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第三回 あまりにも無自覚なセクハラ加害者「マモルくん」

牧野雅子2015.03.21

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年度末、人事異動の季節ですね。引っ越し業者の車を見ることが多くなると、春なんだなあと思います。
今回は、異動といえば苦々しく思い出す、こんな話を。
知人の男性Tから、上司の嫌がらせで左遷された、上司も会社も許せん、という愚痴を聞かされたのは、何年か前の今頃のこと。
彼の話をざっくりまとめると――
同じ職場の女性社員が男性課長(だったか部長だったか)から理不尽な目に遭っているのを見て、これはパワハラではないかと思った。彼女の相談に乗っていたら、それが当の上司の耳に入り、既婚者のTが部下の独身女性に手を出していると言いがかりをつけられ、意に沿わない異動をさせられた。上司が自分のパワハラ行為が表沙汰になるのを恐れて、左遷させたに違いない。女性社員を上司のパワハラから守ろうとしたのだから、正しいのは自分。言ってみれば、自分だってパワハラの被害者だ。会社には異動を取り消して欲しいし、なんとかして上司に謝らせたい、上司こそ処分されるべきだ。とはいえ、Tは、いわゆる「処分」は受けていない。
わたしが、加害者、それも性暴力加害者の聞き取りをやっていると言うと、どうやって加害者に接近するのですか、とよく質問される。自分から話を聞きに行くこともあるけれど、多くは、加害者の方から話を聞いて欲しいとやってくる。ただし、彼らは加害者の顔をして現れるとは限らない。被害者の姿で現れることも珍しくないのだ。
Tの話に相槌を打ちながらも、その語り方に違和感を覚えて、聞いてみた。ところで、パワハラは、彼女から相談されたの?
「いや、見るに見かねて、こっちから。最初は、仕事が終わって食事に誘ったかな。話を聞いて、パワハラに違いないと思って、何かあればいつでも相談してこい、って」
夕食に誘う、職場の部下を上司が。なんだか、嫌な予感がする。
「あとは、彼女が弱っているときに、飲みに誘って愚痴をきいてやったり」
会社の相談窓口には紹介した?
「いや、そこまでは。気分転換させてやるのが一番だと思って」
彼女から、そう言われたの? 彼女に、そう、頼まれたの?
「いや。まあ、ほら、憂さ晴らしさせてやって、また月曜から仕事頑張ろう、って思ってくれたらいいかなーとかさ、ははは」
月曜から、って?
「休みの日にさ、海でも見に連れて行ってやれば、嫌なことも忘れられるんじゃないか、なんて思ってね、誘ったわけ。まあ、それは彼女も遠慮して、断ってきたけどね」
はあ? 休みの日に海に誘うって、それって、完璧に仕事の相談の域を超えてません? 第一、上司のパワハラ問題はどこに行った? それを解決するのが目的だったんじゃ? 相談窓口を紹介もしないで、何がパワハラ相談だ。パワハラに悩んでいる彼女を励ますというのは、彼女を誘う口実なんじゃないか。
「○○してやる」っていう、上から目線の物言いも耳障りなことこの上ない。相手の話をちゃんと聞いているのかも怪しいし、だいたい、彼女が誘いを断ったのは、Tに対する遠慮からじゃないし! 勘違いも甚だしいって。
聞けば聞くほど、Tの言動はセクハラそのもの。左遷云々よりも、むしろ、Tがセクハラできっちり処分されてないことの方が問題に思えてきた。セクハラとパワハラ、この職場、相当にヤバイんじゃないの。
彼女をパワハラ上司から守る、とい言いつつ、彼の語りからは、被害者であるはずの女性の姿が見えてこないのも、不思議というか何というか。彼女がどう思っているかはおかまいなしに、こうに違いないと一方的に決めつけ(気分転換が一番、とか)、なにがしかの行為に誘導し(飲みに誘う、とかね)、状況をコントロールする(相談窓口があるのに紹介しない、とかさ)。主導権を握っているのはいつもT。Tのコントロールできる範囲の中に彼女を閉じ込めた上で、彼女の人生には勝手に侵入している。それが、彼の言う「守る」っていうことなんだろう。彼が作りたい「上司から部下の女性を守っているオレ」の物語には、主体性を持った女性は存在してはならないんだろう。
ちなみに、被害に遭って辛い状況にある女性に、励ますふりをして近寄る加害者は少なくない。よく、被害者になりやすい人がいるからとか、何度も被害に遭う人がいるからといって、被害者(に、なりそうな人)が気をつけさえすれば事件は防げると考える人たちがいるけれど、それは大きな間違い。これは声を大にして言いたい。「弱っている」ところにつけ込む、「弱っている」人を助けている自分に酔う、助けてやる名目であんなことやこんなことをする、そのために「弱っている」人を探す、そっちが問題なんだからね。
気になるのは、パワハラ上司からとセクハラ上司からの二重の被害に遭った彼女のこと。
「あ、辞めたらしい。転職したんだって。やりたいことがあるんだって」
それが本意だといいけれど。そう言ったわたしの意図が分かったか、Tよ。分かるような人なら、セクハラはしてないか。

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牧野雅子

牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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