汗ばんだ肌を合わせていると、ふたりの胸の鼓動がひとつになる。
実花はそのことに至極満足感を覚えながら、祐史の耳元にささやきかけた。
「祐くん、どんな感じがする?」
どこをとっても、きれいに整っている。
それは、この子が若いからだ。四十二歳の実花にとって、同世代のくたびれかけた男たちや、あるいはもっと年上の、自分に食指を向けてくる男たちに比べて、失われた宝石のように貴重なものに見える。
「え、どんなって言われても…」
華奢な首を捩って、祐史は喘ぐみたいに切ない息を漏らす。「いやらしいよ、実花さん…すごくエッチになっちゃいそう」
ふふっと、生温かい息を小作りな耳に吹きかけて、実花はぷるんとおいしそうな耳たぶを噛んだ。
「アッ…」
祐史が思わず声をあげる。
「いやらしいこと、されたい癖に…私のせいになんかしちゃあダメよ」
十四歳年下の彼は、まだ二十代だ。偶然の成り行きで知り合った二カ月前、誘ってもいないのに部屋に付いてきたのも、もちろんセックスへの興味でしかないということを、実花は充分すぎるほど承知している。
とりわけ彼は、女に弄ばれたいタイプの男だった。近頃増加している草食系男子というわけではなく、女への性欲はしっかり表すが、自分は受け身に回って、女からいたぶられたいという欲求が強いらしい。
という本音が、何度か関係を結ぶうちに伝わってきた。かなり年上とわかっている自分に寄ってきたのも、熟女の域に達した女から卑猥なことをされたいという妄想によるもののようだ。
「いやらしいこと、もっとされたいよ。すごく恥ずかしい目に遭いたい…」
高揚のあまり目のふちを薄赤く染めて、祐史は切なく口走る。
シーツの上でなまめかしく脚を絡めながら、実花は彼の股間にそそり立つ肉塊に、自分の恥毛がじゃれつくのを感じていた。
「まぁ、エッチねえ、こんなに大きくしちゃってさ」
男の羞恥をかき立てるように、硬直した勃起に生温かい下腹部を思う存分擦りつけてから、体を起こす。
漲った肉棒を右手でグイッと握りしめ、興奮している若者の目を覗きこむ。生贄を前にしたような笑みを浮かべて、煽情的に尖りたった小さな乳首に、濡れた唇をヤワヤワと擦りつけていく。
「アッ…アアッ!」
祐史が高い声をあげた。
豆粒ほどの乳首を歯で甘噛みし、量感たっぷりに膨れあがった肉竿を手指でしごく。
「恥ずかしいオチンチンね。ヌルヌルがいっぱい出てきたわ」
「アア、実花さんっ! そんなふうにされたら、俺…」
期待いっぱいの声を張りあげて、自分のものになりつつある男が悶えはじめる。
尿道口から溢れでた先走りの液を、実花は指で亀頭一面に広げていった。淫らに弄んで、しなやかな牡鹿のような肉体をくねらせてやる。
(あぁ、早くこの張りつめたモノを、アソコに取りこみたい!)
祐史と逢うたびに、いつだって気持ちが急いてしまう。
気まぐれな年下男から得られる恩恵を取りこぼすまいとするように、あれこれとしたいことがなだれ出てしまうのだ。
「それじゃあ、今度は私のおつゆで擦ってあげようかな、うふっ」
実花は上擦った声で言って、濡れきった秘裂をはちきれそうなペニスに宛がった。
男の顔を覗きこむようにしながら、腰を前後にゆっくり動かしだす。
ぴちぴちに充実した男性自身に、熱を帯びて蕩けた陰裂を押しつけ、緩やかに擦っていく。
「あっ、あぁっ、たまらなくなっちゃう…」
たちまち実花も卑猥な声をあげて、くねくねとヒップをのたうたせた。
実は、実花には定期的なセックスの相手がいる。
六歳年上で今岡といい、セックスに貪欲な男だ。四年前に初めて関係して以来、体の隅々まで丹念な愛撫を受けてきた。挿入での満足感もあり、今に至るまでそれは続いている。
なので、年若い祐史がされたい一方で、女の体を悦ばせることには、とんと興味がないように見えても、「まぁ、いっか」と思えるだけの余裕があった。
今岡という相手がいながらも、祐史を待って胸が焦がれてしまうのは、やはり一回り以上年下の美形の若者が自分のものになりきらないとわかっているからなのだろう。
「あぁん、こうしてると、入っちゃうわ…はあぁっ、もう入っちゃいそう」
濡れ蕩けた膣口がヒクヒクと引きしぼれるのを感じて、実花は性急になった。
女の入口で肉棒の先端を捕えるようにすると、体の動きにつれて自ずと中にめり込んでくる。
そのまま一気に滑りこんでしまうと、どうしようもなく舞いあがり、脳髄まで戦慄が走った。
「あっ、はあぁっ…」
垂直にそそり立った肉杭が、体の芯に填まりこみ、しっかり捕えられている。
はちきれんばかりの亀頭部が、逃れようもなく子宮口に食いこんでいた。衝撃のあまり、わななきながらのけ反っていく。
「あぁっ、すごい…ああんっ!」
際どい感覚を掴もうと、腰が勝手に動きだす。
やがて、無我夢中で腰を揺すりたてるにつれて、形のいい二山の乳房が波打つように揺れはじめた。
(おいしい…なんて、おいしいの!)
体は細身なのにもかかわらず、祐史のペニスはボリュームたっぷりに張りつめる。ユニセックス的な顔立ちとそぐわないように見える男根の見事さも、実花が彼を待ってしまう理由の一つだった。
端整な顔がエロティックに上気しているのを見下ろしながら、うねる膣壁で肉の砲身を擦りあげる。
次第に激しくなって、ヒップを繰りかえし男の下腹部に打ちつけていく。
(まだまだじっくり、これを味わいたい…)
受け身のふりをしながらも、狡猾な若者が薄く開けた瞼の隙間から、こちらを窺っているのを、実花は知っていた。乱れる女体を盗み見られるのに欲情し、ゆるぎなく硬直した男根を味わいつくすように貪る。
一度射精しても、二十代の祐史はすぐに回復する。
そのことがわかっているから、お愉しみはすぐには終わらないと思っているのだ。
(一度出させたら、お次はゆっくりフェラをして…それから、シックスナインに持ち込んで…)
彼の整った顔の上に、ジンジン痺れる女性器を擦りつけて、クリトリスや肉襞を舐めさせることを思うと、実花はわけもなく煽情的になった。
いつのまに雨が降りだしたのだろう? ひとしきり動きつづけて気をやると、柔らかい春の雨音が戸外から聞こえてくる。
実花は、男の細身な胸に崩れ落ちた。
「はあぁっ、すごくいいっ…感じちゃうぅ」
「クウゥッ、きつく締まってるよ…実花さん、たまらないよっ」
切迫しきって喘ぐ祐史の胸板に、乳房を擦りつけるようにして動きつづける。ツンと勃ちあがった乳首が、過敏なまでにわななきだした。
(ああっ、もっとイキたい! とことん際どくなりたい…)
緩やかな円を描くように腰を動かして、実花は年下の男を追いつめた。
「クゥッ、出ちゃうっ、出ちゃうよぉっ!」
ペニスが不規則に収縮するのを感じるとともに、波打つような快感がヴァギナの奥底からせり上がってくる。
蕩けきった膣穴が引きつれて、男を狂おしく締めつける感覚に浸りながら、実花は淫らなまでにヒップをくねらせていった。
【作者プロフィール】
菅野温子:女性目線の表現にこだわる官能小説家。著書は「溺れてしまう」 双葉文庫 2008、「次々と、性懲りもなく」 マガジンハウス文庫 2009、「ときめき志願」 双葉文庫 2010 など多数。