お相撲ブーム、と言われてるけど、マジでそうみたい。
チケットが、取れないんだって。
発売日になると、ネットも電話繋がらないうちに、全日完売御礼しちゃうんだって。なんて、人ごとみたいに言う私。
ウチの会社、地味な中小企業だけど、社長か何かのコネで大相撲のチケットが数枚、回ってくるの。
もちろん枡席なんかじゃないけど、今やプラチナチケットだから、社内では厳正な順番制。その順番が、ついに回ってきたってわけ。
隣の椅子には別部署のお局様が座るみたいだけど、相性が悪ければ席にいなければいいし。
正直、体積が大きすぎる半裸の男同士の取っ組み合いより、初めての国技館の方に興味があった。
最寄り駅は大混雑。まるでお祭り。
外人の団体さんもけっこう多い。
相撲ブームって、本当なのね。
それに、お相撲さんって、けっこうイケメンが多い。ピンクのマワシが可愛い宇田君とか、ガチムチでかっこいい岩浦君とか。
そんな人気力士の会場入りを見ようと、力士入場口には、アイドルの入り待ちみたいな人垣ができていた。
誰が誰だかわからないけれど、目の前を通りすぎる力士は、思わずのけぞるほど迫力たっぷり。身の厚さなんか、私の三倍くらいありそう。
とはいえ、お相撲さんに欲情はしないなあ。私がキュンッとかジュンッとかするのは、やっぱり……。
トリップしかけたとき、気がついた。
入り待ちの人垣の奥、やや影になったベンチに腰掛けている人。
ポロシャツにデニムという普通のかっこうで、サングラスをかけて帽子をかぶってるけど、私の目はごまかせない。むしろ、誰も気付いてないのがおかしいでしょ。
私、人目を引かないよう、そっとベンチに忍び寄った。
スマホをいじる彼、四条丸駆クンの、うつむいたうなじに盛り上がる筋肉の素晴らしさ。やっぱり、マッチョはこのくらいがちょうどいいのよ。
「……お相撲、お好きなんですか?」
間近に見る腕の筋肉や、フリックに苦労しそうなほど大きくゴツい指先を、うっとり見下ろしながら、そう囁いた。
彼、びっくりしたように顔を上げる。
片手でサングラスをずらす仕種と、そこから目を覗かせて、
「……みつかっちゃった」
と言う悪戯っぽい口調が、たまらなくキュート。
ゴツいのに可愛い、コレが彼の魅力よね。
「いい所に連れてってあげるから、内緒にしてよ」
そんな交換条件なんかなくたって、彼を独り占めできるだけで最高なのに。
彼の言う「いい所」は、二人用枡席だった。
私の二階席とは比べ物にならないくらい、いい席なの。
「連れが急に来れなくなったって、さっきは誰を誘おうか迷ってたんだよ」
コンサートなどとは違って、国技館の中はとても明るい。
周囲の人々は、お酒や焼き鳥を飲み食いして、昼間から赤い顔。声援を送ったり、力士についての感想を披露しあったり、けっこううるさい。
そんな中、五分ほどで一試合、つまり取り組みが淡々と行われていく。
テレビ中継をながら見したことはあるけど、力士を呼び出す独特の節回しや、神主みたいなきらびやかな行事さんの衣装が、すごく楽しい。
「……お相撲、初めて見るんです……こんないい席で、嬉しい!」
我ながら弾んだ声。ニコニコしながら私を見ている彼と目が合う。
「そんなに喜んでくれると、僕まで嬉しくなってくる」
口を耳に寄せ、肩を抱いて囁かれた。息がかかって、ゾクっとする。
彼はクスッと笑って、
「……感じちゃった? ダメだなあ、国を代表するスポーツを観戦しながら、こんな……」
続けて囁くと、私の耳の中を舌先でチョンと小突いた。
「……ッ!」
その瞬間、うなじから脳天にまで突き抜ける、悩ましいピンクの刺激。
明るい照明、太鼓や拍子木の音。ハケヨイ、ノコタノコタノコタ……と、繰り返される声。歓声。拍手。
アナウンサーの冷静な実況。
そのただ中で、私、衿元から差し込まれた手と、スカートの下に侵入した手に、お仕置きされ続けてる。
「……だ、ダメ、ですぅ……みられ、ちゃ、ンアッ」
パンティー越しにクリちゃんを摘まれると、我慢できない。
「く、ンン……ふぅ〜、んふ〜……」
なんとかささやきの低さに留めているけれど、乳首とクリちゃんを同じ動きでつねられて、喘ぎが止まらない。
枡席の一番後ろではあるけれど、背後の通路は途切れることなく人が行き来してるのに。
彼は私の耳を攻め続けながら、
「……もう皆、気付いてるかも……お相撲を見ながらはしたなく悶えてる姿が、実況に映ってるかも……」
言葉でも追いつめてくるの。
そんなことになったら、私、私……。
「……ふぁ、はぁっ……」
彼の指が、パンティの隙間から入ってきて、私のぬかるみを掻き回す。
いつの間にか誘うように正座の両膝を開いている私。かすむ視界。たぶん、目も潤んで、顔も赤くなっているはず。
そんな私が全国中継されちゃう。
股間からのヌプヌプといういやらしい音もマイクに拾われて。
手をついて。
待ったなし。
そんな言葉の合間に、私のよがり声が混ざって。
残った、残った、という声にすがる気持ちで、私はエクスタシーをこらえる。
だけど、彼の指は二本に増えて、奥へ奥へと怒濤のがぶり寄り。
「んくっ、くぅうん、や、やぁん……」
ヌポッ、ヌポッ、と容赦ない突き押しが繰り出される。
気持ちよすぎて私、おかしくなってる。
Gスポに張り手が決まるたびに、どうしても声が出ちゃうの。
腰の辺りが浮いてるみたいで、周囲の何も目に入らない。
もうダメ、残ってなんかいられない。
狭い土俵を飛び出して、快楽の絶頂へ。
イく姿を世間に晒されても、もうどうなっても構わない。
「イかせてっ、てっぺんまで、うっちゃってぇ……!」
「……えええッ!?」
自分の声に、自分でびっくりした。
私、通路に尻餅をついてる。
段差を踏み外してしまったみたい。
はるか下、遠くの土俵では、午後の取り組みが続いている。
あの枡席のどこかに、もしかしたら彼は、本当にいるのかもしれない。
私は夢遊病者のようにフラフラと立ち上がり、一階席へと向かった。
そして、一階席はチケットがないと入ってみることすらできない、という大相撲トリビアを学んだのだった。