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痴漢は被害者の問題なのだろうか?

牧野雅子2015.10.27

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この夏、「『痴漢撲滅系ポスター』調査プロジェクト」なるものを立ち上げた。痴漢を防止する目的で作られた(と思われる)掲示物や配布物を集めて、問題を語り合うプロジェクト。電車の中や駅、街中で、気をつけてみると、あるあるある、「それっぽい」ポスターやチラシが。
これらを見て思うのは、どうも最近、女性に自衛を求める空気が濃くなってきているということ。ポスターやパンフレットのほとんどが、女性に対して、被害に遭わないように注意をよびかけるもので、読んでいるうちに、被害に遭うこと自体が犯罪であるかのような気持ちになってくるのだ。

そもそも、痴漢は被害者の問題なのだろうか? 被害者の多くが女性だと考えると、痴漢は女性の問題なのだろうか?
違うだろう。加害者がいなければ被害者は出ないのだから。
加害者の多くは男性だと考えると、痴漢は男性の問題なのだ。
しかし、「普通の」男性が、自分たちの問題として痴漢問題を考えているとはちょっと思えない。痴漢といえば冤罪問題がすぐに浮かぶこのご時世、男性にとっての痴漢問題のリアリティは、自分が冤罪の被害者になるかもしれないということらしいし。

なぜ、世の男性たちは、電車内での痴漢加害を自分たちの問題として考えないんだろう。その疑問を、最近会った男性たちに聞いてみた。が、返ってくるのは「そもそも電車に乗らないからなあ」「混んだ車両に乗らないので」という答えばかり。痴漢を生む環境に自分はいないから無関係、そういうスタンスなのだ。

どうしたら、自分の問題として考えてもらえるのか。ということで、この手は余り使いたくないのだけれど、娘や恋人のいる男性に、彼女たちが痴漢被害に遭う(かもしれない)としたらどう思いますか、遭わないためにどうしたらいいと思いますか、と聞いてみることにした。
聞いた相手は、娘を守るのは父親である自分だ! 彼女を守るのは俺の役目だ! というアイデンティティを強く持っているマモルくんたち。

一人目は、娘が生まれて数ヶ月という30代男性。
彼はご多分にもれず、スマホで娘の写真を撮っては、周囲の人に見せまくり、「かわいくてかわいくて。子どもがこんなにかわいいものだとは!」を連発している。
そんな彼に質問を向けてみると、「娘が被害に遭うなんて想像するのも嫌です」「娘との幸せに浸っているのに、そんなことを考えさせないで下さい」と言われて、早々に引き下がった。

次は、小学校中学年の娘を持つ40代の会社員。
彼は満員電車で通勤するサラリーマンで、まさに、電車内痴漢問題について質問するのにうってつけの人だ。
「痴漢って、世間で言われるほど起こってんのかなあ。見たことも聞いたこともない」
職場の女性から聞いたこともないですか?
「ないなぁ。こっちから、痴漢の被害に遭ったことある? なんて聞いたらセクハラだから聞かないし」
お子さんが被害に遭ったらと想像したことは?
「自分の子どもはそんな目に遭わない。ちゃんと教育している」
男性として、加害男性の問題としては?
「だから、教育していないから、被害に遭うんじゃないの?」
毎日、女性専用車両のある電車に乗って通勤していて、このくらいの認識なんですね。

最近彼女ができた、という20代の会社員。
「イヤですよ、彼女が痴漢に遭ったら」
どうしたらいいと思います? 男性として、何か思うことあります?
「気をつけて欲しいですね。彼女には」
加害者に対しては?
「(長い沈黙の後)同じ男だから、何も言いたくありません」
こちらとしては、同じ男だから、何か言って欲しいんですが。

高校生の娘を持つ40代後半の経営者。
「最近の若いコは成熟してるよね。高校生でも、おお、って思うコいるじゃない。妙に色っぽいっていうか」
どういうことですか?
「異性としてグッとくるみたいな。いや、俺が痴漢するっていうことじゃなくてさ。魅力的だな、っていうこと」
相手の魅力と痴漢って、関係あります?
「痴漢に遭うっていうのは、そういうことじゃないの」
ご自分のお子さんが被害に遭ったら、って考えたことありませんか?
「被害に遭ったら、その時は親として怒るよね。親として、相手に抗議するよね。親として、子どもを守る義務があるからね」
お子さんには?
「今後気をつけるように、厳しく言うよね」
気をつける?
「男ってそういうものだぞ、分かったか、って」
男は痴漢をするものだ、って聞こえますが。
「内心はそうじゃないの? 実際にはやらないっていうだけで」
痴漢という性暴力の話をしているのに相手の魅力の問題にすりかえたり、男は痴漢をするものだという前提があったり、パターナリスティックな感じといい、お話にならないというか何というか。いや、これこそが、男性のリアルなのか。

痴漢を自分たちの問題として考えない、それどころか現実を見ないようにしている、この感じって何? 娘や恋人を守るといっても、被害に遭わないように注意させるってことだし。それも、男は痴漢をするものだという前提での話だし。
マモルくんといってもこの程度。それとも、マモルくんだからこの程度なの?

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牧野雅子

牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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