毎年行こうと思ってた、海上花火大会。
今度こそ!と、重い腰を上げて、行くことにした。
ひっさしぶりに、男のコに誘われた、というのが一番の理由なんだけど。
だけど、誘ってきたのは冴えない同僚クン。BBQだの合コンだの、しょっちゅう企画はするんだけど、蓋を開けてみるといつも、暇つぶしにもならないしょっぱさなのよね。
私を誘ったのもきっと、”皆で花火大会企画”にノッて来る人が、もういなくなったから。
だから、とても『デート』なんてテンションにならない。
ショートパンツのサロペットに、透けるシャツワンピを羽織って、今年風味は盛り盛りだけど、全部通販のプチプラコーデで済ませちゃう。
会場は、思ったより人手が多く、波の音さえよく聞こえない。熱く蒸された潮の香りだけが、海辺の気分にさせてくれる。
ビールはやかき氷はもちろん、イカ焼きやとうもろこしの屋台が立ち並び、夏祭りムードが高まっていた。
浴衣の女の子を見ると、やっぱり着てくればよかったかも、なんて悔しくなるけど、冴えないクンのエスコートにそれほどの価値はない。
場所取りにモタモタ、何とか隙間を見つけたと思ったら、飲物買ってくる、と人混みに消える。当然、一人分の隙間には、あっと言う間に他の人が割り込んできた。
はあ。段取り、サイアク。
ため息をつくと同時に、どおん、とお腹に響く音が、遠い波の彼方で響いた。
直後、梅雨が明けたばかりの色濃い夜空に、ヒュルヒュルと尾を引いて昇った種が、パンッ!と弾ける。
光の粒が、まあるく広がって、赤から緑へのグラデーションしながら、ミラーボールみたいに広がった。
続いて、どんどんどん、と発射音が連なり、巨大な線香花火が、空を埋め尽くす。
私は息を飲み、両拳を顎の下に添えて、ゴージャスな輝きに目を奪われる。
ナマで打ち上げ花火を見るのは何年ぶりか覚えてないくらいだけど、やっぱり、スゴい。
「……赤緑牡丹としだれ柳か。オーソドックスだけど、やっぱりキレイだな」
そのとき、耳もとに、そんな呟きが聞こえた。同僚クンの声じゃない。
太くて豊かな、ウォークライの似合う、この声は……
「……四条丸君!?」
思わず声を上げて振り返る。叫ぶような声になっちゃったけど、花火に夢中の観客に、気付いた様子はなかった。
赤銅色に灼けた頬に、花火の照り返しを浴びて、ニッコリ微笑む彼。最近ちょっと不調気味だけど、不屈のアスリート・四条丸駆クンその人だ。
肩から腕へ、ムキムキと盛り上がった筋肉が、タンクトップから覗いている。
汗を帯びた肌がツヤツヤ輝いて、花火に集中できないほどセクシーなの。
彼、うっとりする私の両肩に手を置いて、からかうように揺すった。
「ほら、次は連発のスターマインだよ。しっかり見てなくちゃ」
「……は、花火、詳しいんですね……」
なんて、オロオロ口走ってる間に、いままでよりもっと重い音が、たて続けに炸裂。
華麗、なんて言葉じゃ足りない、色と光の競演が、夜空を彩った。
「……きゃっ!」
だけど、私はそれどころじゃない。
彼、私の肩から話した片手を、ノースリーブのサロペットの脇に、潜り込ませてきたの。
ブラを押し上げられる。
汗ばんだ熱いてのひらが、下から胸をタプタプ。それだけなのに、胸から背中へ、首筋へ、痺れが広がって鳥肌が立っちゃう。
「今度は彩色千輪菊だ。見なよ、お花畑みたいだよ」
「やっ、ア……」
目の前でも、頭の奥でも、無数の小花がチカチカした。
だって、彼のもう片方の手が、シャツワンピの影で、私の太腿を撫で回すの。
汗ばんだ内腿を、指先で輪描くように刺激されると、はしたなく脚が開いてしまう。腰に力が入らなくなり、クニャクニャとへたってしまいそう。
そんな私の脚の間に、ショートパンツから伸びる彼の太腿が差し入れられた。
私、否応なしにそこに体重をかける。すると、彼の膝頭が、後ろから私の割れ目を、ギュッと押す。
「くンンッ!」
我ながら蕩けた声。
「もっと可愛い声出していいよ、花火が誤摩化してくれるから」
「ほん、とぉ……? ふぁ、アア……」
彼にそそのかされるまま、私、その膝頭にアソコを押し当てて腰を振った。さすが、屈強なアスリートは、私の身体を膝頭だけで支えてびくともしない。
四条丸クンをオナニーの道具にしてるような後ろめたさが、たまらない快感なの。
前からは、サロペットのパンツの裾をくぐって、彼の指が来る。
「今夜のメインは、ここの花かな……?」
なんて、意地悪を言いながら、彼の膝頭に半ば潰されたクリちゃんの根元を小突く。
「ぅあッ! そこぉ、ダメぇ、キちゃう、からぁ……」
露骨な善がり声を垂れ流しながら、彼にもたれて仰け反る私。
だけど、花火の音が消してくれる。
目の前に散る火花は、まぶしすぎて、もう色もわからない。
わかるのは、下半身に沸き立つ快楽の波だけ。
海上で怒濤の連発が始まり、波間から凄まじい光の滝が、天に向かって迸る。
私のエクスタシーも、一緒になって迸る。
「あぁ、キたぁ、キてるのぉおお……!」
彼の逞しい胸板にもたれ、存分に背中を反らして……。
「イッたああ!」
痛い。なんで?
イッたんじゃなくて、なんで痛いの?
私、人混みをモーゼみたいに割って、仰向けに転がってた。似たようなこと、前にも経験した気がする。
慌てて半身を起こし、辺りを見回すけれど、四条丸クンはどこにもいない。
「大丈夫!? 熱中症!?」
声をかけてきたのは同僚クン。両手に紙コップを持っているせいで、私を助け起こすこともできない。
ま、別に期待してませんけど。
地面に尻餅をついたまま見上げる夜空には、花火の名残の硝煙が漂う。
打ち上げは終わり、人混みはばらけて、遠くに光る波が、かすかに見えた。
だけど、半分妄想とはいえ、今夜の花火は一夏のアツい思い出。残念な同僚と並んで見るより、ずっと素晴らしかったんだから、来てよかったわ。
「……うーん、そうかも。調子悪いんで、私、帰るね!」
私、絶頂の悦びを上書きされないよう、さっさと駅に向かって歩きだした。