私の名前はよしこ。でも“よしこおばさん”となってこそ“私”であると人は言います。なぜ“おばさん”なのか?誰かの“おばさん”というわけではなく、 “おばさん”=加齢具合を表現しているわけでもありません。私の行動が“おばさん”以外では成しえないものであるからです。私の趣味は人の恋愛話、セックスの話を聞くことです。と、いってもガールズTALK的に盛り上がり話し、その場で共に聞くようなスタイルでは楽しめないのです。あくまでのぞき聞き、のぞき見すること、百歩譲って1対1で根掘り葉掘り的なTALKが好きなのです。
“人の話を聞く”“心の中や状況を探る”という力はどうやら“おじさん”“お兄さん”“おじいさん”には装備されていないようです。“お姉さん”と呼ばれる人達には盗み聞きする根性がないようです。そして“おばあさん”には興味と能力はあっても、盗み聞きできるほどの聴力がなかったり、長時間粘れる脚力がなかったり。でも、体力的にまだその余地がある。それが“おばさん”なのです。
と、いうことで、26回目の「よしこおばさんは見た!」よろしくお願いいたします。
盗み聞きをしていて最近気になることがあります。ご結婚されているあなたは“夫”なんと呼んでいますか? 主人、夫、旦那、あなた、名前、あだな・・・・・
先日、定位置のフレッシュネスバーガーでいつものように、のんびりと盗み聞きをしていると、30代とおぼしき女性がこう呼んでおりました。
「うちの旦那様がさぁ〜・・・・」
旦那様????!!!!私は仰け反りました。「だんなさまがさぁ〜〜」エコーのようにいつまでも頭の中で、こだましました。旦那に様で“旦那様”。車が激しく行き交う国道を前でありながらも、春が来たような温かい日差しに導かれ私は江戸時代に休み時間を過ごしている奉公人前にタイプスリップしそうになりました。思わずその女性に髷がないか見てしまったほどでした。
その日、私は調査を始めました。私立の幼稚園の近くにあるカフェに移動し、盗み聞きしました。“妻”が“夫”を人前で話すとき、“主人”“亭主”が一番多く、次は旦那。以外に呼ばれていたのが“旦那(さん)”。“夫”“パートナー”と呼ぶ方は一人もいなく、“うちの〇〇くん”という方と“〇〇(苗字)さん”と呼ぶ方が、それぞれお一人、いらっしゃいました。 ※“パパ”“お父さん”の種の呼称は除外
その夜、今度は“夫”が“妻”をどう呼んでいるのかも調査いたしました。 場所は近所の居酒屋。ちょい飲みをする30代オーバーの男性でいつも溢れているお店です。しかし、このお店で“妻”の話しをしている方が少ない。みなさん、会社やサッカー、そしてスコアがどうした、釣りがどうしたという話しばかり、こうも“妻”が話題にならないとは・・・。調査になりません。昼間の風景とはあまりにも違い驚きました。その日は諦め、友人を調査対象にし、調査しました。 「〇〇さんお元気?最近お会いしてないけど・・・」と“妻”の話題を出し、なんと呼ぶかをチェックしました。
“嫁”“嫁ちゃん”“家内”“相方”“かみさん”“妻”“つれあい”“名前”そして“うちの”“あれ”“あいつ”。妻の呼び名のバリエーションのなんと多いことでしょう。“嫁”“妻”“うちの”という呼び方が一番多く、“パートナー”はこちらも皆無でした。※“ママ”“お母さん”の種の呼称は除外するまでもなく皆無
“妻”が“夫”の呼び方を選択しようとしても、対等な関係を示す呼称といえば“夫”か“パートナー”しかありません。友達や家族なら名前や“つれあい”でもいいのかもしれませんが、どうしてもこの2つが主力になります。さらに夫と妻の間に上下関係を感じさせない(妻が上)呼び方となると、それは皆無。本来“上様”から呼び名がきている“かみさん”は唯一、それにあたるかもしれませんが、“様”が“さん”に変わった時点で、その意味合いは減退していると思われます。
人前でしっくる“夫”の呼び方がないと感じている方も多いのではないのでしょうか?“夫”側にはそんな迷いはないのでしょうね。
「私の夫、関西出身で私のこと、嫁ちゃんとか相方とか人前で言うんだけど、私嫌でね。すごく雄臭い。妻にしてほしい。」 夫からすれば、愛情がこもった言い方らしいのですが、なんとも言えない嫌悪感を感じるそうです。
「夫のことパートナーって会社で言ってるんだけど、パートナー?籍入れてないの?とか聞かれるんだよね」 “パートナー”という呼び方をしていると、特別な思想の持ち主だと思われるから社外の人に“主人”と言うように指導されるそうです。
「旦那や主人でいいって私は思うよ。だって一生懸命働いて一家を支えてくれてるんだもん。人前でも名前で呼ぶ友達いるけど、敬意がないようで私は嫌いだなぁ」 そう話した友人は、バリバリのキャリアでした。
「俺は普段、〇〇って名前を呼んでるんだけど、俺の実家では恥ずかしいから“おい”とかかなぁ」 この男性の母親は、“妻”が息子の名前を呼び捨てで呼んでいるのが気に入らないらしく、それで関係が悪くなったそうです。
家や友達の間ではまだいいですが、会社や親しくない方を話す時、しょうがなく“主人”と呼び、そのたびに踏み絵を踏むかの如く、自分を卑しめているような気持ちになるという友人もいました。
ネットの中ではどうなのかしら?と思って見ていたら、「公の場では“主人”“夫”を使うべし」と、指南する声が多いようです。
今回の調査で、妻や夫のことをどう呼んでいるかで、その人のジェンダー感がはっきりとわかりました。主人と呼ぶことに違和感を感じていると答えた友人Aの中に、確かなジェンダーへの視線を感じ、部下の男性を厳しく従えている友人Bが、夫から嫁と呼ばれ、にこにこしているのを見て軽く失望したりしました。これは新たな発見でした。
余談ですが“旦那”とは本来仏教の言葉“ダーナ”=“与える”“施す”に語源があるらしく、 “施しをする人”“知恵を与えてくれる人”という意味で使われていたという文献もありました。そして旦那の意味を調べてみると 「妻が商家の奉公人が主に、芸者がひいきにしてくれる客を呼ぶ時の敬称。めかけの主人。パトロン。」とも書いてありました。皆様、もう旦那って気軽に呼ぶのやめませんか?と、よしこは思うのです。しかし、どうしても「主人と呼べ」と会社や相手の親から言われた時、ダーナと呼んだらいかがしょう。 「うちのダーナが・・・」そう言って文句を言われても、この意味ならなんの問題がございましょうか。
今回もよしこにお付き合いいただき誠にありがとうございました。かしこ。