒家は、彼の親戚の家なんだって。
法事で空けている最中の大雪で、建物に被害がないか確認がてら、雪かきをするよう頼まれたそうだ。
世界的アスリートの彼が、そんなフランクな親戚付き合いをしているなんて、なんだか微笑ましい。
香り高く甘いココアを出されて、バクバク言っていた私の心臓もようやく落ち着いてきた。
室内から見る夜の雪は、ファンタジー物語の一場面のように幻想的。
しかも、私の後ろには、サイズぴったりのざっくりしたセーターに、履き古したデニムという、くつろいだ姿の駆クン。
これでウットリしなかったら、女じゃないでしょ。
「ケガがなくてよかった」
「ぁ……」
背後から私の両肩に手を置いて、彼が言った。
それだけで、背中にキュンと甘い痺れが走って、自意識過剰な声が出ちゃう。彼は、留守を預かる家で、ケガ人を出さなかったことにホッとしているだけなのに。
「……びっくりしたよ。窓を開けた瞬間、ピンクのコート姿の君が、両手を広げて……妖精が飛び込んで来たのかと思った」
「そ、そんな……不注意ですみませ……ッ」
都合よく錯覚してるだけのはず。
だけど、彼の囁きは熱っぽくて。厚いてのひらは、愛撫するように私の腕をゆっくりさすって。
ココアを飲んでいるだけなのに、お酒に酔ったように、身体が火照ってしまう。
「……んあ……っ、ダメ、外から、見えちゃ……うぅんッ!」
さっき突っ込みかけた窓枠に内側から手をついて、甘い声をあげる私。
彼の愛撫は、錯覚じゃなかった。
後ろから覆い被さる彼にバストを揉まれ、熱い肌と、筋肉の重さに耐える私の腕は、ワナワナと震えてしまう。
「震えてる……まだ、寒い?」
耳に口づけながら囁く彼。
同時に、カットソーの下に侵入した手が、直に胸を攻める。
「ちがっ、あぁ……あつ、熱いのぉ……」
「ああ、このおマメが熱いんだ?」
弾力のある太い指先で、敏感な突起をクリクリと嬲られると、目の前に降る雪が、ピンク色に変わっていくみたい。
「じゃあ、こっちのおマメも、熱くしてあげないとね」
もう片方の手でスカートを捲り、彼がその言葉通りに、ショーツの中のおマメをこする。
「……ひゃうッ!」
それだけで、私は軽くイっていた。
幻想的な雪景色に、外から見えてしまうんじゃないかというスリル。
おまけに、彼の大胆な指が加わったんだから、ひとたまりもなかった。
「あぁ……はぁ……はぁぁ……」
腕だけじゃなく、腰も震わせながら、私は荒い息をつく。
「あれ? もう、イっちゃったの?」
「だ、ってえ、きもち、よくってぇ……」
「でも、まだまだ足りないよね?」
彼、言葉と同時に、私のアソコから手を抜いて、窓を開け放ったの!
「……やぁっ!?」
途端に吹き込む、雪と冷気。
だけど、火照って潤んだ身体に、その刺激が心地良い。だけど、
「だめ、ダメッ、外から見えちゃうぅ!」
「この雪で、こんな時間に外を歩く人なんかいないって。むしろ、誰かに見てほしいんじゃないの? この、乳首がギンギンにイッてるエッチなおっぱいとか!」
「ひあぁぁ!」
彼、私のカットソーをブラごとまくり上げて、吹き込む雪に私のバストを晒した。
「あ、つめたっ、あ、あぁん……ッ」
彼の言う通り、ビンビンにしこったままの乳首に雪片が触れるたび、ピリッとした快感が弾ける。
この先に、もっともっと大きなエクスタシーが待っていることを、教えてくれる。
「冷たいのが、イイんだろう?」
彼には全てお見通し。
私、羞恥心も寒さも忘れて、はしたない声を振り絞る。
「い、いいっ! お、おっぱい、またイっちゃうぅ!」
「ほら、おっぱいだけじゃなくて、こっちも……」
彼、そう言いながら、窓の外に積もる雪を、右手で掬う。
雪だか涙だかわからないけれど、目がかすむ。
白やピンクがチカチカする視界の中を、彼の腕が、ゆっくり動いて……
「あーーーーッッ!」
ビリビリッ、と、脳天まで強烈な刺激が貫いた。
胸から離れた手がショーツごとタイツを引き下ろし、剥き出しになったアソコに、てのひら一杯の雪が押しつけたの!
「ああっ、あひィっ、だめ、そんなのぉお……!」
痺れるような冷たさ。
なのに、羽のように軽やかで、フワフワした感触。
降りたての都会の雪が、彼の指と一緒に私のナカに分け入ってくる。
燃えるように熱い粘膜に、ゴツいけど巧みな指先が、真っ白な悦びの塊を塗り込めていく。
グチュグチュと掻き回され、前後にこすられながら、
「……はうぅ、んあっ、ク、クる、すっごいのが……」
腕に力が入らなくて、窓枠に突っ伏した私は、雪の夜の静寂を引き裂くような絶頂の声を、
「クるぅ……うわわわわっ!」
バササッ!
次の瞬間、私は軒下に積もった雪に滑って、見知らぬ民家の壁に激突していた。
その衝撃で、屋根から落ちかけていた雪の塊を、モロに浴びた。
「……ぶはっ、げほっ、ごほっ!」
口の中まで入ってきた雪を吐き出しながら、壁に手をついて、かろうじて姿勢を保つ。
もちろんその壁に、窓なんかない。
奇跡的なタイミングで窓を開ける、頼もしい腕もない。
見回すと、休みなく降り続く雪の中、家路を急ぐらしい何人かの通行人が、気の毒そうに私を見ていた。
「あ、アハハ……あっぶなかったー!」
半分ヤケで、私は空元気の独り言。
まだ少しある家までの道を、どこかにあのファンタジックな窓が見えないかと願いながら、慎重に歩きはじめたの。