芸術の秋。
日中は、まだ残暑といってもいいほどの気温だけど、午後3時をすぎると急に秋らしさが増す季節。
私は繁華街の片隅に建つ、レトロなギャラリーに来ていた。
仕事のお使い先から直帰したので、まだ4時前。
この秋流行りそうなアッシュピンクのフレアワンピースはノースリーブ。黒地にボタニカル柄のカーデを羽織った私は、我ながら、ギャラリーのムードにぴったりマッチしていた。
とはいえ、アートに目覚めたわけじゃない。
じつは、 実家の母の知人が個展を開くので「記帳してこい」と命令されたの。
差し入れが必要だったり、無理にチヤホヤしなきゃいけないから、行きたくないんだって。
ま、母に貸しを作るのも悪くないし。
そう思いながら、ギャラリーのドアを開けた。
中は壁も床も板張りで、ランプやスタンドライトの黄色っぽい光に照らされた、やっぱりレトロモダンな空間。
中央に大きな背もたれのついた、立派な椅子。四方の壁に沿って、豪華な刺繍の布をかけた、細長いテーブル。
それらの上で、光を照り返しているのは、中指くらいの長さから、天体望遠鏡みたいに大きな……、
これ、何だろう?
そういえば、何の個展だか、聞き忘れてた。
母からのメールにあったのは、ギャラリーの住所と名前だけ。それも、ちゃんと確認しないで来ちゃったから、場所を間違ったんだろうか。
いったん外に出よう。
と、後ろを向いた瞬間、
「よかったら、覗いてごらん」
声をかけられて、ビクッとなる。
「覗くだなんて、人聞きの悪い。私、そんなつもりじゃ……」
自分でも、何が後ろめたいのかよくわからない言い訳をしながら、振り返った。
壁の一角に立つ衝立の向こうから出てきたのは、ヤダもう、やっぱり!
四条丸駆クン!
それも、ガチムチのボディラインをゆったりと覆う、昔の画家みたいなスタンドカラ—のチュニック姿。その下には、やっぱり充分な余裕のあるワイドパンツ。
その格好だけなら、ただのコスプレ企画?って感じ。
だけど、彼の目つきや表情は、ヒヤリとするような、ミステリアスなオーラをまとっていた。
今まで見た彼とは、全然雰囲気が違う。デカダンな芸術家みたい。
「……覗くって、何を?」
「カレイドスコープ」
私の目を見据えながら、低い声で彼は言った。その声に耳の下をくすぐられたみたいに、ゾクゾクしちゃう。
カレイ、なんだか知らないけど、このギャラリーでは、それの展覧会が開催されてるらしい。やっぱり間違ってたか。
だけど、そんなこと、すぐにどうでもよくなった。
「万華鏡のことさ」
そう続けて、彼は中央の椅子に歩み寄り、30センチ以上ありそうな、陶製らしい筒を取り上げた。彼の大きなてのひらと指が、かろうじて回るくらい太い。
なんだかHな連想をさせる眺めに、私の顔はカッと熱くなった。
だって、しょうがないじゃない。駆クンが、まんげきょう、なんて言いながら太くて長いモノを……。
「さあ、覗いて」
私、魔法にかけられたようにフラフラと進み、彼から万華鏡を受け取って、片目に当てる。彼は私の後ろに回り、背後から腕を伸ばして、万華鏡を回転させる手助けをしてくれた。
「……わぁ……」
幾何学的につながりあう美しい模様で、丸い視界がいっぱいになる。
筒が回るにつれ、模様はゆっくりゆっくり変化していく。
鮮やかに花開いた蔓バラが絡み合うような、妖艶な模様へ。極彩色の鳥の羽を、合わせ鏡に映したような、幻惑的な模様へ。
私も、子供の頃に持っていたはずだけど、こんなに綺麗じゃなかった。
「こんなのもあるよ」
彼、私に大きな万華鏡を持たせたまま、今度は反対の目に、中指くらいの小さい筒をあてがう。
こんな小さな万華鏡もあるの?
今度は小さすぎて、片目を閉じないとうまく覗きこめない。
そんなに小さいのに、描き出される模様は無限大みたいに広がっていて。官能的なほど複雑につながりあっていて。
思わず喉を鳴らす。と、
「美し過ぎて、怖いくらいだろう?」
「……ッ!」
私のうなじに唇をつけて、彼が囁いた。
いつの間にか私達、密着してる。
チュニック越しに、彼の筋肉の起伏と、熱いエネルギーを感じた。お尻には、もっと熱いフランクフルトみたいな塊が、押し付けられている。
「ぁ、や……」
「君が持ってるの、7万くらいする作家物だから、気を付けるんだよ」
「えぇぇ〜!?」
そんなこと言われたら、太い筒を両手でしっかり握るしかない。
お尻の割れ目にネジ込むように、彼が股間を押し付けてきても、抵抗なんかできないの。
「ほら、君のワンピースと同じ色だよ」
「くぅ……ッ!」
彼が「同じ色」と言ったのは、さっきの小さい万華鏡。
それがわかるのは、私のワンピースの裾が胸の上までまくられているから。ショーツをおろされ、私のアソコを出入りする筒の色が、私に見えるから。
彼の指先につままれてると、小指くらいにしか見えないソレが、私のナカをリズミカルに往復している。
クッチョ、クッチョ、といやらしい音に合わせるように、
「あっ、うん、ああッ、んふぅ!」
私の声も止まらない。
アッシュピンクの金属製の小さな万華鏡には、凝った浮彫や飾りがくっついていて、凹凸が目立つの。
その凹凸で、ナカの感じるポイントを引っかかれる、たまらない。倍の太さのモノでイジめられてるみたいで、Mっぽい悦びさえ感じてしまう。
「イイよ、シたいように、してごらん……」
そんな私に囁く彼の言葉は、悪魔の誘惑みたい。
「……ぇぶぅ、ふぁっ、んあ、アッアッ……」
私、彼にそそのかされるまま、両手に握った7万円の万華鏡を舐めしゃぶっている。
ナカをこすられながら、滑らかな陶器の表面に舌を這わせていると、複数の彼に凌辱されてるみたい。
妖しい模様に絡め取られて、理性が失われていく。
大きいのと小さいの、それに彼の股間の万華鏡にお尻を攻められて、私はもう爆発寸前。
「……一番イイのは、どの万華鏡?」
「んはぁッ、ぇ、じぇんぶイイッ、全部きもひいぃのぉおーーーッ!」
「……ノウ? かれいすこぅ?」
「……はいぃっ!?」
目の前に、鼻の高い外人のおじさんが立って、不審げに私を見てる。
そこはギャラリーのドアの前。
今回は私、中に入ってさえいなかったみたい。
ナカにはまだ、小さい万華鏡のゴリゴリした快感が残っているみたいなのに。
首をかしげながら、足元の看板を指さすおじさん。
たぶん、カレードスコープ展とでも書いてあるんだろう。
私は、ひきつった笑顔を無理やりに浮かべる。
"マンゲキョウには、もうマンゾクしましたから"
と、言えるような英語力はないので、
「い、いえーす、いえす、あい、のう。ぐっばい、さんきゅー!」
とかなんとか口走りながら、後ろ歩きでギャラリーから離れて行ったの。