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医療の暴力とジェンダー Vol.36 戦争と医療と私の娘

安積遊歩2025.02.07

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なぜ戦争が起こるかと言えば、人間の凄まじい欲望によってだ。その中で、神の概念が生まれ宗教が広がってきた。人間と他の生物を分けるものは、この巨大な欲望だ。

人類の始まりは生存欲というだけで、それは他の生き物ともそれほど違わなかっただろうけれど、生存欲の中に所有欲と支配欲が生まれた。人類の前に地球を支配していたと言われる恐竜たちは、欲望というより本能と呼ばれるものだった。彼らはどんどん巨大化して絶えず争い続け、多分自分たちの時代を自分たちで滅ぼしあって終わらせたのかもしれない。

また、地球外から隕石が飛んできて突然恐竜の時代が終わったという説もある。まだまだ科学だけでは証明できていない。私たちが向かっている人類の終焉はどうなるだろう。西暦で2025年、紀元前も入れれば10000年にもならない近代の人類の歴史。そんな中私は今南半球にいてこれをかいている。

近代の人類の歴史で忘れてならないのは、先住民の人々の歴史だ。オーストラリアのアボリジニの人々の歴史は、洞窟に残された絵画から数万年とも、あるいは考古学者によっては10万年とも言われている。日本の縄文時代やさまざまな先住民の歴史はまだまだ語り尽くせていない。先住民の歴史を知ることは、冒頭に書いたようにこの近代の凄まじい所有欲や支配欲に抗うためにも必要だ。

近代においては所有欲と支配欲が科学の発展と相まって、巨大な争い、戦争を何度も何度も引き起こしてきた。

先日オッペンハイマーというNHKの番組を前編だけ観た。人類の終焉をもたらすことも可能な核を作り出した人々。その中の中心人物を描いたものだった。人類の終焉を近々に可能とするものを作り出したという自覚はその製造のプロセスの中には限りなくなかったようだった。全ての私たちが持っている欲望の正体をさらに考えさせられた。

つまり私たち個人個人は、常に自分の人生ということでものを考える。ほとんどの人は自分が人類の一員で、自分の人生と他の人の命が繋がってあるものだなどという考えはほとんどない様に見える。特に日本に住む人々は、目先の所有欲と支配欲に翻弄されている。この社会システムは、経済至上主義が中心で、資本こそが正義となっている。

つまりその構造の中で、なんとか人類の終焉を回復しようと生まれた人権やデモクラシーの理念は、あまりにも深化していない。21世紀になっても愚劣な戦争は繰り返され、敵と見做した人たちの命を奪うことを、是とする欲望を止められない。

戦争は人類という集団で考えれば常に破滅への確かな一歩である。しかし今日ここで書きたいのは、娘を医療から自由に育てたこと、そこで得た平和だ。現在の医療の有り様は、個々人の身体をお金儲けのマーケットの様に使っている。経済の攻撃が個々人の身体に及んでいるのだ。個々の人間が医療を使って様々な身体改造を試みていること。それが少しでも長く生きたいという素朴な生存欲を消滅させて、人類の終焉を早めていると私には思える。

特に私は人の身体と違った身体を持って40歳で思いがけず同じ身体の特質を持つ娘も産んだ。この奇跡のような人生を応援してくれたのは、私の生存欲というよりは、デモクラシーと人権意識である。

娘を産んでから、私は出来る限り医療と関わらないようにしてきた。それは戦後のデモクラシー教育が少しは功を奏していたからだ。そのうえ、障害者運動の中での新生児は最重度の障害者と同じ存在と言われていたから、彼女には一切の競争原理を伝えずに済んだ。

私は、彼女が言葉で何かを要求しなくても、1人の人権のある人として、幼児期の間存在を無条件に尊重し続けた。「人に迷惑をかけるな」とか、「1人でやりなさい」とかを言わずに、多くの若い20代の仲間を招いて彼女を育てた。特に私たちの身体につきものの骨折が起こっても、彼女の意志を尊重して彼女を病院には連れていかず、自然治癒力で回復するのを見守った。また、さまざまなワクチンが保健所から案内されたが、強制ではないことを知っていたので、ワクチンは選びに選んで数回打っただけだ。

現在彼女はダニーデンにいて、障害者の権利条約をニュージーランド政府がきちんと履行しているかを調査している研究所に勤めながら、大学院にも行っている。その他にも、さまざまな活動をしている。その中で私も参加できる活動を彼女に誘われて参加してきた。ダニーデンの心ある人たちが、パレスチナ解放を訴えて一昨年から毎週ラリーをしていた。今回もそれに私も参加した。娘がさまざまなプランを私に考えてくれた中で、毎週参加しているこのデモ行進に一緒に行った。デモの前半私はこぼれる涙を抑えきれなかった。

私は常に平和を求め続けている。私の身体は平和の中でしか生き延びれないからだ。生まれた時から、最重度の新生児であった時から娘に、そのままの身体が最高なのだと言い続けてきたことが、この様に大勢の人々と手を組んで堂々とパレスチナへの攻撃を止めようとしていること。

私と娘以外車椅子の参加者は今回はいなかったが、人口4〜5万人の街ダニーデンで、毎週少なくても50〜60人の人々と戦争反対を訴えている娘。障害を持つ人として、自由と平和をさまざまな形で希求し続けている娘。自分の欲望にお金やエネルギーを使うのではなく、人類、さらに言えばのすべての地球上の生物のために戦争をやめようとお金やエネルギーが使われることを願って止まない。

※ニュージーランドにて

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安積遊歩

安積遊歩(あさか・ゆうほ)

1956年2月福島市生まれ
20代から障害者運動の最前線にいて、1996年、旧優生保護法から母体保護法への改訂に尽力。同年、骨の脆い体の遺伝的特徴を持つ娘を出産。
2011年の原発爆発により、娘・友人とともにニュージーランドに避難。
2014年から札幌市在住。現在、子供・障害・女性への様々な暴力の廃絶に取り組んでいる。

この連載では、女性が優生思想をどれほど内面化しているかを明らかにし、そこから自由になることの可能性を追求していきたい。 男と女の間には深くて暗い川があるという歌があった。しかし実のところ、女と女の間にも障害のある無しに始まり年齢、容姿、経済、結婚している・していない、子供を持っている・持っていないなど、悲しい分断が凄まじい。 それを様々な観点から見ていき、そこにある深い溝に、少しでも橋をかけていきたいと思う。

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