午前中から、FAXの送信ミスや電話の取り次ぎ間違いをやらかして、散々だった金曜日。
給料日は来週で、お財布の中身はあんまりゴージャスじゃなかったけど、こんな日にまっすぐ帰宅するなんてみじめすぎる。
だから私、最寄り駅のひとつ前で降りて、以前一度行ったことのあるバーに寄ろうと思ったの。
そこは、もう転職しちゃった先輩に、飲み会の後で連れていってもらったお店。
悔しいけど口説かれたりはしなかった。だけど、緩いカーブを描く分厚い木のカウンターや、優雅なカッティンググラスに浮かべたキャンドルの柔らかな光に、すごく癒されたことは覚えてる。それに。
今思うとあの先輩、ちょっと彼に似ていたかも。
『彼』っていうのはもちろん、最近私のハートとボディを騒がせっぱなしのアスリート、四条丸走(しじょうまる・かける)。
先輩、背は低めだったけど、胸が厚かった。背広を脱いでシャツの袖をまくったとき、意外に逞しい腕の、肘のかたちがすごくカッコよかった……ような、気がする。
ま、私も酔っぱらってたから、都合よく記憶を改造してるのかもしれないけど。
駅近だけど、目立たない裏通り。古びた雑居ビルの2階。あれから2年くらい経つけど、案外覚えているものね。
私、ワインレッドの革を張った、重い扉を押し開けた。
カウンターだけの店内だけど、天上が高くて狭苦しい感じはない。オレンジ色の柔らかな照明。BGMが流れてないのが、なんだかすごく大人っぽい感じ。
金曜日の夜だというのに、他にお客はいないみたい。カウンターを見回していると、何故か私の右側から
「いらっしゃい」
の声。びっくりしてそちらを見た私、さらにびっくりして、思わず声が出ちゃった。
「うそぉ!」
赤銅色に灼けた太い首を包む、真っ白なカラー。そのセンターには、黒い蝶ネクタイが行儀よくとまってる。黒光りするベストの胸元は、ダイナミックな筋肉の隆起が、まるで段々畑。
そして、まくりあげたシャツの袖から剥き出しになった、チキンレッグみたいに逞しい腕。
その両腕に、スーパーの袋らしきものをぶら下げた彼、記憶の中の先輩どころじゃないほど、四条丸君にそっくりだった!
どうして四条丸君が、バーテンダーをやってるの!?
「すいませんね、開店したばっかりで。あ、お好きな席へどうぞ。すぐにご注文を伺いますから」
ショックのあまり、目を白黒させる私に気づかないのか、彼はフレンドリーな調子でそう言った。ドアの右には、ストック用の冷凍庫か何かがあるみたい。彼、盛り上がった背筋とプリッとした美味しそうなお尻を見せて、そこに食材らしきものを詰め込んでる。
私、彼の方をガン見しながらも、どうにかカウンターについた。
彼の存在感が移動する。カウンターの中に入る。私の正面に立って、小首を傾げる。
「お待たせしました。ご注文は?」
「……あ、あうあう……えっと……」
メニューを手に取るけど、注文なんか思いつくわけがない。私、すでにメロメロに酔っぱらっているんだもの。
「じゃあ、貴女のイメージでカクテルをつくろうかな」
いたずらっぽい口調と同時に、彼は、カウンター越しに、サッと腕を伸ばした。
次の瞬間、私は彼の逞しい腕に両脇を掴まれ、軽々と持ち上げられている。何が起こったか呑み込む前に、私はカウンターの上に、ストンと座らされていた。
「……え? なに、なに……!?」
混乱する私の真正面で、彼は垂れ気味の目をくしゃっとさせて、
「どんなカクテルが似合うか、しっかりリサーチしないとね」
私の脇から腿に手をずらし、屈み込んだ。
大きなてのひらが私の腿を撫で、スカートをまくりあげる。有無を言わさない力で、両脚を開かされる。軽くつまんだだけで、ストッキングが大きく裂けて、内腿の肌があらわになる。
彼はそこへ、顔を近づけて……
「ひゃんッ!」
ペロンと舐められた。思わず、子供っぽい悲鳴が出た。熱くて滑らかな、濡れた感触。それから、強く吸われて頭がぼうっとする。
「すごく甘い……パッションフルーツみたいに刺激的だよ……」
彼、子犬が毛布に潜るように、スカートの中に潜り込んだ。パンティ越しに、アソコ全体を含むようにむしゃぶりついて、ジュウッと吸い上げたの。
「や、そんな、恥ずかし……あ、アッ、イヤ、いやァん……」
私、彼のコリコリした肘に両手を突っ張り、顔を上げて左右に振りながら、譫言のような声をあげ続ける。だって、この蒸し暑い中、一日仕事してたのよ。アソコだって、きっとすごく蒸れてる。
死ぬほど恥ずかしいのに、彼ったら鼻先をワレメに突っ込んで、グリグリする。そんなことされたら、もっと濡れちゃう。
「ほら、ジュースが溢れてきた……」
「言わないでッ、やんッ、あぁああ……!」
口では拒みながら、私の腰は恥ずかしさと同じ、ううん、それ以上の快楽に、カクカク動いてしまうの。
彼は肝心の突起を避けて、あちこちを吸い上げる。私はもどかしさに身悶える。恥ずかしいけど、悔しいけど、もう我慢できない。
「……焦らさ、ないで……吸って……クリちゃん、吸ってぇ!」
ああ……ついに言っちゃった……!
ガクン!
痛い!
私、壁に後頭部をぶつけてた。
バーのカウンターに座ってたはずなのに、どういうこと?
あわてて周囲を見回すと、そこはガランとした電車の中。
半分腰を抜かして、椅子にへたりこむ私の前に、車掌さんがやってきた。
「お客さん、終点ですよ。この車両は車庫に入りますんで、反対側のホームにどうぞ」
「……えぇぇ〜、し、終点〜!?」
私、手前の駅で降りるどころか、終点まで爆睡してたみたい。今から飲みに行ったら、終電に間に合わない時間になっていた。
だけど、ものは考えようよね。
あのバーに、本当に彼みたいなバーテンダーがいるとは思えないし、夢の中にしろ、タダであんな体験ができたんだから、得してるんじゃない?
週末は、彼をサカナに家飲みしようっと。
私、そう思いながら、手摺を掴んでよろよろと立ちあがったの。