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中絶再考 その46 「中絶を規制しない」という選択肢——カナダのモデルから考える

塚原久美2025.03.24

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 中絶をめぐる議論って、「どこまで認めるべきか」とか「何週目までOKか」とか、どんなルールを作るべきかという話になりがちですよね。でも、そもそも 「ルールを作らない」という選択肢もあるんです。

 たとえば、現在、カナダには中絶を制限する法律が存在しません。1988年に最高裁判所が「中絶を制限する刑法は違憲」と判断して以来、法律による規制はすべて撤廃されたためです。でも、それで混乱が起きているかというと、そんなことはなく、中絶率も長らく低下傾向にあります。

 「中絶は法で規制すべきものじゃない」というカナダの考え方、私たちももっと真剣に検討してみてもいいんじゃないでしょうか?

中絶を「関係性」で考えると、ルールはいらなくなる?

 哲学者の マーガレット・オリビア・リトル は、「中絶の道徳性は、胎児の権利vs.女性の権利、みたいな単純な話じゃない」と言っています。彼女によれば、妊娠は当事者である「女性と胎児の関係性」 の中で考えるべきものだというのです。

たとえば、同じ10週目の胎児でも、
 「ずっと欲しかった赤ちゃん」として迎える女性にとっては、すでに大切な存在かもしれないし、
  「予期しない妊娠」に戸惑っている女性にとっては、まだ自分のからだの一部としか感じられないかもしれない。
 
 つまり、胎児の「価値」や「道徳的な意味」は、それを宿している女性との関係の中で決まるのです。だから、国家や他人が「胎児にはこの週数から権利がある」とか、「この時点での中絶はダメ」とか、一律に決めるのはおかしい。ある妊娠で生じる胎児と女性の関係性は人それぞれなのに、みんなに同じルールを押し付けるのは、理にかなっていませんよね。

カナダの中絶政策ってどんな感じ?

 カナダでは、1988年の最高裁判決で「中絶を規制するのは憲法違反」とされ、それ以来中絶を制限する法律はなくなりました。

 「法律がないってことは、無制限に中絶が行われるってこと?」と思うかもしれませんが、実際にはそうなっていません。むしろ、次のような形で医療の枠組みの中で適切に管理されています。

✅中絶は他の医療行為と変わらないものとして扱われ、法律ではなく医療ガイドラインと倫理に基づいて提供される。

✅ 妊娠後期の中絶はめったに行われていない。ほとんどの中絶は妊娠12週以内。20週以降の中絶は、胎児の重篤な異常や母体の健康問題など、医学的にやむを得ないケースに限られる。

✅ 安全な医療環境で中絶が行われるため、リスクが低い。法規制があると、非合法な方法に頼る人が増えるけど、カナダでは安全な中絶が確保されている。

 つまり、法で厳しく規制しなくても、中絶のあり方はちゃんと医療の中でコントロールされるということが、カナダの例からわかります。

法律がないことで生じる問題は?

 もちろん、「法律なし」のアプローチにも課題はあります。

* 地域による格差
    カナダでは、法的に中絶は自由だけれども、中絶を提供する医療機関が少なく、アクセスが難しい地域もあります。

* 社会的な偏見
    法律で禁止されていなくても、「中絶=悪いこと」と思う人が多い地域では、医師が中絶を拒否するケースも起きています。

* 「中絶の乱用」の懸念
 「法律がないと乱用される?」という心配はいりません。むしろ、何も制限がないために中絶のタイミングは早まっています。中絶に関する教育や情報提供の充実も、早期化に拍車をかけています。


「ルールを作らない」ことが、自由と安全を守る

 中絶の議論って、「どこまで規制すべきか?」ばかりが問われがち。でも、カナダの例を見てみると、「規制しない」という選択肢も十分に機能することがわかります。

 そもそも住む国によって、てんでばらばらに、「6週/10週/14週/20週/28週までなら中絶可能」「この理由ならOKで、こっちはダメ」などと変わってしまうのは不条理ではないでしょうか?  妊娠を続けるかどうかは、女性と胎児の関係性の中で決まるもの。そこに国家が一律のルールを作る必要なんてないのです。
 
  もちろん、社会的なサポートが必要な場面もあるし、課題がゼロだとは言いません。でも、「法律がないと大変なことになる」ではなく、「規制しないことで、むしろ自由と安全が守られる」可能性もあることは、もっと議論されるべきじゃないでしょうか?

法律で人を縛るのではなく、必要な人に信頼できる医療とサポートを提供する社会のほうが、よっぽど健全だと思いませんか?
この問いを、今こそみんなで考えたいと思います。

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塚原久美

塚原久美(つかはら・くみ)

中絶問題研究者、中絶ケアカウンセラー、臨床心理士、公認心理師

20代で中絶、流産を経験してメンタル・ブレークダウン。何年も心療内科やカウンセリングを渡り歩いた末に、CRに出合ってようやく回復。女性学やフェミニズムを学んで問題の根幹を知り、当事者の視点から日本の中絶問題を研究・発信している。著書に『日本の中絶』(筑摩書房)、『中絶のスティグマをへらす本』(Amazon Kindle)、『中絶問題とリプロダクティヴ・ライツ フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房)、翻訳書に『中絶がわかる本』(R・ステーブンソン著/アジュマブックス)などがある。

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