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映画・ドラマに映る韓国女性のリアル (22) 済州の女性の一生描いた「おつかれさま」大ヒットの理由 

成川彩2025.04.11

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3月7日から配信が始まったNetflixシリーズ「おつかれさま」の韓国での反響がすごい。会う人会う人、このドラマの話で、メディアでも連日報じられている。配信当初はIUとパク・ボゴムのポスターを見て男女のロマンスかと思ったが、激動の現代史を背景に済州島で生まれ育った一人の女性を描いたドラマだった。ロマンスよりもむしろ母と娘の物語に主軸があり、幅広い世代の胸を打った。

「おつかれさま」の韓国語のタイトルは、「폭싹 속았수다」。私は「すっかり騙された」という意味だと思い、何に騙されたのか?と思いながら見ていたら、日本語のタイトルが「おつかれさま」となっているのに気付き、調べてみた。済州島の方言で「本当におつかれさまでした」という意味だそうだ。韓国の人でも私と同じように勘違いしている人は多かった。そのくらい、済州島の方言は、標準語とかけ離れている。



主人公のオ・エスンが生まれたのは1951年。済州島の最大の悲劇は1948年4月3日の島民の蜂起を軍や警察が弾圧する過程で多くの島民を虐殺した済州四・三事件だが、「おつかれさま」ではその後の済州が描かれている。貧しさの背景には、済州四・三事件の影響もあっただろうと思う。

「おつかれさま」を見ながら、これは女性版『国際市場で逢いましょう』(2014、以下、『国際市場』)だと思った。映画『国際市場』は1950年に勃発した朝鮮戦争で北から釜山へ逃れた男性の一生を描いた。実際に起きた事件を絡めながら男性と家族の物語を描いた点でよく似ている。釜山が位置する慶尚道は比較的男尊女卑の文化が残っているとされ、逆に済州島は海女に象徴されるように女性が働き者で、元気なイメージがある。

Netflix © 2025

『国際市場』は観客動員数1426万人を記録し、歴代韓国映画で4位の大ヒット作だ。「おつかれさま」はNetflixオリジナルの作品でテレビで放送されていないので視聴率は出ないが、韓国にいる体感としては、韓国ドラマ史に刻まれる大ヒットだ。現代史にしても、家族の物語にしても、男女のロマンスにしても、誰もがどこか琴線に触れる部分のある作品なのだろう。「号泣した」という人も多く、泣くまいと覚悟して見たが、毎回泣いてしまった。

 新たな配信方法も功を奏した。全16話を毎週4話ずつ4回に分けて配信するという方法で話題作りに成功した。続きが気になって盛り上がっている間に次の4話が配信という絶妙なタイミングだった。

Netflix © 2025

母と娘の物語が主軸というのが象徴的に表れていたのは第1話の冒頭、年老いたエスン(ムン・ソリ)が海に向かって「母さん!」と叫ぶシーンだ。エスンの母(ヨム・ヘラン)は、海女だった。ドラマ「私たちのブルース」(2022)「サムダルリへようこそ」(2023~2024)、映画『密輸 1970』(2023)など、近年ドラマや映画でよく海女が登場し、いずれもヒットしている。

エスンの父はエスンが幼い頃病気で亡くなり、母が海女の仕事で何とか子どもたちを育てていたが、無理がたたったのか、母もエスンが10歳の時に亡くなってしまう。早くに死別した母をエスンは一生心の拠り所にして生きた。これもまた『国際市場』の主人公と父の関係と共通する部分だ。

エスンは詩が大好きな文学少女だったが、10歳から働かざるを得なかった。だが、いつも隣にはヤン・グァンシクがいて、エスンを優しくサポートする。若きグァンシクを演じたのが、パク・ボゴムだ。

Netflix © 2025

母と娘の物語というのは、エスンと母の物語であり、エスンと娘の物語でもある。若きエスンを演じたIUは、一人二役でエスンの娘クムミョンも演じた。クムミョンは貧しいながらも愛情いっぱいに育てられ、エスンの夢だったソウルの大学に進学する。それも韓国最高峰のソウル大学だ。だが、時代は若者に背を向ける。1968年生まれのクムミョンは、大企業に就職するが、1997年のIMF通貨危機のあおりを受けて失職する。

クムミョンもやがて結婚するが、その相手は誰か?というのはなかなか明かされず、続きが気になって仕方がなかった。これも大ヒットドラマ「応答せよ」シリーズ(「応答せよ1997」「応答せよ1994」「応答せよ1988」)の手法と似ていた。

Netflix © 2025

『国際市場』から進化した点といえば、『国際市場』は父が長男に家族を託す家父長制を描き、主人公である長男が自分の夢を犠牲にして家族のために献身する物語だった一方、エスンは家族に尽くしながらも自分の夢をあきらめず、ついに叶えるところだ。それを誰よりもグァンシクが喜んだ。

 これまでの大ヒット作の要素をうまく取り込みつつ、3代にわたる女性の物語を紡ぎ、韓国ドラマの新境地を切り開いた「おつかれさま」。ムン・ソリ、IU、パク・ボゴムをはじめ主演俳優たちの演技もさることながら、個人的にはエスンの母役のヨム・ヘランの熱演が刺さった。ヨム・ヘランは4月3日にクランクインしたチョン・ジヨン監督の映画『私の名前は(原題)』で主演を務める。済州四・三事件を描いた映画だ。

写真提供:Netflix © 2025 Netflixシリーズ「おつかれさま」独占配信中

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成川彩

成川彩(なりかわ・あや)

韓国在住文化系ライター。2008~2017年、朝日新聞記者として文化を中心に取材。2017年から韓国に渡り、ソウルの東国大学大学院で韓国映画について学びつつ、フリーのライターとして共同通信、中央日報など日韓の様々なメディアに執筆。2020年からKBS WORLD Radioの日本語番組「玄海灘に立つ虹」で韓国の本と映画を紹介している。2020年、韓国でエッセイ『どこにいても、私は私らしく(어디에 있든 나는 나답게)』出版。

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