
今日は水曜日。祝日でもなんでもないが、我が子は家で幼稚園のお友達と遊んでいる。二人で仲良く遊んでくれているので、私はこうやってコラムを書くことができている。ありがたや。ってイヤイヤ、違う!
一昨日の月曜日に幼稚園から「いつもの」要請が来た。「明日は保育士不足の見込みにより、半分のクラスを閉鎖します。残り半分のクラスは登園できません」我が子のクラスは登園できたが、これは交代制なので、次回の要請の際は我が子のクラスが登園できない。そして昨日の火曜日の午後に幼稚園から来た通知は「明日と明後日も、登園は半分ずつになります」
我が子に聞けば、彼女のクラスの保育士の一人は今週いっぱい病欠だそうだ。そして他にも病欠か有給休暇の予定の保育士がおり、パートタイムで来ている保育士や研修生では回せない状況なのだろう。ドイツの保育園や幼稚園は保育士一人当たりの子どもの割り当ての数が、州ごとに違いはあれど、法律で絶対数が決められており、それを超える子どもは預かることができないことになっている。
このコラムでも何度も書いたが、元からの保育士不足に加え、有給を各人が重ならないように取るなどの調整はせず、さらに風邪やインフルエンザが流行っているとはいえ、医者から病欠届を書いて貰えば1週間の休みはすぐに取れる。1週間も休むなんて、そんな酷い風邪なのね!と日本人の私なら思うが、教師をやっている知人友人の話を聞いていると、咳が出て、とか、体がだるくて、という理由ですぐに1週間の休み、それをさらに延長することもしばしばらしい。学校教師をパートナーに持つ日本人の友人は、日本ならあれくらいじゃ休まないわよ、と呆れていた。ちなみに現在病欠中の我が子のクラスの先生は30代前半の副園長なのだが、ちょうど一年前も何週間も休み、重病説が囁かれたが、実際は父親が病気で看病がという理由だったらしい。その時は「お気の毒に」と保護者たちから気遣いの声が上がったが、その他にも年間通して、姿を見かけないこともしばしばなので体が弱いのかなと思ったりもしたが、我が子曰く、趣味でチアリーディーングクラブに入っている、普段は溌剌としたスポーツウーマンタイプである。まあ、お大事に……。
そういうわけで我が子は今週、週3日の登園が決定し、そして先週は週2日であった。先週は金曜日が元々「保育士の研修日」という名目で閉園が予定されており、さらに週明けからまた病欠などの保育士不足で半分クラスが閉鎖し、さらに木曜日は労働組合主導のストライキで完全閉鎖であった。開いた口が塞がらないとはこのことである。中には最初から1週間子供の欠席を宣言した保護者もいたが、我が家はそうはいかない。
これもコラムでたびたび書いたが、この病欠と有給休暇が重なって起きる保育士不足すなわちクラスの閉鎖や自宅待機要請は数週間毎に起きる。それも突如、前日などに通知が来る。保育が必須の家庭は園と交渉して空きがあれば預けることもできるが、絶対ではない。だから園からは「譲り合いをお願いします」とお願いが来る。皆さん「理解がある」ので、保護者のグループチャットには「うちは今日は登園控えます」という連絡が飛び交う。今日の我が家のようにママ友パパ友同士で預け合いすることもあるが、親が有給休暇を取って面倒を見ざるを得ない時もある。またはホームオフィスに切り替えるとか。ホームオフィスが可能になった時代なのはありがたくとも、我が家のようにフリーランスで代わりがいない仕事や出張があるとそうはいかない。そもそも、保育士が有給休暇を取るために親が有給休暇を取らなければならない状況を保育士たちはどう思っているのだろう。いや、思うわけないか。だって「労働者の権利は守られるべき。特にエッセンシャルワーカーは大事にされるべき」と思ってるもんね。
私だって3年前はそう思ってた。保育士さんたちは大変だもんね、理解しなきゃ、協力しなきゃ、と思ってきた。でも毎回「これで労働条件が改善されると思うから、向こう何年かはストライキはありませんよ」と園長たちは言っていたのに、結局ストライキは毎年起きた。戦争などで物価高になったし、という理由だそうだ。でも私たち労働者のすべての給与や報酬が上がるわけではない。そして彼らの給与が上がれば、それは税金やどこかの物価に上乗せされて、結局は私たちに振りかぶってくる。私たちにとっては二重苦である。そこに保育園閉鎖とか、三重苦じゃん……。
去年のストライキの時、ふと疑問に思って、保育士の給与の全国平均を調べてみて驚いた。その頃で3千ユーロ前後だっただろうか、別に低賃金ではない。手取りになると減るのは皆同じだし、確かに子どもの保育はなかなかエネルギーのいる仕事だが、労働時間も休暇も保障されている仕事でこの報酬額だったら待遇がひどいとは全く思えなかった。
そして度重なる保育士の有給休暇や病欠によるクラスの閉鎖に、正直、不信感が募っていったところの、先週のストライキである。この人たちは一体これ以上何を望んでいるというのか?
先週末、近所に住む我が子の友達が遊びにきた。一緒に来たその子のパパともその話題になる。その子も別の市立の幼稚園に通い、我が子の園と状況はほぼ同じである。修理工として働くそのパパはこんな話をしてくれた。
子どもを迎えに行った時、園長がさ「明日は病欠が増えて休園になると思うので、そのつもりでいてください」と言うんだよ。で、俺は言ってやったよ。明日は病欠が出るって、すでに今日のうちにわかるんですか?自由資本主義の社会で、もうそんなことがわかるなんてこと、あり得るんですか!?ってさ。そうしたら園長は目をクルクルさせて、何も言えなかったよ。いいか、俺は寒くて湿った天気の日でも、外で仕事をしているんだ。俺の会社でも病欠が多い。皆すぐ休むけど、俺が休めば他に代わる人がいない。なのに彼らときたら、あたたかい屋内で決まった時間だけ仕事をして、有給休暇もあれば病欠もできる。給料だって安くはない。俺が知ってるシングルマザーの保育士は何度も海外に家族旅行に出かけてるよ。保育士にしろ、交通機関の社員にしろ、権利が守られている安定した職業なんだ。他の職業はいつ首斬りに合うかわからない自由資本主義のリスクを背負って働いているからその分高報酬なのであって、保障のある職業の人間まで同じレベルを求めるなんて理にかなってない。そんなシステムが成り立つわけがないじゃないか!でも気づいてる?ストライキをやるのはいつだってこの安定した職業の人間なんだ!!
と、「激おこ」である。マトを得ている話に共感するけど、私は怒るエネルギーすら失せてきた。
一年半前、同じクラスのママ友と共に市に嘆願書のメールを出したこともあった。その時もその前も行政の返事は「保育士不足の問題解消のためにあれこれ動いていますので、もうしばらく辛抱とご理解をお願いしたい」。でも状況が改善される兆しはいまだ見えず、それどころかひどくなるようにすら思える。それに我が子がこの幼稚園に通うのも正味、あと5ヶ月ほど。それまでにこの状況が改善されるとは思えない。だから、辛抱しよう。このままやり過ごしていけば小学校入学だ。
そう思っていたが、先週の連続休園に入る前日、2年前に小学校に上がった、同じ幼稚園だった親子と帰り道が一緒になった。今週もまた保育士不足で閉鎖なの、とため息をつきながら私はそのママに、小学校はそんなことはないでしょ?義務教育だから子どもは休ませられないし、教員も公務員だからストはないものね(ドイツの公務員は法律上、ストライキができない)と言ったら、「いやいや、それが、先生不足が起きてるのよ。先生が1週間の病欠で、そのせいで子どもはドイツ語の授業が受けられないまま、代わりに生物と数学だけ、とかね。」彼女は夫婦揃って移民してきた家族なので、ドイツ語の授業がないのは子どもに大きな影響が出ると余計に心配しているのだ。
ええー、小学校でもそんな問題が起きてるの??なんてこった……。
もちろん病欠は認められなければならない権利である。しかし、実は昨年、大手メーカーの社長たちが複数、この数年、社員の病欠届の件数がやけに多いと経済会議で発言した。こんなことを公に言うのは珍しい。それは社員たちの体調不良が多くなったという傾向があるのか、それとも別の理由があるのか。いずれにせよ、会社の経営に支障をきたすほどの数だという指摘である。ズバリ「ドイツ人が怠け者になった」と言う人も、ドイツ人外国人含めて、私は複数知っている。うーむ。
さて、この原稿を仕上げている本日は木曜日。我が子のクラスが登園の番なので、すでに出掛けていった。明日はどうなるのか、まだ園からの連絡待ちである。そして昨日の夕方の時点で、金曜日は近郊の公共交通機関のストライキが予定されていると発表になった。ということは、「通勤の足がないので欠勤します」という保育士が出てくる可能性はあり、となるとまた保育士不足による閉鎖になる可能性もある、と、我が家で預かっていたお友達を迎えにきたパパ友とお互いうんざりした顔で情報交換した。
今週末の連邦選挙を前にしたストライキなのだと思うけど、ちっとも共感できない、自分の生活の外側のストライキなのだった。
©︎: Aki Nakazawa
というわけで2月23日は連邦議会選挙でした。写真に映るのは、ストライキを主導する労働組合Ver.di(ヴェルディ)の事務所が入る建物の前の大型掲示板に「Wahl-O-Mat、やってみた?」というスローガン。ドイツでは大型選挙の前にWahl-O-Mat(ヴァール・オ・マート)という、アンケート形式の質問に答えていくと、自分の考えの傾向がどの党のマニュフェストに該当するのかを教えてくれる、投票支援オンラインツールが提供され、選挙権があってもなくても、誰でも試してみることができます。今回の選挙結果は事前の予想とほぼ同じ結果。最大野党である保守のCDUが第一位で続く二位は極右政党のAfD。現政権を率いたSPDは支持票をかなり失い、差を大きくつけて三位。でも極右政党を政権に入れるわけにはいかないと、おそらくCDUとSPDの大連立になることが予想されています。これはかつてのメルケル政権と同じ組み合わせだけど、移民を受け入れる統合社会を目指したメルケル元首相に対して、現CD党首のメルツ氏は移民制限を提案する保守派です。そして第二位に支持率を伸ばしたAfDも政権に入れなければそれはそれで、支持者の不満が新政権へと向かうだろうなと、混乱は続くことは必須。いずれにしてもこの前倒しになった選挙でこの社会の状況が良い方向へ変わるのか、というと、全然期待が持てない、というのが正直なところ。政治もそうですが、このインフラ崩壊を眺めていると、そもそも社会の構造や価値観がこのような状態では、次にやってくるのは相当厳しい時代なのでは、と思わざるを得ません。子どもを抱えてどのようにその時代を生きていくべきか、そんなことを考えてしまうこの頃です……。あ、来る水曜日も保育士のストライキが予定されてるって、週末、耳にしたっけ……。はあ〜(ため息)。