猛暑日の週末。
出かける予定がないのは別にいいんだけど、イマイチ効きの悪いクーラーの下、ゴロゴロしているのにも飽きてきた。
そういえば、先月閉店した近所のラーメン屋の店舗で、工事が始まっていたっけ。
お洒落なカフェでもできてないかな?
そう思った私は、日傘を手に、午後の陽射しがギラつく真夏の空の下に、出ていった。
木造の古い民家を改造したラーメン屋は、予想通り、カフェっぽい雰囲気に変わっている。
工事道具やブルーシートも見当たらないし、もう営業しているのかしら。
だけど、看板も見当たらない。
外が明るすぎて、中の様子も伺えない。
商店街を歩く人々は、皆熱さにうんざりした顔つきで、このお店に興味を惹かれる様子もなかった。
私は思い切ってドアを押した。
ラーメン屋だった時と同じく、少しきしみながら、ドアは開いた。
カウンターと、テーブル席が二つだけの、狭い店内。冷房が入っていないけど、木造だからか、我慢できないほどの暑さじゃない。
カウンターはラーメン屋のままだけど、椅子やテーブルは可愛い北欧調に変わってる。
やっぱり、カフェになるんだろうな。
カウンターに近づくと、端っこに大きな機械が乗っているのがわかった。昔のドラマやアニメで見たことがある。これ、海の家なんかにある、手回しかき氷機だ。
思わず触ってみようとした瞬間、カウンターの奥のドアが開いて、誰か入ってきた。
「あ、すいません、営業は来週からなんですよ」
「!?」
そう声をかけられたけど、私は言葉も返せず、硬直してしまう。
だって。
大きな段ボールのような物を抱える、丸太のように逞しい腕。パツパツのTシャツに浮かび上がる、筋肉の起伏。
膝下でザクッと切ったデニムの、洗いざらしたような色合いが、赤銅色に灼けたふくらはぎのセクシーさを引き立てている。
四条丸駆(しじょうまる かける)クン、今度はカフェを始めるの〜!?
「今日はこいつを試してみたくて」
彼は荷物をカウンターに置くと、かき氷機をポンと叩いて、楽しそうに言う。
「わ、私も、これ、スゴイなーと思いました!」
「そう? だったら嬉しいな。天然氷を使うならコレだと思って、昭和の骨董品を探して手に入れたんだよ。そうだ、せっかくだから、味見していかない?」
「えーっ! 嬉しい!」
彼、気さくに誘いながら、段ボールを剥がした。中から現れたのは、分厚いガラスのように透明な、見るだけで涼やかになる氷の塊。
それを手早く切り分け、一部をかき氷機へ、残りをアイスケースに仕舞う。
子供みたいにワクワクする私の前で、彼は、大きなガラスのボウルを下にセットしたかき氷機のハンドルを回し始めた。
ガリガリ、シャッシャッと軽快な音と振動。かき氷機の下から、霜柱みたいに白くて繊細な氷の欠片が、ハラハラと落ちてくる。
見る見るボウルに積もっていく、羽毛のようなかき氷。
そんな氷片を見つめる、熱っぽい彼の眼差しが、たまらない。
氷にジェラシーを感じてしまった私は、無意識のうちに腕を伸ばし、落ちてくる氷片をてのひらで受けとめていた。
火照ったてのひらに、冷たさが心地良い。だけど、呆れたような彼と目が合って、
「あ、ご、ごめんなさい……つめたっ!」
私、何故か咄嗟に、てのひらの氷を、胸に押しつけていた。
驚くほど柔らかで頼りないかき氷は、一瞬で溶けて、キャミソールワンピの胸に染みができる。
薄い生地に、ブラが透けてしまう。
「あ……」
彼の熱いまなざしは、それでようやく氷から私に移ったの。
彼の方を向いてカウンターに座らされ、脚を開いた体育座りみたいな格好になっていた。
「そんなに、暑いの?」
「ひゃうっ!」
彼が氷をすくい、私の項に押しつける。
鋭い冷たさが、じゅわん、と溶けた後は、一層熱く火照った感じ。
「ひぁ、ああ……ッ」
続けざまに、腿や脇腹をかき氷で攻められる。
こんな愛撫、初めて。
背中を伝うのが、汗か氷が解けた水なのかもわからない。
「じゃあ、ココも涼しくしてあげるね」
彼は新たな氷をすくうと、ワンピースの裾をまくり上げた。
「ほら、自分で裾を持ってて。濡れちゃうよ」
操り人形みたいに、彼の言うがまま、片手で裾を持ち上げる。剥き出しになった下半身から、彼は片手で軽々とパンティを引き下げた。
膝の辺りまで降ろされて、私は自分のアソコを見下ろす羽目になる。
汗だかなんだかわからない潤いで、私の肌はツヤツヤ。その割れ目へ、氷を載せた彼のてのひらが、近づいてくる。
「っそ、そんなぁ……あ、待って、ま、ぁああっ!?」
キン!
脳天に、冷たさと快感が突き抜けた。
彼、割れ目に押しつけた氷ごと、強引に指を捻じ込んでくる。
「んぁっ!」
淡雪のようなかき氷はすぐに溶けてしまうけど、シャリッとした感触がものすごく刺激的。
しかも、冷えきった彼の指は、火を噴きそうに熱く滾った粘膜に、鳥肌が立つほど気持ちイイの。
「くうっ、いィィ……冷たいの、気持ちイイッ!」
「そんなに熱く締めつけてきたら、僕の指も溶けちゃうよ……」
私、後ろに回した片手で身体を支え、彼の方へアソコをせり出して、はしたなく腰を振った。
「だめっ、溶けないで! もっとシてぇ……」
おねだりした通り、彼のひんやりした指は、私の最奥の熱いマグマを激しくカキ回してくれる。
熱い。冷たい。どっちもイイ!
我慢できない!
冷たさと熱さの波に揉まれ、氷の溶岩が噴出するように、私の中でエクスタシーが爆発した。
ガッシャーン!
え、そこは、ドッカーンじゃないの?
絶頂の余韻にクラクラする頭に、
「何やってんの!? 壊れたらどうしてくれんのよ!」
機嫌の悪そうなガラガラ声が響く。
私、カウンターに置いてあったかき氷機に倒れ込んで、落としちゃったみたい。
「す、すいません……営業中かと思って……」
「営業は来週から! もう、出てってくださいよ、早く!」
私を追い出そうとしているのは、いかにも”脱サラでこだわりのカフェ始めます”といった、うるさそうなおじさん。
彼とは似ても似つかない。
いいわよもう。来週からだかなんだか知らないけど、こんなお店、行かないわよ。
あんなおっさんが百回生まれ変わってもつくれないような、極上のかき氷を食べたばっかりなんだから!
心の中で捨て台詞を吐き捨てて、私は炎天下の往来に飛び出した。