教育研究全国集会に参加してきた。今回は北九州だった。これまで数回参加したことがあるのだが、その度、地元紙を購入して教育研究集会の記事をチェックし、場合によっては、後日生徒にも伝えてきた。今回もそうするつもりで、初日の全体会の翌朝、早起きしてコンビニエンスストアへ。
朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、西日本新聞。店頭に置いてあった一般紙を全て購入し、ホテルに戻って研究集会の記事を探した。朝日新聞の西部本社は北九州市にあるから、きっと大きく取り上げられているだろうと期待して。
ところが、朝日新聞では「日教組? 北九州で教研集会」の小さな見出しに続いてほんの数行、「日本教職員組合の第68次教育研究集会が始まった。3日までの日程で延べ約1万人の教職員がテーマ別の分科会に参加する・・・」とだけ報じられ、全体会の様子については、一言もなかった。
毎日新聞と読売新聞では記事そのものを見つけることができなかった(見落としたのか。毎日新聞ではネットニュースには流れていたようだが)。産経新聞もネットのニュースには掲載していた。
一番大きく取り上げていたのは、西日本新聞だった。その西日本新聞でさえ、「外国籍生徒? 指導法探る」の大きな見出しで「国際連帯・多文化共生の教育」分科会は大きく取り上げられていたものの、全体会の内容については、全く触れられていなかった。
教育研究集会の全体会スローガンは「平和を守り、真実をつらぬく民主教育の確立」、テーマは「憲法・子どもの権利条約を生かす教育改革を実現するため、ゆたかな学びを保障するカリキュラムづくりをすすめる」だった。
「平和」も「憲法」も、一言も新聞記事にならなかった。この国の報道の自由度は、地に落ちているのではないか。
街宣車もほとんどいなかった。これまで参加した教育研究集会では、街宣車が数多く集まり、全体会周辺は、物々しい雰囲気に包まれていた。参加した分科会の会場の建物の周りを街宣車がぐるぐる回り、嫌がらせのように大音量で読経を流されたこともある。
しかし、今回は、あまりに静かだった。
「あぁ亡国の・・・」と大見出しをつけて分科会の発言内容まで詳細に報道していた『週刊新潮』も、今回は取材に来なかったという。
2000年代前半に、教育基本法改悪反対集会を何万人規模で開催しても、ほとんど報道されなかったことを、ふと思い出した。当時、テレビのニュースでも、新聞でも、教育基本法改悪反対は、「なかったこと」にされていた。そして、教育基本法は2006年に「改正」された。
もしかしたら、「憲法改正に反対する動きは報道しない」「世間に注目させない」キャンペーンが、既に始まっているのかもしれない。ラグビー・ワールドカップと東京オリンピック・パラリンピックのどさくさに紛れて、憲法「改正」は一気に加速するだろう。昨年、サッカー・ワールドカップとオウム真理教元幹部の死刑執行に乗じて、水道法の「改正」を進めたように。
開催地の北九州で、取材に来ていた某新聞社の記者と飲む機会があった。その記者は、全日本教職員組合の教育研究集会の取材もしたことがあると言っていた。日教組の教育研究集会と比べた時の印象を尋ねると、「日教組のほうが、やわい」と語った。同感だ。
日教組よ、目を覚ませ。危機感がなさすぎる。教育研究集会の討議の柱に、「『改正』された教育基本法の影響」を踏まえた柱は一つも見当たらない。全ての分科会に、そのことを念頭に置いた議論が必要だ。
今回、生徒卒業前の「自宅学習期間」に入る直前の大掃除を、副担任に任せて教育研究集会に参加していた。教育研究集会が終わった次の日の朝、教室に行ってみた。生徒のいない、がらんとした教室。床がきれいに磨き上げられ、窓ガラスもきれいになって、掲示物も全て撤去されていた。ゴミ箱の中身も空っぽだった。
掲示物の中に、2019年のカレンダーが二つあったのだが、そのカレンダーもなくなっていた。まだ1月しか使っていないのに、カレンダーはどこへ行ったのか。慌てて副担任に聞いた。行方不明のカレンダーは、島田ゆかさんの「バムとケロのカレンダー」と岩合光昭さんの「憲法九条いぬねこカレンダー」だ。
副担任曰く、「さぁ……掲示物は全て撤去しろと言っただけなので、もしかしたら、捨てたのかもしれませんねぇ。」
1カ月しか使っていないカレンダーを捨てるだろうか。全て撤去しろと言われて、捨てるのはもったいないと思って、カレンダーを持って帰った生徒がいたかもしれない……いや、もしかしたら、憲法九条がゴミとして捨てられたのかもしれない。
複雑な気持ちで、一縷の望みをかけて、ゴミ収集所に行ってみた。大掃除の後らしい20袋以上の大きなゴミ袋が、ゴミ収集所に積み上げられていた。憲法九条を救出すべく、ゴミ袋を一つひとつ開いて汗だくになりながら、調べていった。
自分のクラスのゴミ袋をようやく見つけた。その中に、「バムとケロのカレンダー」も「憲法九条いぬねこカレンダー」も、きれいな状態で入っていた。ゴミ収集車に運び出される前に、ゴミ袋の中から見つけ出せてよかった。憲法九条の危機を象徴するかのような出来事だった。
今回の教育研究集会でリポーターとして報告したのは、次のような内容だ。生徒に持たせている漢字の問題集に軍隊用語が多用されていること。現代文の教科書には、「伝統文化の尊重教材」が数多く含まれ、「家父長制」を学ばせる記述や少子化対策のための「動植物の繁殖活動」が盛りだくさんであること。小論文のテキストには、安倍政権を支持する思考回路になるような説明がなされていること。
その傾向は日本語教育だけにとどまらず、数学ではグラフの単元で「少子化が進んでいるグラフ」が掲載され、化学の教科書には、幼子と女性のブロンズ像の写真が掲載されている。いま目の前にいる生徒たちは、小学生の頃からずっと、教育基本法「改正」後の教育を受けてきている。
軍隊用語に親しまされ、常に繁殖を意識させられ、家父長制を学んでいる生徒に対して、「仕事もするし家事もする。労働者としての権利を行使し、豊かな人生を送る」ことをめざした「巣立ち講座」を行なってきた。そのことを一人でも多くの仲間に情報発信しようと、今回参加した。
憲法九条カレンダーを救出できたように、「改憲」の動きをストップさせられる一助となれば幸いである。